【美大職員に美術の知識は必要?】大学職員になろう3

2022年4月26日(火)今日の表紙は東京造形大学

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大学職員・美大職員についてシリーズで書いています。
これまでの話はこちら↓
【実は隠れた人気業種】君も大学職員になろう1
【美大卒美大職員は意外と少ない】君も大学職員になろう2


今日も「美大職員」について書きます。

前回の記事で「美大職員に美術・デザインの知識はいらない」と衝撃なコメントを残しましたが、今回は「とはいっても」、という話。
 

現在ムサビやタマビが専任職員を募集してますが、どちらも「●●課の職員」という形でやってません。採用されてもどの部署に配属されるかは全くわからないし、勤務先も鷹の台かも吉祥寺かも市ヶ谷かも八王子かも上野毛かもわかりません。
てことは、いきなり配属先が美術・デザインに関係する仕事、もしくは知識があった方がいい業務かもしれないのです。なんだかんだ美大なので、そういう仕事も存在します。
美術館の学芸員などは別にして、広報課と就職課と産学連携・社会連携系部署などがそれです。

  
広報課へ配属された場合、


  • 入職して2年だけど、力強い存在

美大の代表、大学の営業としてその場にいる以上、「美大卒じゃないんで美術のことはよくわかりませーん」なんて言えるわけがないのは、会社の営業に置き換えればわかるはず。
また、進学相談会で高校生が「グラフィックデザイン学科を目指してるんですけど」とやってきて、「ム、ムサビは視覚伝達デザイン学科だけどね(苦笑)」といいつつ話をじっくり聞くと、本当にやりたいこと、興味があるのはグラフィックデザインじゃなかったりします。高校生は選択肢を知らないだけなので、「グラフィックもいいけど、もしかしてクリエイティブイノベーション学科の方があなたには向いてるかもよ」等とアドバイスすることもしばしばあります。
高校生の視野を広げてあげるのも広報の仕事で、そのためには自分の視野も広くないといけない。つまり大学のこと以外に美術・デザインのこともある程度わかってないといけない。


「企業で働いてたし就活もやったから、キャリア系なら学生にアドバイスできる」と思ってても、美大はこれまでの人生で全く考えてこなかった業種や会社名ばかり。
博報堂や電通などのクリエイティブ職なら知識を総動員すればなんとかなりそうだけど、デザイン会社だったり、・・あ、「造形屋」なんて典型例かもしれませんね。
エヴァンゲリオン×御殿場プレミアム・アウトレット 御殿場補完計画 | WORKS | R-STYLE

これは手羽の先輩が関係してる会社の製作物なんですが、こういうものって粘土なりの原型が必ず必要なんです。ディズ●ーランドの園内に飾られたミッ●ーの像なんかも全てそうで、それを作ってるのが「造形屋」さんという仕事。あれを全部人が作ってる、そして多くは美大卒業生が関わってるとは今まで考えたこともなかったでしょ?(笑)
そういう進路を相談した学生さんにどうアドバイスをするか。
 
大学職員という仕事は全般的に結果・目標が見えにくい業種だけど、その中で唯一就職課は「学生が就職」「就職したら喜ばれるし、嬉しい」というわかりやすい「成果」「モチベーション」が出やすいので就職課を希望する方も多いです。
でも裏を返すと「学生の就職」という、学生サービス業務の中でも1,2を争う責任がある部署なので、美大の就職課に配属されたら美術・デザイン業界のことを1から勉強しなくちゃいけません。
学生さんは専門家だと思って相談してるのに、「造形屋って・・何?」とはいえない。
ちなみに、美大では「就職することがいいことなのか?」という話もあります。「え。就職するのは当然やん」と思うかもしれませんが、作家希望者に対して「でも就職した方がいいよ」とアドバイスすることがはたして正義なのか。

 
ところで、大学業界でよく言われてるフレーズがあります。
それは「広報課や社会連携部署で接するのは教員推薦やモチベーションの高い学生さん、教務課や学生生活課で接することが多いのは単位不足の学生さん」。


  • 旅するムサビの一環「黒板ジャック」

ムサビの有名な社会連携活動「旅するムサビプロジェクト(略して旅ムサ)」は、単位が出ない完全な課外活動で、場合によっては交通費も謝礼も出ないことがあります。それでも児童・生徒の喜んでる姿を見たくて、やり続けてくれる学生さんがいます。
そういう姿を見てると「美術の力ってすごいし、ムサビ生ってほんと素晴らしいなあ」と感じれ、美大職員やっててよかったと感じることがどの部署よりも多いかも。

なので「入職したら最初に教務課じゃなく社会連携部署を経験させたいなー」と思ったりもするのですが、やってることは相手(企業や地域等)と大学側のマッチングで、学生さんとの触れ合いよりも、主な仕事は「美大でやってる(やれる)ことをかみ砕いて相手に説明し、調整する」ことなんですね。

典型例はやっぱり西武バス×武蔵野美術大学プロジェクトでしょう。
西武バス×武蔵野美術大学 産学共同プロジェクト第二弾の実施が決定しました!

当初、西武バスさんからの依頼は「ラッピングバスのデザイン」でした。
でも、「学生も交えた大学との連携ならではの取り組みをしませんか?」「ラッピングバスで抱えてる問題は解決しますか?」と大学側から提案し、実現したのがこの産学共同プロジェクトです。
これは「美大の学びの本質」「デザインとは何か?」がわかってないとできなくて、先生と社会連携スタッフの粘り強い交渉が実を結んだ結果といえます。担当したスタッフによってはそのままラッピングバスデザインをやってたかもしれません。
ちなみにこれも授業外の課外活動プロジェクトです。


まとめ。

美大の事務職員は「美大の中で一番身近な『世の中の人』」です。
大多数が専門的な美術教育を受けていない、美術体験がない人間で構成された美大内のグルーピングは事務職員だけなんですよ。
最近まで美術や美大とは関係なかったけど「美大を理解しなくちゃ」「美術やデザインをなんとかしなくちゃ」と気づき、勉強し、社会的な立場から分析し企画提案してくれる人がどれだけ貴重な存在か。
超大手の大学事務を目指すのもいいですが、そういうグルーピングに入ってやる仕事も大変だけど面白いですよ。
美大生は目的をもって入学した人がほとんどなので、その優秀さにびっくりするはずです。


「美術の知識が多少必要なら、やっぱり美大卒の方が美大職員の採用は優位なの?」と思ったあなた。
その話は次に続くっ!!



以上、でもさすがにスライドを作らなくちゃまずいので、このシリーズはいったんお休みします、の手羽がお送りいたしました。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。