否定も、悲観も、熱弁もしない。日本メディアアートシーンを牽引する、真鍋大度とは?

「今、インタラクティブな映像シーンは若い子に人気だよ。ライゾマティクスの影響だね」そんな言葉を、著名なグラフィックデザイナーから聞いた。「若い人材が流れちゃってね」と、ため息半分に。「そんなことはないですよ」と言いながら、確かに「憧れはライゾマティクスです」という20代クリエイターからの声を、本当によく耳にする。そんな憧れの場所にいるクリエイターは、これまで一体どんな経験をして、今そこにいるのだろう?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

あなたは「真鍋大度」を知っているかー?

「Perfumeをデジタライズしたクリエイター」であり「文化庁メディア芸術祭の常連受賞者」。

エンターテインメントの現場も、国家をあげての文化プロジェクトも、その才能と技術を求める。ここ数年追い風を受けまくってぐんぐんと形成されていく日本のメディアアートシーンを、彼なしに語ることは、きっと出来ない。


日本が世界に誇れるテクノロジストであり、メディアアーティスト。それが、ライゾマティクスの真鍋大度だ。

でも、今回インタビューをさせてもらって、私はものすごく拍子抜けしてしまった。だって、彼の性格は実に温厚。誰かを否定することはなく、何かを悲観することもない。トップクリエイターらしく未来を熱弁したりすることも、ない。

彼の中に存在するのはただ一つ、創ることへの止むことのない好奇心。

過去の文脈に気を使うことなく、知らず知らずのうちに様々な歴史を塗り替えていく。軽やかに遊ぶようなその姿は、淘汰される側の先駆者にとっては、恐ろしい脅威だ。でもその軌跡において、彼は自分自身がスターと呼ばれていくことにすら、全くもって興味がない。

ひたすら作る。新しいものを作りまくる。まるで時代を更新するために生まれてきたかのような、男の子。

39歳の真鍋さんを男の子と呼ぶのは憚られるけれども、良識のある大人では到底出来ないことをやってのけてしまえるのは、彼が好奇心旺盛な男の子だからー、としか言いようがない。

そんな感想を抱いてしまった、真鍋大度へのインタビュー at PARTNER。気合を入れて書きました。どうぞご覧ください。

■ 「僕らはアイディアをオープンにしてるから、それをどんどん使って欲しい」

ー 最初から不躾な質問になりますが、真鍋さんは、日本のメディアアートシーンに対して怒っていらっしゃるのでしょうか?


真鍋:いや、別に怒ってないですよ。

ー …本当ですか?「六本木アートナイト2015」内でトークイベント「六本木ダークナイト」を主催されていましたよね。終電の時間を過ぎても会場はギュウギュウで、真鍋さんの名前を冠したイベントの集客力はスゴイ…と感じてしまいました。


  • 満員御礼の会場。イベントレポート記事がネット上で発表されていないのは、内容が結構過激だったからだと思う。

ですが当日、真鍋さんはほとんどマイクを持たなかった。ホントは、あの場で「お前らぬるいぞ!」って仰るのかと、少し期待してしまって(汗)。

真鍋:いやいやそんな。あれは、登壇した方々の考えや議論を聞いてみたかったから。そういう場が必要だと思って、オーガナイズしたんです。

ー 議論の中で、他者の作品を模倣する「パクりアーティスト」も大きな問題とされていましたが、そこに関しても怒ってない?

真鍋:トーク中に出てていた事例は怒ってはいないけど、大きな問題だなと思いましたよ(笑)。

ー 客観的に捉えられていますが…真鍋さんたちが努力して辿り着いたアイディアを、表層だけ取り替えて「自分の作品」として発表している人も多いかと思うのですが、そこに関しては?

真鍋:YouTubeにはガンガンプロトタイプをあげてますがそういうのは別にパクられてもいいですよ。簡単にパクられるようなものには執着しない。PerfumeのSXSWとかドローンのプロジェクトは既にYouTubeにアップされてるけど、表現的にも技術的にもハードルが高いから簡単にはパクられないと思うんですよね。実際に問い合わせのメールが世界中からたくさん来ますよ。

24 drones flight test – 03


■ 何でもかんでも「最新の技術」と書いてしまう、日本のメディア

ー でも、一般鑑賞者にとってのメディアアート作品って「難しそうなことやっててスゴイ!」という印象で、その技術がどのようにして生まれたか、全く知る由もないですよね。だから、本当にスゴいのが誰なのか、全然わからない。


真鍋:あ、そう。だから、編集者や、メディア側にはぜひとも仕組みや文脈を理解して欲しい。テクノロジーがブラックボックスなのを良いことに枯れた技術やアイディアを「最新のテクノロジーを駆使した…」とか「アートとテクノロジーの融合」とかいいかげんなことを書いてしまうケースが多いんです。

デザイン専門誌なんかでも新しいことをやろうと表現的にも技術的にもチャレンジしている作品と、技術的には一般的でも表現を頑張っている作品を同列に扱っていて、それでは読者がミスリードするおそれがあると思う。技術に対する理解が薄いんです。

そんなことやってると、日本はどんどん海外から取り残されてしまう。


ー 海外だと、メディア側の技術への理解が高いということでしょうか?

真鍋:すごく高い。例えば世界中で読まれているCREATIVE APPLICATIONSというメディアは、ディレクターのFillip自身もテクノロジストで何が本当に新しいのかをちゃんと理解してます。

メディアだけではなくて、イタリアのフェスSTRP FESTIVALやセルビアのResonate Festivalなんかでは、パフォーマンスや展示だけではなくレクチャーやワークショップもたくさん行っているけど、フェスのオーガナイザーがテクニカルディレクターを兼任していることもあるし…。

ー 日本のフェスとは違いますね。日本では現代アートに於いても、なかなか知識を得てから楽しむ…というところまでたどり着けないですよね。日本画やイラストレーションの文脈で歴史的に受け継いできたものがあるのに、突然コンセプチュアルなアート作品を輸入しても、根本的に理解しづらいのかもしれません。

真鍋:なるほど。現代アートのことについて深くはわからないけど、海外のメディアアートのフェスが知識を共有したりコミュニティ貢献をする場が多いのは作り手のためだけじゃなく、鑑賞者のためでもあるし、あとはメディアの人たちを教育する意味もあるんじゃないかな。

ー 真鍋さんご自身も、教育活動だったりワークショップに力を入れてらっしゃいますよね。

でもそれはパイオニアならではの任務というか…メディアアートという土壌がまだ耕されていないから、作品を作るだけじゃなくて、メディアへの教育もしなきゃいけない。村上隆さんが、現代アートの教育を盛んに行っていたのに少し近いかもしれませんが。

実際、真鍋さんたちって仲間内での飲み会で「俺たち先駆者すぎて、これだけ説明しないとみんなついてこないし、ぶっちゃけツラいわー」みたいな愚痴とかって言わないんですか?ここだけのハナシ。

真鍋:ないないない。最近は引越してスピーカー買ったこともあって、飲んだら音楽鑑賞会ばっかり。

ー 失礼しました(汗)。スピーカー、これですか?(部屋の中にあるスピーカーMusik electronic Geithain RL904を指して)

真鍋:ちょっと聴いてみます?

ー !!! 耳の中洗ったみたいに…!!(あまりの高音質に一同大興奮)

真鍋:贅沢するなら、音ですよ(笑)。


■ 漫画喫茶で寝泊まりし、自作のDVDを配り歩いていた5年前

ー 今となっては想像しがたいのですが、真鍋さんにはサラリーマン時代もあったんですよね?

真鍋:そう。メーカーでエンジニアをね。リクナビだったかな…就活サービス使って、ごく普通に就活して。ゲーム会社は、結構落ちましたけどね。音楽ビジネスとDJゲームを融合させたプロダクトをプレゼンしたのに、落とされた…あれすごく良かったのに…。

ー 就活ってわからないもんですね…。そうしてメーカーのエンジニアをしていたのに退職され、23歳のときIAMASに入学して、卒業後は東京藝術大学の先端芸術表現科で助手をされて、石橋さん達と出会いデザインユニットを組み、2006年には理科大の同級生の齋藤さん、千葉さんとライゾマティクスを立ち上げ、今のようにアーティスト・エンジニアとして活躍される…という流れでよろしいでしょうか。

真鍋:確かに2006年に会社を創ったんだけど、実際は2009年頃までよく漫画喫茶で寝泊まりしてましたよ…。

ー え?! 2009年って最近ですよ。


真鍋:うん。最近まで、家を借りてなかったから会社とか恵比寿の漫画喫茶で寝泊まりして…シャワーも洗濯機も会社にあったし、生活は出来てた。そんな暮らしの中で色んな会社にプレゼンしに行って”技術はスゴいけど、どうやってお金にすればいいの?”とか言われ続けてた。

ー すごく泥臭い。

真鍋:コミッションワークもちょこちょこありましたがデザイン仕事は石橋さん、広告仕事は齋藤がメインでやっていました。

僕はサウンドのプログラミングで関わることが多くて、それ以外はダムタイプ藤本さんの元で学びながら作品制作する機会が多かった。でもそんな中、自分の身体を使った作品を制作していてYouTubeに「音楽信号を変換して低周波刺激で顔の筋肉を制御するテスト動画」を公開したら、昔の作品も合わせて見てもらえて世界中から数千件という単位でオファーが来たんですよ。


electric stimulus to face -test3 ( Daito Manabe )

ー 数千件! ネット拡散の凄さを体感されて来たんですね。でも一方で、学芸員やキュレーターに見出されて、作品を世に出して…といったアートシーンでの「王道のルート」的なところに興味はなかったのでしょうか。

真鍋:興味がないというよりも、そもそも王道ルートを知らないし、自分の活動に関しては必要と感じたことはないですね。

今は、作品を発表したり評価する仕組みが昔よりも増えたんじゃないかな。作品の形態にもよるかもしれないけど…。
ネットで話題になって、ARS ELECTRONICA(オーストリアのリンツで開催されるメディアアートの世界的な権威)に直接呼んでもらえたりもする。


ー 多くのアーティストが進路を悩む中で、ルートを気にせず進めちゃうっていうのはやっぱりすごいです。

でも真鍋さんの通った後には、「真鍋大度とは」という解説書がたくさん生まれていますし、もはやご自身が権威になっているようにも見えます。

真鍋:本当? 僕ってそんな感じなの? 実感ないけどね(汗)。

ただ、2004年くらいから美術館で作品発表していたからICCの畠中実さんや、YCAM阿部一直さんのような学芸員に見出される方がネットの拡散よりも先だったよ。

ちなみに、ライゾマ石橋さんは1999年くらいからICCで作品発表してる。逆に言えば、作品発表の機会を作ってくれる美術館は、当時はICCとYCAMくらいしかなかった。最近はメディアアーティストがスタートアップを立ち上げたり、GoogleやAppleで働くケースもある。


ー その考え方も面白いです。一番の目的はテクノロジーを突き詰めることで、メディアアートなのかビジネスなのか、というアウトプットの形は時代によって変わるー…それも10年未満の短いスパンで。

■「売るために作品を分かりやすくしたり、パッケージ化することには興味がない」

真鍋:僕はアート作品を売ることについては全く詳しくないからあまり語れないけど、アートマーケットはすごく複雑な構造だよね。作品を売るためには、作ることとは別の力も必要になってくる。

作品を売ることを考えなければとてもシンプルで当事者も少ないけど、最低限の制作資金を得る仕組みは必要になる。ライゾマはその解決策を探すために作った側面もあって設立当初は「作品を作るたの資金を請け負い仕事で稼ぐ」みたいな感じだったけれど、メディアアート的な考え方が広告やエンターテインメントの領域で求められるようになり、プログラムの実装をお願いされるだけでなくアイディア提供も依頼される様になっていった。

そうなると作品制作じゃなくても色んな場所で自分が面白いということが出来るようになるんですよね。


ー メディアアートを会社としてやっている組織は、日本では本当に希少ですよね。同業他社的な話になりますが、六本木ダークナイトで多摩美術大学の教授である久保田さんは「ラッセンを継ぐのはチームラボだ!」と仰ってました。

科学未来館での『チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地』展がディズニーランド並みの長蛇の列、45万人を超える来場者数だったそうで…、久保田さんが仰られたのは「商業的にも評価されてすごく売れるアート」だ、という意味合いなのかと思ったのですが…真鍋さんとしてはどう思われますか?

真鍋:売れる売れないという話ではなかった気がするけど、正確に覚えてないからラッセンを継ぐという話は久保田さん自身のスライドをみてもらったほうがよいかもしれません。


日本のメディアアートシーン by 久保田晃弘 多摩美術大学/ARTSAT

メディアアートの一種であるインタラクティブアート、ものすごく簡単に言うと観客の動きに映像や音が反応することで作品が完成するものに関しては大衆化された作品もたくさん出てきて成熟期に入ったと思います。

黎明期では科学博物館やシーグラフ(インタラクティブ技術の学会)の会場、メディアアートの美術館でしか見られなかったものが、広告とか家庭用ゲーム機、iPhoneでも同じような体験出来るようになったというのは単純にすごいことなんじゃないかな。


真鍋:これは1995年に行われたInteraction’95というインタラクティブアートの展覧会の冊子だけど、先人たちがどれだけ未来を予見していたかということにびっくりしますよ。

例えばここで出展されているクリスタ&ローランの進化する人工生物で"観客が描いた絵が映像の中に生き物となって登場する"というシステムがあるけど、タカラの”おえかきすいそうピクチャリウム”という玩具のアイディアにそっくりじゃないですか?

>おえかきすいそう ピクチャリウム | スペシャルサイト | タカラトミーアーツ


真鍋:今の環境ならまだしもこういったことを20年前に考えて実装するのは並大抵ではないですよね。
メディアアートの魅力の一つにメディアやテクノロジーが進化した際に訪れる未来を予見することがあると思うのですが、自分もそういう作品を作りたい。売るために作品を分かりやすくしたり、パッケージ化することには興味がないですね。



■「好きなプログラムだけ書いて研究して1日が終わったら最高なんだけど、そうもいかない」


ー …売ることに興味がない、と。じゃあ真鍋さんが今興味あることって、何なんでしょう?

真鍋:ダンスですかねぇ…。

ー は?


真鍋:今、ダンスのレッスンに通ってて。初心者コースなんだけどイレブンプレイのダンサーにお願いして基礎から学んでます。

これまでに僕はパフォーマンス作品の制作に色々と携わってきて照明も映像もレーザーも音楽もプログラミングもやったことがあるから、踊るところまで出来たら一人で完結出来る。ただ普通にやっても面白くないから、データを集めて機械学習で新しいダンスや振り付けが作れたらいいなと思ってます。例えば、芋虫がああいう動きをするのも、構造が決まっているからですよね。様々な生き物の構造と動きをセットにしたデータを集める仕組みをまずは考えないとですね。動きをキャプチャーしてデータ化する部分をいかにスマートに出来るかというところが難しいところですが…生殖活動に限定して動きを集めてみるとか…


ー ちょっとごめんなさい。理解が追いつかない。

真鍋:あれ(笑)?

ー しかもダンス教室では、初心者コースなんですか。

真鍋:全然踊れないからね、まだ。



ダンスを始めて2ヶ月が経過した頃の様子(Perfumeのダンスコンテストに応募し、落選)

ー なんというか…人生楽しいですね…。

真鍋:色々やってみなきゃいけない。作品って1年に1、2個しか創れないから。全然時間がない。しかも好きなプログラムだけ書いて研究して1日が終わったら最高なんだけど、もはやそうもいかないよね…。

ー 生活や寝食を惜しむほどに作って作って作りまくって…その先、 死後自分の作品がどうなってるか、ということに興味はありますか?

真鍋:興味ないですね。映像としては残ると思うけれど。自分が作っている作品はすぐに古くさくなるものも多い。

例えばライブ会場で観客に光るデバイスを渡してステージからコントロールするというようなことも8年くらい前にやっていたけれど、今では大きなイベントでもリモート制御出来るペンライトを当たり前のように使っている。複数台のドローンをコントロールするようなやつも5年後には当たり前になり古くなって誰でもがやってると思うけど、それはそれでしょうがない。上書きされたら、また新しいものを創ればいいんです。

ー 過去に囚われず、自分の作品にも執着せず、時代を更新しつづけるのが、真鍋大度。そこに恐怖や不安といった感情は一切感じられない。23歳で会社を辞め、欲望に忠実に生きる道を選んだ彼は、いつも最高に楽しそうな顔でMacに向かう。

好奇心旺盛な男の子は、まだ誰も見たことがない世界を、これからも創り続けていくはず。遊ぶように、でもとっても真摯に。もしその魅力を深く知りたくなったならー、それが、学びのはじまりかもしれない。

Text by 塩谷舞(@ciotan




■INFORMATION
真鍋さんらライゾマティクスのメンバーがテクニカルサポート&インタラクションデザインを手がける『ELEVENPLAY』の公演が、DVDになって登場しました。
http://store11play.thebase.in/

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

OTONA WRITER

塩谷 舞 / ciotan

フリーランスのPRプランナー、Web編集者です。大学時代に関西の美大生をつなぐネットワーク「SHAKE ART!」を立ち上げ、イベント企画、フリーペーパー発行、何でもやっていました。アートギャラリーDMO ARTSでの販売員も。株式会社CINRAでのWebディレクター・PRを経て、フリーランスに。THE BAKE MAGAZINE編集長もやってます。インターネットが大好き。