美大を卒業したあと、どう生きていくか?①わたしが休学・留学を通して感じたこと【後編】

金沢美術工芸大学工芸科で染織を学んでいます、山中です。今回はわたしが大学を昨年10月から一年間休学し、そして12月から今年の5月までの約半年間の韓国での留学生活で考えたこと、そして韓国で出会い、とても影響を受けた人物について、すこしだけ自分の話を織り交ぜながら、「美大を卒業したあと、どう生きていくか」を考えたいと思います。第1章後編では、私が留学を通じて‘つくるよろこび‘を取り戻すまでを紹介したいと思います。

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休学と、留学と。
美大になんか、入らなければよかったとさえ思うほど「ものを生み出すこと」・ひいては美術について考えることに疲弊していた私は、なぜまた この道に戻ってくることにしたのでしょうか?

それはひとつには休学し、こころと身体を休める時間がとれたこと。
そして留学をし、今までいた環境と全く異なる場所へ身を置くうちに、むしろだんだんと今までいた環境のことを客観的に、俯瞰して見られるようになったこと・・。


  • 韓国留学中に興味が湧いて始めたスプレーアート

もちろん休学も留学も、誰もが簡単にできるものではありませんし、
(わたしの場合は実は、いよいよ制作ができなくて休学しました。留学に関しても母が韓国人で叔父の家があったことなどの設定がありますが割愛)
それぞれの事情がありますので断言はできませんが、
環境を変えることは、自分の考えを深めたり、違った見方ができるようになるひとつの大きなきっかけになり得る ということを、留学という経験を通して深く実感しました。

わたしはこの休学・留学をへて、ゆっくりと、もういちど制作をする心の余裕を取り戻すことができました。         

全くの新しい環境からのスタート。
誰も自分のことを知らず、自分が何かアクションを起こしてアプローチをかけなければ、誰も自分に興味を持ってくれません。

孤独な時間を長く持って気づいた「芸術がない生活は考えられない」

韓国へ行ってすぐに年越しがあったのですが、なかなかそれほど仲の良い友達もできず、一緒に過ごすと思っていた伯父家族はあっさり友達の家に遊びにいってしまい、日本よりも格段に寒い韓国の、家でひとり辛ラーメンと共に大晦日&元旦を過ごしたときは、流石に虚しくなってきて、一体自分はこんなところでひとりで、何をやっているのだろうと悲しかったです。


でも何もすることがなくなったとき、自分は結局美術館に行ったり、音楽を聴きに行ったり、そこでまた友達をつくろうとしたりするのだなぁ、結局はそういうことが好きなんだなぁ、という自分に気がつきます。


  • 美術館のスタッフをしたときに知り合った音楽家のLIVEに行き、韓国の若者達の音楽シーンにふれた日



そして自分にとってものづくりとは、自分と、自分が面白いと思うひととより深く繋がりあうための、ツールでもあるんだなと。

芸術がない生活は(今は)考えられないですし、そのような生活はわたしにとってはとても味気のないことのように思えてしまいます。

そして何より思うことは・・
誰とも日本語で意見を交わすことのできない、孤独な時間を長く持ったこと。
ひとりで、自分の半分のルーツである韓国について・日本について、それぞれの文化について・美術について、自分自身について・・じっくりと考えた時間は、以前よりもぐっと自分の思考を深める大きな成長の糧になったように思います。



そしてもうひとつの変化は、言葉が通じない国で、どう自分自身をアプローチしていこうかと考えたときに、やっぱり自分にある能力は絵を描くということなのだなぁ、と再確認したこと。

韓国では毎日のようにイラストレーションを描きためていましたが、それはきっと、普段より色々なことを考えるのに言葉でうまく話せない、そんなフラストレーションを発散する方法だったように思います。
絵を描くとまわりのひとに喜んでもらえるし興味を持ってもらえる。
存在意義をもういちど見出せたような、原点回帰したような気がしました。

【将来のビジョンが見えなくて困っている美大生への提案】

今いる環境から飛び出し、自分の概念を次々とひっくり返そう


  • イテウォン・ストリートにて

  • 撮影・山中彩

学生である時間はとても特別です。
課題やサークルやバイトで忙しいとはいっても、時間があります。

とにかく自分が知っていること、認識している常識なんてちっぽけなものであると自覚して、どんどん今いる環境から飛び出していき、様々な人と出会い、沢山のショッキングな体験をし、自分の概念を次々とひっくり返していくこと。
隣近所のあの子と比較するのではなく、もっと広く大きい視野を持つこと。
そのためには、自分のキャパシティーや経験値を高める努力をする必要があると思うのです。

私は韓国へ留学をして、休学をしている学生の多さに驚きました。
本当に私が出会った韓国人の少なくとも半分くらいはみな休学・留学をしていたような気がします。

韓国も現在、ひどく不況で学生たちは皆困難な就職活動を強いられています。そして自分の将来について考えます・・自分が本当にしたいことは何か?自分にとって本当の幸せとは?
韓国ではどうやら、徴兵制や、価値観の多様性が広がっていることから、日本のように休学に関してナーバスなイメージはそれほどないようです。


彼らは自分を見つめ直す旅に出たり、ワーキングホリデーを使って大好きな日本に働きに来たり。
きっと彼らはそこで、自分が思ってもみなかった出会いや繋がりを経験したり、見知らぬ土地で出会う人々の優しさに感動したり、文化の違いにショックを受けたり、美しい風景を心に焼きつけたり・・世界は自分が思っていたよりも広く、美しく、知らないことを知ることは素晴らしいことだと思うのではないでしょうか。

休学や留学なんて、気になってはいるけれども自分には無理・・でしょうか?本当に?

まずは知ることからはじめましょう。そしてイメージしてみること。
ちなみにこんなものがあります。

文部科学省が2013年から始めている、留学促進キャンペーン

トビタテ!留学JAPAN


もしも悩める美大生がこの記事を読んで、少しでも状況を変えてみようと何か動き出すきっかけになることができれば、とても嬉しいことだと思います。

次回、第2章では、わたしの 韓国留学生活中に出会ったクリエイター、杉原悠太さんを中心に、彼の生き方を紹介していきながら、また、すこし自分と重ね合わせながら、彼から学んだ多くのこと、フリーランスとしての生き方について・・などなど、美大生が読んで多くのヒントを得られる内容にしていくつもりです。

乞うご期待!

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STUDENT WRITER

ヤマナカ アヤ / Aya Yamanaka

’ひとの思いが込められたものたち’ に囲まれて育ち、いつしか自分も ものづくり がしたいと思い金沢の美大の工芸科に入り、学部3年次を休学し、韓国ソウルへ短期留学。現在は京都府在住。 人と関わり合うことによって、その人を知り好きになることで興味の幅が広がっていく感覚を大切に生活をしています。