南の島に伝わる伝統工芸
「Cukli(チュックリ)」という摩訶不思議な名前を聞いたことはある人は、おそらくほとんどいないはず。インドネシア・バリ島の東側にあるロンボクという、小さな島に古くから伝わる伝統工芸のことです。木製の椅子や机には、ロンボクにある貝殻があしらわれており、繊細かつ、品の良さに、一瞬で人目を引きます。もちろんその値段もかなり高く、来客用として設置されることが多いCukliは、ロンボク人にとって最大のおもてなしであり、何よりも伝統に対する誇りなのでしょう。
そんな、高級品である伝統工芸はどのようにして生まれているのか。また、よっぽどキレイなショールームで販売されているのか。私は作品を作っている生産者のもとを訪れました。
シンプル、そして素朴。
ロンボク島の首都、マタラムから7キロ程東に位置するサヤンサヤン。ここは、伝統工芸品の村。到着するや早々、すぐにどこからか木槌の音がすることに気が付きます。
村に着いたときから、私の勝手な想像はさっそく破られました。高級品でもあるCukliが、思った以上に素朴な工場で制作されていたのです。アトリエしかり、販売しているお店しかり、決して自らお店をアピールすることなく、店の前にはヤギや牛が横切り、村の子どもたちは裸で遊んでいます。「そうだ、ここはまだほとんど知られていない島、ロンボク島なのだ」と妙に納得してしまいました。
埃をかぶった薄暗い店内を抜けると、飾りっ気のない工房が現れました。工房の横には、ラフな下書きと、一寸のためらいもない大胆な制作工程からは全く想像もつかないような、繊細な作品が並んでいました。一つの作品を作り上げるのに、だいたい3週間~1か月程かかるそうです。
工房の中には、もくもくと木彫りをしている上半身裸の男たちの姿が。テレビカメラを向けようが、シャッター音を鳴らそうが、愛想を振りまく様子も、手をとめることもありません。インタビューをしようと声をかけても、一言二言発しては、また作業に戻ります。私は、どこかそんな、「素っ気ない」彼らがとても魅力的に感じました。
この街で生まれた子どもたちのまわりには、いつも木槌の音と、寡黙なたくさんの師匠たち。「伝統」や「アート」という概念が浸透していく以前にきっと、生活の一部として、このCukliが伝わり、その伝統と共に彼らは育っていくのでしょう。
高級品として名高いCukliを作っている生産者は、想像以上にシンプルでした。
何もない、という中で生まれる、歴史のある作品。
何もないからこそ、繊細さやその魅力が一層輝くのかもしれません。
彼らは今日も、ここロンボクで生活していくために木槌をふるのでしょう。
PARTNERでは、美大生や卒業生のゲストが書いてくださった記事も掲載いたします!定期的にアカウントを持って記事を書くのは難しいけれど‥‥、そんなときは編集部にご相談ください。