茂木健一郎「アートを握れ!地上5cmの浮遊を目指して」

東京藝術大学が舞台。夢を見続け、もがきながらも成長していく芸大生との交流を描く話題の著書『東京藝大物語』。先日、東京B&Bにて、著者茂木健一郎さんと編集者西川浩史さん、柴崎淑郎さん、そして登場人物のモデルになった元・藝大生らが登場し、対談と絵画対決が行われました。現役美大生の僕が潜入取材、レポートをお届けします! 【撮影/金澤智康 】

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<文芸書ランキング TOP10 にもランクインした話題著書『東京藝大物語』>

すでにみなさんはチェックしましたか?文芸書ランキングTOP10(協力:ブックファースト新宿店)にもランクインした、話題の書『東京藝大物語』。講師として東京藝大に赴任した語り手目線で描かれた、芸術を夢見て生きる学生たちの「ヘンタイ!?」な日常生活です。PARTNERでもすでに紹介させていただきましたが、みなさんはすでに読まれましたか?
前回の記事:https://partner-web.jp/article/?id=146

今日は、先日この著書の発売を記念して開催されたイベント「アートを握れ!地上5cmの浮遊を目指して」の様子を紹介したいと思います。


<訴えたいことはただひとつ「夢は忘れちゃいけない」>


  • 撮影/金澤智康

テレビなどメディアでよく拝見していた脳科学者・茂木健一郎さん。そんな茂木氏に僕が抱いていたイメージは「真面目で、頭が固いうえに、『何でもわかります』と偉そうにしている、いけ好かない科学者」でした。しかし、今回イベントで初めて本人を目にして、そのような偏見に満ちた見方をしていたことを反省しました。茂木さんは底抜けに明るく、どこまでも前向き。そして、深い探究心で物事と向き合うキラキラした方でした。

茂木さん:みなさんに訴えたいことはたった一つでして、「夢は忘れちゃいけない」ということです。僕はね、何を隠そう、小説を書くことが子どもの時からの夢だったんです。
僕のTwitterのプロフィールに「作家」と書いているのですが、作家って便利な言葉なんですよね。小説家って書くと小説を書く人みたいだけど、作家と書くと、ノンフィクションを書いている人でも作家と言っていい雰囲気がある。ずっと小説は書きたかった。けれど、書けるか分からなかった。そんなこんなで、今回の作品は構想10年。その間、藝大生のことを絶対小説に書きたいと思っていました。読者として「いい小説」は分かるけれど、その小説を自分が書けるかは分からず…、実際に原稿を書いていた今年の一月にも、僕が小説を書けている気はしていませんでした。
脳科学者で、普段「自分の限界を決めるな」と言っているわりには、決めつけを行いがちなんですよ(笑)。僕、最近スイミングプールで平泳ぎばかり泳いでいるのですが、「おれ体型的にクロール向いていないよな」「クロールの息継ぎっておれの体型にあっていないよな」なんて決めつけたりして。小説においてもやっぱり「脳の構造的に小説に向いていないんじゃないか…」と考えていました。


<初めて自転車に乗れるようになった感動。俺は小説家になれる。>

茂木さん:でも原稿を書き終わって魔法が起こった。例えば、今回の作品は題材をものすごく捨てているんですよ。普通もったいなくて取っておくような話題も、捨てたんです。バシバシバシバシ。あと、いくつか嘘を書いている。実際に起こっていないこと。で、どこを捨てて、どういう嘘を書くと小説として成立するかが、あら不思議! ある時から見え始めた。そうして小説はできていくんです。
僕は今、52歳なのですが、今回の作品を書くことではっきり分かりました。自転車が乗れるようになる感覚分かりますか? 最初は補助輪があって、絶対補助輪がないと漕げないような気がする。最初に泳ぐ時って絶対一生泳げないと思うじゃないですか。でも、「おれは作家じゃなくて小説家になれる」ということが今回の小説に挑戦して分かりました。
ただ、それを世間がどう受け止めるかが怖くなっています。毎日Twitterで超拡散しているけれど、それによって届く人には届いてしまっている。だからこの小説がどう受け入れられるかは読者に委ねられている…。(略)(そんな心配をする一方で)もう次回の小説も30枚ほど書いています。もう止まらないですね。
何が言いたいのかというと、「おれ小説書けないな」と思うことはあっても(実際は)書けることもある! だからみんなガンバロウ! 『東京藝大物語』がどれくらい、いい小説だったか、だめな小説だったかどうかは分からないけれど、初めて自転車に乗れたのが52歳だったということで…。

52歳で小説に再チャレンジした茂木さん。執筆中の葛藤を語るその姿は、「脳科学者 茂木健一郎」ではなく、「小説家 茂木健一郎」としての顔でした。

<茂木健一郎、バカデビュー!?>

そんな茂木さんと編集者の方々による対談では、「小説家 茂木健一郎」になるにあたり、今回の小説や今後小説家としてどうあるべきかについての話題で盛り上がりました。読者の視点とは異なる見解に、聴衆も注意深く耳を傾けます。
編集者である西川さんは、茂木さんが小説を書くことに関して「(小説を書けるかどうかは)読んでみないと分からない。だから、(茂木さんの)作品を読むまで多少怖かった。」と一言。第一稿を読んだ西川さんは「一体何が書きたいのでしょう?」と茂木さんにダメ出しをしたとか。しかし、その一言で茂木さんは『東京藝大物語』の方向性を定め、自転車に乗るきっかけを掴んだそうです。
また、もう一人の編集者柴崎さんは茂木さんをこう分析。「頭が良くなければ、エッセイやノンフィクションは書けない。バカじゃないと小説は書けない。茂木さんは52歳にしてバカになったのではないか!」驚くことに、茂木さんも納得していました。


  • 撮影/金澤智康


<登場人物による60分一本絵画対決!>

茂木さんが対談をするその後ろでは、第一回東京藝大物語杯と称した60分一本絵画対決が行われていました。出場者は『東京藝大物語』に登場する「ジャガー」こと植田工さんと、「ハト沼」こと蓮沼昌宏さん。ジャガーは「後悔」、ハト沼は「噴火」をテーマにそれぞれキャンバスに向かいます。お互いを強くライバル視する二人には、彼らだけの新鮮な世界がありました。大学で培った、学問以外の力の大きさを目の当たりにし、現役大学生である僕は「自分は今、その渦中にいるのか」と不思議な気分。絵画対決の結果、勝利を収めたのは、マグダラのマリアをモチーフにしたジャガーの絵でした。

柴崎さんは、『東京藝大物語』について「おそらくどんな人にも10代の頃に何かを表現したいと思うことがあると思うんです。(表現したいという思いは時間が経つにつれ)どこかで止まっているかもしれないけれど、実はまだ止まっていないのではないか。読者は、その止まっている表現意欲をキュンと突かれる。」と評されました。現在学生である僕と、以前学生だった人が読むのではこの小説は意味合いが大きく変わってくるのかもしれません。その言葉に込められた意味をすべて理解できたわけではありませんでした。しかし、茂木さんもおっしゃっていたように、私たちは何歳でも自転車に乗れるのかもしれません。そのきっかけは、表現したいという隠れた意思。自分を今取り巻く環境や、そこで生まれる様々な思いを大切に育てようと決意したトークセッションでした。

君は、アートを握っているか!!!

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STUDENT WRITER

バッタ4994 / BATTA4994

二十歳になってしまったどうしよう