海を渡って制作スタイル変わった、南の島の芸術家。 〜飯塚正彦さん〜

つくる、というひとつの行為はひとりのなかから生まれます。どこにいたって物理的にならば完結できる、あるひとりにとってのつくる、という行為は、その人が別の場所に移った時、そしてその後、どう変わってゆくのでしょう。 今回は、インドネシアの島へ移住した芸術家・飯塚正彦氏にききました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

出会いは突然。日本から5500キロ離れた南の島で出会った芸術家、飯塚正彦氏。

「これ、よければどうぞ。早い者勝ちね」。私が手にしたのは、ニワトリのイラストが描かれた起き上がり小法師。飯塚氏との出会いは、日本より5,500キロ程南、インドネシア・ロンボク島で開催されたとある会合でのことでした。
芸術家として、海外に住むという道を選んだ飯塚氏。後日私は彼のアトリエを尋ね、お話しを伺いました。


■その土地の風土にあったスタイルを。

「タイの建設物っていうのはね、瓦が外に逸れているんですよ。タイに旅をして電車に乗った時にね、田んぼから蒸気があがってて。その蒸気と瓦のデザインが合っている。蒸気がゆら~っとしている中に、ヨーロッパ風の聖人の彫刻がどーんとあっても、不釣合いなんですよ。その時に、風土からデザインができるんだなって思いました。」


  • 絵画だけではなく、お土産になるような小ぶりのものも。(写真はマッチ)

飯塚 正彦氏。15年ほど前、ご結婚をきっかけにこの島に移り住み、娘さんの送り迎えの空き時間や、市場に買い物に出かけた先を描く対象に、現在はご自身が造られた絵画やポストカードなどを、ロンボク島のお土産として販売されています。あぁ、それで起き上がり小法師を。
美大で銅版画を専攻されていたという飯塚氏は、卒業後、神奈川県にある版画工房で働くようになります。同時にしばらくは自分のスタイルを模索していたんだとか。海外での道を視野にいれ、アジアの石造を勉強しようと思いたち、タイはアユタヤへ。その旅路でのひらめきが現在の自分のスタイルを確立するヒントになったそうです。


■外に出ることで確立された「風土にあったスタイル」。

「普通の仕事をしていた時、あれは休憩中だったかな。今でも覚えている。赤坂のビルの隙間でタバコを吸ってたんだよ。そのビルとビルの隙間から青空が見えた。その時に思ったんです、また絶対空をわたって海外に行ってやろうって。」

その後旅をする中で、現在の奥様とこの土地で出会い、ロンボクという小さな南の島に移住されました。

「外に出たことで、「黒」の重要性を再認識しました。日本にいた時は、黒は色の王様だから頻繁に使ってはいけないと教わってきた。でも日本人であることにこだわると、その色が不可欠でね。今はペン画を描いていますが、このスタイルも外に出たことで確立したことです。また宗教のことを考えたり、描く対象が変わりました。」

飯塚氏が描くものは、どれもロンボク島にある情景や自然、動物。その表情豊かな猿やイルカ、キャンパスから飛び出してきそうな勢いのあるタコに、思わず感嘆してしまいます。また、イスラム教やヒンドゥー教を信仰されているロンボクでご活動をされていることもあり、女性像の胸の露出をさけるなど、「風土に沿ったスタイル」は、ここでも反映されているんだなぁと感じることができます。


  • ピンクのサンゴ礁を手にした人魚たちが巨大タコに挑む 

  • アトリエにはさまざまな作品

■島でのかかわり

私はアトリエの隅におかれていた、大きい魚の絵が気になりました。色使い、タッチ、どうやらこれは飯塚氏の作品ではなさそう。

私「飯塚さん、この絵は?」

「これ、子どもたちが描いた作品です。実は今、現地の方にお願いされてインドネシア人の子どもたちにワークショップを開いているんです。インドネシアの象徴であるガルーダ(鷲)や、宗教のマークなどをかたどったり、子どもたちの好きなように描いてもらっています。」

「僕ね、子どもたちに言うんです。『どうせやるならでっかくいこうよ!』って。縮こまる必要はない。正直、上手く描けるように教えられないが、作ることの楽しさなら伝えられる。それだったらね、子どもたちに好きなように自由にやらせたい。」

飯塚氏の人柄がにじみ出るエピソードです。





取材中、インドネシア人の奥様が大きいキャンバスに描かれたタコの絵を見てこうつぶやきました。

「Gambar ini Bagus ya(この絵、いいよね。)」

飯塚氏も応える。

「Saya juga suka ini(僕もこの絵、好き)」


小さな島に移住し、住民とのかかわりを大切にしながら、描き続ける。
こういう選択肢もあるんだな、と感じると同時に温もりがあるな、とも思いました。きっとそれは、常夏30度のロンボクの気候のせいではないはずだと確信し、取材後の帰路につくのでした。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

STUDENT WRITER

partner guest / partner guest

PARTNERでは、美大生や卒業生のゲストが書いてくださった記事も掲載いたします!定期的にアカウントを持って記事を書くのは難しいけれど‥‥、そんなときは編集部にご相談ください。