ほぼ全編SNSアップ禁止!?『美大生図鑑』読書会の美大ぶっちゃけトーク

4月15日(土)、荻窪「6次元」にてヨシムラヒロム著『美大生図鑑』刊行記念トークイベントが開催された。美大事情に詳しいゲストを迎えて行われたトークは、門外不出(?)トークのオンパレード。美大生特有の生態やあるあるネタを収録した本書の内容を巡って、美大への愛憎入り混じるキワどい応酬が飛び交った。

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  • Amazon芸術教育カテゴリで売り上げ第1位(4/21付)を記録中の『美大生図鑑』(飛鳥社)

 
『美大生図鑑』著者であるコラムニストのヨシムラヒロムをはじめ、ゲストには各大学で広報を担う手羽イチロウ(武蔵野美術大学)、米山建壱(多摩美術大学)、吉田大作(京都造形芸術大学)、そして、『美大生図鑑』でデザインを務めた平野昌太郎が登壇。会場全席が埋まる盛況の中トークはスタートした。……と言っても、この場でお伝えできることは、(いろんな意味で)ごくわずか。そんな濃すぎる美大ネタを、ギリギリのラインのもとお届け。




書かれている内容は事実? 面白すぎる美大のウラ側

ヨシムラヒロム(以下、ヨシムラ) では、はじめましょう。『美大生図鑑』読書会ということで、この本を片手にいろんな話をできればいいなと思います。今日は、いままでにないくらいコアなメンバーが揃ったイベントなので、有益な情報だけを覚えて帰ってもらって、あとは、ここを出た瞬間に忘れてください。SNSに出せない話ばっかりなんでね。さっそくなんですが、僕は京都造形大に1年間居て、あの大学はなんと言いますか、なかなか言葉に詰まるんですけど……。
 


  • 『美大生図鑑』著者・ヨシムラヒロム(左)、武蔵野美術大学・手羽イチロウ(右)

 
吉田大作(以下、吉田) そういう言い方すると悪い大学みたいになるからやめて(笑)。京都造形大のページに書いてあった「講評会の時は標準語をしゃべれ」という話は、うちの職員がみんな事実じゃないと言ってましたよ。

ヨシムラ それは○○○○という先生が実際に言ってたんですよ。これは事実ですね。

吉田 いきなり実名言っちゃってる(笑)。これは完全に何か恨みがありますね。


  • 京都造形芸術大学・吉田大作(左)、多摩美術大学・米山健壱(右)


米山建壱(以下、米山) 僕はやっぱり多摩美のことが気になるのですが、うちのことディスってるんじゃないかなってはじめて読んだときは思ったんですよ(笑)。でも今日、実際にヨシムラくんと話してみたら、そんなことないかもって思えたんだよね。

平野昌太郎(以下、平野) 僕はデザインを担当して、最後の方はなぜか編集まで一緒にやっていたのですが、内容が屈折しすぎてるところはあるよね(笑)。もっと美大は楽しいところですよ。


  • グラフックデザイナー・平野昌太郎(左)

 
ヨシムラ いや、僕がそうやってこの本を一冊書けたのはワケがあるんですよ。そもそも僕は、高専から京都造形大に編入した後、誰とも会話せず1年間を過ごして、武蔵美に移動したんです。で、結局、そこで何が起きたかというと、最後まで美大に馴染めなかったんですよ。だから、ある種の観光客的な気分で美大生活を送っていて。そのおかげで、客観的な目線から捉えられたのかなとは思いますね。

手羽イチロウ(以下、手羽) 武蔵美の職員からこれだけは言っておいてと言伝があったのですが、通信生(通信教育課程の学生)に、こんなにおじいちゃん、おばあちゃんはいないって(笑)。イラストに描いてあるけれど。

ヨシムラ なぜ描いたかというと、やっぱり教室で授業を受けていると、そういうお年を召した方は目立つんですよ。だから、まぁ、僕の勝手な印象でイラストを描いてしまったのは悪かったなと思いますね。ここで謝罪しますよ。

会場 (笑)

手羽 といいつつも、京都造形大の通信にはギネス記録を持ってらっしゃる方がいますよね。

吉田 96歳と200日で大学を卒業された方がいらっしゃるんです。世界最高齢で学士の学位を取得されました。今年は80歳を超えた方が何名か入学したので、ヨシムラくんの印象はあながち間違いじゃないのかもしれません(笑)。
 


  • トークはさらにディープな方向へ

 
大学のポリシーに見る、3つの美大文化の違い

ヨシムラ 今回、各大学のプロが集まっているので、それぞれの大学について詳しく聞いていきたいです。まずは武蔵美について、外側から見てどんな印象を持っていますか?

吉田 まず京都の美大でいうと、京都造形大と京都精華大があるんですね。それで、手羽さんは精華大ばかりを褒めるんですよ。

ヨシムラ 手羽さん、それはなぜですか?

手羽 構成する文化がそれぞれの大学で違っていて、恐らく多摩美と京都造形は近い考え方で、武蔵美は京都清華に近い気がするんですよ。

吉田 関西から見ると、武蔵美は自分のポリシーを大事にされているように感じますね。

手羽 ポリシーね。武蔵美の教育理念は「教養を有する美術家養成」とか「真に人間的自由に達するような美術教育」とか、ちょっと固めなんだけど。ちなみに、多摩美は「自由と意力」つまり、英語にすると「アナーキー&エゴイズム」。そういう考え方や文化の違いはありますよね。

ヨシムラ 実際、多摩美はどうなんですか?

米山 まず多摩美は戦前から絵描きの人が教えていたんですね。だからいまだにデザイン系の学科の実技試験も5時間くらいかけてやっています。そこがずっと踏襲されてきた文化。手羽さんは「アナーキー&エゴイズム」と意訳をしていたけれど、本当は「フリーダム&ウィル」ですからね。個性を高める教育をしています。

ヨシムラ 本の中でも書いたのですが、多摩美の方って卒業してから社会で通用する力を持っている人が多いですよね。学生時代の熱量を維持したまま活躍できているような印象なんですよ。
 


  • 武蔵美はグループワークが比較的多く、多摩美は個人での制作が多いという

 
米山 多摩美は、現場で活躍している人たちを教員として採用しています。その人たちが3、4年生を指導することが多い。まずは個人の力を磨く。個を強くすると社会にでてもいろいろなつながりがもてる。自分に軸ができると、社会に出たあとも積極的に自分で学ぶってことがしやすいんだと思います。意力ですね。

手羽 もともと武蔵美と多摩美はひとつの大学から分かれてできた経緯があるんです。そこから文化も別の方向で発展していったのですが、多摩美はどちらかというとトップダウン型、武蔵美はボトムアップ型で運営されてる傾向にあって、自然と学生さんのタイプや文化にも浸透してる気がします。デザイナーなどのプロフィール写真を見ると、自慢げに腕を組んでかっこつけてるのが多摩美、照れくさそうにふにゃけて笑ってるのはだいたい武蔵美の卒業生(笑)

ヨシムラ それはなんとなく分かりますね(笑)。では、京都造形の話にいきましょう。まず吉田さんが今日いらっしゃってくれたことが嬉しくて。福岡の出張から直接来てもらえるとは思わないじゃないですか。本当にありがとうございます。
ここで話したいエピソードがあって、もちろん実話なのですが。課題でレポートがあって、ワードを使って書けという指定だったんですね。でも、僕が手書きだと勘違いしてしまって。そのレポートを○○○○先生に渡したら、紙を1回下に落としたんですよ。それで、すげー嫌な人だなと思って。だからそのことを本に書いてやったんですよ。

会場 (笑)

吉田 もうね、ヨシムラくんが思っている以上に学内に噂が広まって、不思議な空気になってますよ。

ヨシムラ 告発ですよ。どう思いますか?手羽さん。

手羽 いや、そのことよりも、武蔵美から見ると京都造形は嫌な存在なんです。嫌いではないんだけれど。とにかく動きが早いんですよね。「企業っぽい大学」っていうか、問題が起きると素早く解決に向かっていて。若い大学のメリットをすごく感じるんです。

吉田 それはよく言われます。武蔵美、多摩美と比べて、うちの大学は歴史が半分以下で、それは弱点でもあります。一方で、だからこそ、独自路線を進んでいかないと、という思いは強く持ってます。うちは、社会の変革に活かせる人材を育てることと、それが学生のためになっているのかという2点をクリアしているかどうかで物事が決定されるんです。そこがスピード感に繋がっているのかなと。

米山 京都造形は、来る学生の層が他の大学とは違うということをすごくよく分かっていますよね。それに、京都造形に入った学生の近況を教えてくれるらしいんですよ。例えば、高校の先生に「今、こんなことをしてます」と手紙を送るらしいんですね。こんなことは武蔵美や多摩美はあり得ないですよ。そうやって手厚く育てようとしてる部分は特徴ですよね。



美大に入るには才能が必要か。美大生にとって本当に必要なものとは?

ヨシムラ ちょっとみなさんに聞きたいことがあるのですが。ある雑誌で美大の特集をやっていて「高校生の息子が美大に入りたいと言っているが、親から見ると美術で生きていけるほどの才能があるとは思えない」という話があって。この意見に対してはどう思いますか?
 


  • 過去に27人の武蔵美生146本のブログをまとめた『ムサビ日記』を執筆している手羽氏

 
手羽 私は「大丈夫ですよ」と答えます。なぜなら、才能ある人ってそんなにいっぱいいるのかなと。自分もそうだったけど、美大に入ると、自分よりも上手い人がいっぱいいることが分かるんですよ。そうなると、美術のサポート側に回るとか、なにかしらの方法で美術に関わっていく選択肢も考えられるようになる。それができるのが美大の良さだとも思います。才能があるかどうかが美術をあきらめる理由にはならないし、美大に入ってみればいいじゃんと。学費が高いから現実的にはこんなに簡単には言えないのだけど。

吉田 職業柄、年中この質問はされますね。才能という定義も学科によって違うのですが、なんにせよある程度の「熱量」は必要だと思います。ヨシムラくんを見ていても感じるけど、なにかを生み出したいという熱量がありますよね(笑)。あとは、両親に反対されたときに、突っぱねるだけの熱量も必要ですよね。

平野 例えば、餅を食べて喉につかえてしまう人がいれば、おいしく食べる人もいますよね。才能うんぬんではなく、美大をどう扱うかという意味でその息子次第ですよ。ただ、僕が武蔵美で働いていたときに学生に言っていたのは、親が一番最初のクライアントだということ。自分の気持ちや目指していることの魅力をしっかりプレゼンテーションして、納得してもらうことができないのであれば、親が悩んでしまうのも仕方ないんじゃないでしょうか。実際、ヨシムラくんのお母さんは毎日アマゾンで本の順位をチェックしてるよね(笑)。

ヨシムラ 毎日チェックしてますね。しかも、玄関に貼っちゃってますからね。
 


  • 実家の玄関に、平野さんがつくった『美大生図鑑』のフライヤーを貼るヨシムラ母

 
平野 自分の子供がやってることに対して、親の気持ちがノってるわけじゃないですか。美大生にとってこういう状況を作りだすことはとても大切だと思います。

ヨシムラ 「好きはものの上手なれ」という言葉があるように、美大は才能か熱量のどちらかが、他人よりも多くある人が行く学校だと思うんですよ。あとこの本のあとがきに書いたのは、美大は「ディズニーランドに似ている」と。あちらが夢の国ならこちらは美術の国で、中にいるときは夢を見させてくれるが、出た瞬間に厳しい現実が待っていると(笑)。

平野 彼自身は自分には才能がないと思ってるだろうし、実際ないのかもしれない(笑)。でも、こうやって本を出せたのは、日々それを上回る努力をしてきたから。毎日毎日、世の中の出来事を観察しながら切り取って書いていくことで、夢の国から卒業した後も生きていこうとしてるんだよね。彼は一見、変な奴に見えますが、ものすごく真面目で真摯な人間だと思いますよ。

ヨシムラ だからこそ、誰かに迷惑をかけるリアルな本が出来上がりましたよね(笑)。今日はいろんなことを話しましたけど、みなさん、外では絶対話さないでくださいよ。あ、でも、あの先生の話だけは、どんどん喋ってください(笑)。言葉で足を引っ張りたいがためにこの本を書いたようなものですからね。

吉田 いや、すごい熱量だよ(笑)。

ヨシムラ それはともかく、お越し下さりどうもありがとうございました。これでトークは終了です。
 


  • 1時間半に渡る濃密なトークは終了。詳しくは、本書を読んで確かめるべし!


  • トーク終了後は、サイン会を実施。この春に入学した新1年生など現役美大生も多くイベントに参加していた

▼イベント情報
5/20(土)下北沢B&Bにて『美大生図鑑』ヨシムラヒロムと『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』二宮敦人の2人による対談が決定!
>> 詳細(B&Bサイト内)

▼書籍情報
ヨシムラヒロム著『美大生図鑑 あなたの周りにもいる摩訶不思議な人たち』(飛鳥新社)
¥1,200(税込)
>> 詳細はAmazonにて

▼関連記事
さらにイベントの様子が気になる方は、登壇者の手羽イチロウさんによるレポートもチェック!
>> 「美大生図鑑読書会@6次元に出てきた。」手羽イチロウ



(執筆:酒井瑛作)

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