地域おこしとかは荷が重いよ、勝手に遊んでるだけだから—地層食堂・稲見朋子

東京に生まれて、東京の美大に行った。だけど、食卓に並ぶ食べものが作られているところが気になって拠点を新潟と長野へ。遊ぶように、ごはんを作って、制作している、稲見朋子さん。忘れられないごはんの味を作り出す「地層食堂」のこと。

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見た目が美しいごはん、おいしそうなごはんはたくさんある。でも、私はどうしても稲見朋子さんの手でにぎられたぎゅっと固めのおにぎりや、初めて食べた糸瓜や、柿を添えて食べたパテの懐かしい匂いが忘れられない。勢いよくケータリングの包みを開き、テーブルに手際よく並べられるごはん。土、文化、流通…その食材が目の前に来るまでには、地層のように重なった経緯がある。「地層食堂」という名前は、そんな経緯を意識しながら料理を食べて欲しいという思いからつけられたのだそうだ。

たまたま訪れた新潟で、「ここで働かせてくださーい!」って。



自分の目の前にくるまでにいろんなストーリーが食材の背景にあるということに美大時代から興味がありました。それを作り出す、農家のひとたちはどんな人たちなんだろう。そういうことをやっているところに行ってみたい!という思いで、女子美を卒業したあと新潟に移り、さらに長野にも拠点をかまえました。

もともと東京出身なんですが、新潟は、たまたま芸術祭の手伝いで訪れたのがきっかけで気に入ってしまって。「ここで働かせてくださーい!」って言ったのが始まり。住むところもその先その先で見つけて、もうひとつの拠点の長野では、シェアハウスに住んだりしてます。



地元の人に教えてもらいながら畑で野菜作りをしたりもしました。東京と新潟、長野の間を移動する自分のライフスタイルに合ってないなと思って今はやめてしまったけど、この畑仕事で大変さがわかったことが今の料理にも生きてますよ。

月に何度か東京にも出てきています。自分が思ったことやコアなことを話す相手、こういう食べ物が生まれる場所のストーリーに需要があるのは都会なんですよね。

例えば、新潟では雪の季節は3メートルも積もって、雪かきしないと冗談ぬきで死んじゃうし、作物も何も育たない。でもその分保存食の文化が発展しているんですよ。面白いですよね。そういう土地それぞれの食文化の話などをしています。

田舎はお金じゃなくて信用でできてる。だから生きていけてる。




この活動をしてると、どうやって食べてるのって聞かれることもよくあります。でも田舎って、物がたくさんあるし、お金がなくても生きていけるんです。都会はいつも「お金」で解決するでしょう?田舎は「信用」で解決なんです。だから、制作や料理を振る舞うのに必要なものがなくても、何人かに聞いていけばあったりするんですよね。そうだな、例えば…すっごく大きい鍋とか。「ある〜?」って聞くと「あーなんとかさんちにあるよ」って出てくるの。「あるんだ(笑)」って。

「地域おこし」は、私にはちょっと荷が重い。だって面白がって遊んでるだけだから。



最近、地域おこしのイベントに呼んでもらえたりするようにもなりました。だけど、私を「地域起こしをやってる人」として呼ばれるのはちょっと嫌なんです。「地域のためにやってあげてる」ってスタンスはちょっと荷が重い。ありがたいけど、私は面白いものを見つけてそれを面白がっているだけだから、人に押し付けたりしたくない。「私の場合は、このスタンスです」としておくことで、もっと幅広く物事を考えられるんじゃないかと思うから。

今ちょうど25歳になったところです。これからは…そうだなぁ。どこかに所属したいわけじゃない。夢もこれ!っていうのがなくて。何かになりたくてそれを目指すんじゃなくて、知りたいことややりたいことをもっともっとつきつめていきたいです。食とか、宗教とか、文化とか、知りたいことがたくさんあるから。
 新潟でも長野でも東京でも料理をするし、活動もする。飽き性だからそうやって転々としてるのが、私にはしっくりくるしちょうどいいんです。

◆プロフィール|稲見朋子

2015.女子美術大学洋画専攻 卒業。
大学在学中から友人の展示のレセプションパーティーなどの空間を個人で手がける仕事をするようになる。
卒業後、新潟に拠点を移し、芸術祭会場の管理人をする傍ら畑をしながら集落のおばあちゃんに料理を教わりつつ芸術祭関連の飲食店の手伝いをする。
食べることだけではなく、その水面下にあることを汲むことをコンセプトに、現在、須田めぐみと共に地層食堂という名前で活動もしている。

http://chiso-shokudou.tumblr.com/about

(執筆・写真/出川 光)

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OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。