美術手帖「あなたの知らないニューカマー・アーティスト100」から考える

2016年11月26日(土)

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昨日は1年半ぶりに都庁に行った手羽です。
「なるほど。こうやって記事になるんだな・・・」といろいろ勉強させてもらったんですが、都庁といえば、イサム・ノグチ、佐藤忠良、舟越保武、関根伸夫など大御所の力強い作品が都庁内外あちこちに設置されてて、「さすが都庁だ・・」といつも感動させられます。このスペースにこれだけの作品がある場所はあまりなく(しかも無料)、手羽のおすすめ彫刻スポットです。

おっと、今日は大御所作家の話ではなく、新人作家の話です。


美術手帖 2016年12月号はご覧になりました?
特集が「あなたの知らないニューカマー・アーティスト100」で、批評家、キュレータ、アーティスト、教授などが期待の若手アーティスト100組を一挙紹介してるんです。

美術手帖が日本の無名に近い若手作家を100組紹介するのは約10年ぶりって話だし、O JUNさん、三瀬夏之介さん、大庭大介さん、袴田京太朗先生と大学で教鞭をとるアーティストの座談会もあるし、恒例の「アート&デザイン学校ガイド」企画もあったんで、手羽も久しぶりに美術手帖を買いました。2016年2月号の浦沢直樹特集以来かな?立ち読みはしてるんだけども(すいません・・)
 
六本木アートナイトに出演してもらたノガミカツキくんを始め、手羽が知ってるアーティストも何人かいて嬉しい限り。
 

で、恐らくこの号を見て、誰もが(特に美大関係者が)感じたことはこれじゃないでしょうか。 

「藝大卒ばかりじゃね?・・・」

ほとんどの人がプロフィールに「東京芸大卒」と書かれてる印象で、「100人中何人がそうなんだろ?てか各大学は何人ぐらい入ってるんだろ?」と気になって気になって・・。


なので、とうとう調べちゃいました。
今まで美大関係者が思ってもやらなかったことを(笑)

方法はいたって簡単。こんな感じに「作家さんのプロフィール欄に書かれてる最終学歴と誰が推薦したか」をエクセルにまとめただけです。あ、「ページを1枚1枚めくりながら100人分」の超アナログ調査なので、間違ってたら教えてください。
 

「え。この人はムサビ卒で藝大大学院にいった学生さんだ!」とか知ってる人もいるけど、もちろんその場合も藝大カウント。
また、出身学校が書かれてないけどネットで検索するとすぐにわかるケースもあるんですが(一応全員分調べました)、その場合は美術手帖を優先して「記載なし」扱いにしました。


で、どうなったかというと、

24人:東京藝術大学
8人:多摩美術大学、京都造形芸術大学
6人:東北芸術工科大学、武蔵野美術大学
5人:京都市立芸術大学
4人:名古屋芸術大学
3人:愛知県立芸術大学、京都精華大学、広島市立大学
2人:東京造形大学、美学校 
1人:札幌大谷短期大学、金沢美術工芸大学、京都嵯峨芸術大学、情報科学芸術大学院大学、女子美術大学、清泉女子、朝鮮大学校、東亜大学、東京工芸大学、名古屋学芸大学、ニューヨーク市大ハンターカレッジ、パープルーム予備校、ロイヤルカレッジオブアート、早稲田大学
●記載なし12人


という結果に。

100人中24人が藝大卒!
つまり約4分の1が藝大で、しかもその24人全員が大学院で、しかもしかも在籍者が5人もいる!!
「さすが藝大」と言えるし、推薦者はキュレーター・批評家も入ってるんで、「作品をちゃんと発表(発信)して、届けたい人に届いている」ってことですよね。


・・と、このデータだけ見ると、「藝大はやっぱりすごいなあ」の次に皆さんはこう思うんじゃないでしょうか。
「ムサビはタマビと京都造形に負けて、東北芸工と同じ数。いつも偉そうなこと言ってるけどムサビダメじゃん」と。
手羽も調べてる途中、冷や汗がでましたが(笑)、これは「データをどう読むか」でして。

推薦者を見ると東北芸工6人を推薦してるのは全員東北芸術工科大学教授の三瀬夏之助さんだし、京都造形8人中7人は椿昇さんや名和晃平さん等京都造形関係者なんです。
一方、ムサビ油絵の袴田先生は2人紹介してて、1人はムサビOBだけどもう一人は芸大卒の方(笑)

これには二つの考え方ができます。
「自分ところの学生を紹介するなんて身内で固まりすぎじゃない?」という人もいれば、「発信力ある人がいるってことじゃないの?」という人もいるはず。
100%客観的なデータは絶対に作れないけど、「できるだけ」であれば、確かに大学関係者は外すべきかもしれません。

でも、最初に岩渕"ごまんといます”編集長がこう書いているんです。
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(略)美大卒業後にアーティストとして続けていくことが年々難しくなっており、またあと数年やっていれば可能性の芽が出てくるけれど、その間に制作をやめてしまう人が多い(中略)
今回心がけたのは、この特集に出ることで作家としての覚悟を決まったり、誌面を親に見せたらもう少し応援してくれるようになる、そんな作家を多く紹介すること。そのため推薦者は全国の大学の先生などにお願いして、身の回りの作家を数人ずつあげてもらった(略)
【美術手帖 2016年12月号P7より】

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この説明がなければ、手羽も「自分ところの卒業生ばかり紹介してる!!」と大騒ぎしてるかもしれないけど(笑)、今回の趣旨は「作家の後押し企画」というわけなんですね。やはり「美術手帖で注目アーティスト100人に選ばれた」となればモチベーションも上がるし、注目・応援してくれる人も増えますし。

教授が自大学の卒業生を選出するのは「なんであの人を選んで私を選んでくれなかったんですか!!」と言われたり、言わないまでも「先生はそう思ってたんだな・・」と感じられる怖さがあり、これが意外と難しいことで。
でも「他の連中はまだまだ頑張れるだろうけど、あいつ最近悩んでるから、ここで後押ししなくちゃ作家やめちゃうかもな・・」という気持ちで選出された先生もいるんじゃないかと。これを「客観的じゃない」と取るか「教員の優しさ」と取るか。
「教員選出の場合はそのへんの心理も含めた選出も入ってる」という視点で読むと、また変わった見方ができるかもしれません。
 

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。