NHK Eテレ「デザインあ」が考える「デザイン」とは?

フリーマガジンPARTNER38号のテーマは、「デザイン」でした。テーマを掘り下げるため、私たちPARTNER編集部はNHK Eテレで放送されているデザインをテーマにした教育番組「デザインあ」にお話をお伺いしました。

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「デザインあ」
http://www.nhk.or.jp/design-ah/

■放送時間
「デザインあ」
NHK Eテレ / 本放送 土曜 午前7:00~7:15
「デザインあ 5分版」
NHK Eテレ / 毎週 月曜〜金曜 午前7:25~7:30 / 毎週 木曜 午後17:40~17:45

■インタビュー
阿部憲子さん
NHKエデュケーショナルこども幼児部プロデューサー 
現在「デザインあ」などの制作に携わっている。


——「デザインあ」の「あ」には、どのような意味が込められているのでしょうか。
二つあります。「デザインあ」はコップや醤油差しなど身の回りにある物を、デザインの視点で見て発見をしていく番組で、その発見をした時の驚きを表す、「あっ」という意味が一つです。外国でも放送していて、そちらでは「あ」は「Ah」と表記されています。感じがよく出でていますね。それからもう一つは始まりの「あ」。日本語ではあいうえおの「あ」は平仮名の始まりの文字ですね。子供たちが身近なところから自分のまなざしを見つけていく最初の扉になりたい、という思いが込められています。

——「デザインあ」は子供け番組ですが、子供に向けてデザインというテーマを伝えていく意味とは何でしょうか。
子供番組に共通する目的は、子供たちの可能性を広げるきっかけを提供することです。世の中がどんどん複雑になっていく中、これからを生きる子供たちは、一つの方法論だけでは対処できなくなっていくのではないでしょうか。子供たちにとって大切なのは一つの方法ではなく、自分で何が問題なんだろうかとか、それはどうすればいいんだろうか、などと自ら考え、自分なりの解決方法を見つけ出す力なのではないか。では子供たちにデザインを伝えようというふうに始まりました。デザインには、ものともの、人ともの、人と人をより良い状態に繋ぐ力があるからです。一つの物を真剣に観察するとこんなにいろいろなことが見えてくるよということを伝えて、最終的には子供たちが自主的に物を見て、より良く生きる工夫を見いだそうとする意識を育めたら番組としては嬉しいなと思っています。

——実際の子供たちの反応はどうですか。
子供たちには結構難しいのではないかと言われるのですが、意外と2歳ぐらいの小さなお子さんも夢中で見てくれています。それは身近な物のすごさを直観的に感じる力があるからではないかと思います。子供たちだけではなく、大人の方で見てくれる方も結構いらっしゃいます。親子や、おじいちゃんとお孫さんだったり、子供番組と思わずに見てくださる方もいます。テーマがどこにでもあるものなので、世代や性別を問わず、子供は子供なりの、大人は大人なりの発見を提供できるテーマだからだと私たちは考えています。

——子供たちに「すごい」と感じさせる力とは、具体的に何だとお考えですか?
視点のユニークさ、そして映像と音楽です。可愛らしいキャラクターがいたり、子供向けの言葉を使って説明をするなどの方法がありますよね。「デザインあ」ではそういうものを一切使わないルールでつくってみよう、ということを試みました。ナレーションをなるべく使わず、第一線で活躍するクリエイターたちがつくった映像と音楽を用いて、制作するという方法です。やはりデザインの番組なので、理屈の工夫だけではなく、目で見て本当に気持ちがいいなとか綺麗だなと子供が思わないと、道徳の番組みたいになってしまう。デザインってすごく楽しく、綺麗でワクワクすると思わせるためには映像と音楽で素晴らしいデザインを見せていかないと、子供たちには感覚的に納得できるものにならないだろうと考えています。もう一つは物の見方です。みんなが知っているような物でも違う視点で見てみたら、あっこうだった、という発見ができるような物の見方を提示しています。さらに、その物自体にもこだわっています。20灯も照明たいたり、最新のカメラを使ってみたり、ワンカットに何時間もかけて撮っていくので、被写体がきちんとつくられたものでないと素材の粗が目立ち、映像として耐えられない。物の見せ方、物自体にこだわることで普通に見ていた時と見えてくるものが歴然と変わってくるんです。

——番組やコーナーで特集する物を決める基準は何でしょうか。
先ほども言ったのですが、まずは子供にとって身近な物か、です。あとはその場限りで終わってしまう物ではく、いくつかの法則でどれだけ発見、発想が引き出せる物であるか。しっかりとつくられた物を選んでいるのでビジュアルのきれいさは考えていないかもしれないですね。

——「デザインあ」では個性的で面白いコーナーが沢山あります。それらを代表して「解散」というコーナーの制作秘話をお聞きします。(「解散」とは身の回りにある物を分解し、バラバラになった部品を素材や色、大きさなどに種類分けをして並べた状態が動いているように見える様子を紹介するコーナー)
「解散」はCGではなくコマ撮りで、岡崎智弘さんというクリエイターが一人でつくっているんですよ。1分弱のコーナーですけれど、朝から晩まで撮って4日間ほどかかります。この間はお好み焼きのソースが動きました。液体の動く様子もCGではなく、針などで液体を少しずつ足していき、反対側を拭いて、動いているように見せています。照明を沢山あてるので、液体だと蒸発しちゃうんですね。蒸発しにくいように、ものによっては保湿剤を入れたりします。あとかつおぶしが歩いているのはなぜだと聞かれますが、もちろんCGではないです。かつおぶしにそっくりな固い素材を薄く削ったり、立たせて歩かせていました。このように特別な技術でつくっているわけではなく、工夫だけでつくっているので、それが魅力なのかなと思います。

——そういったコーナーを新しくつくる時の発想はどういうところから生まれるのですか?
様々なコーナーをつくっているクリエイターの方々とほぼ365日考えています。特にディレクターは寝ても覚めても考えています。5年間で約50ほどコーナーがあるのですが、年間にできる新しいコーナーは大抵6つから8つくらい。そのために企画は60くらい出し合い、企画会議をしてどの企画が一番強い力を持っているか精査し選び抜きます。コンセプトの部分では面白いと思っていてもつくるうちに「これ何が面白かったんだっけ?映像にしたらつまらないよね?」ということもあり、試行錯誤を重ねた上でできた企画が放送されています。企画として本当に強いものって、最初から力があるな、残るべくして残ったな、というのを感じます。弱い企画は、良くするために練り直すのですが、どうもきまらない。だからコンセプトがシンプルで強く普遍性があるものは残るし、結果的に迷わず企画として完成していきますね。うまくいかなかった企画もいっぱいありますけど、あまり言いたくないです。(笑)

——「デザインあ」にとってのデザインとはなんですか?
デザインってそれこそ何をデザインと呼ぶか、という問題があると思いますが、私たちがこの番組でデザインと考えているのは、一つの物事をより良くするための知恵や美しい工夫。何か物や物事があった時にそれをまずよく見て、そこにどういう問題点があって、それを解決するにはどう改善すればいいのだろうか、どういう方法があるのかを考え、見つけ出して、より良い状態をつくることをデザインと広く捉えています。

——最後に「デザインあ」から美大生に一言お願いします。
デザインを勉強する学生さんたちこそ、世の中をより良くする、みんながより良く生きる知恵やそういったものをつくっていく方達だと思っているので、あまりコンセプトみたいなところから考えないで、様々なものを見たり、様々な経験をしていただきたいなと思っています。番組の総合指導を務めるグラフィックデザイナーの佐藤卓さんが、デザインというものがあるのではなく、何かと何かをより良く繋ぐことがデザインなのかなとおっしゃっています。そうであるとすれば、それこそデザインをつくる方たちには学生時代にジャンルに捉われずに作品制作をしてそこでしか得られない経験をすることが大切なんじゃないかなと思います。美大生の方たちは何かをつくることを楽しいと感じたり、一銭の儲けにもならなくても、新しいアイデアや価値というものをつくって発信することの喜びを感じられる人たちだと思います。そんなスピリットが新しい扉を開くのだと思います。



番組の制作、放送という仕事をされているからこそ説得力のあるデザインへの考え方をお伺いできました。阿部憲子さん、ありがとうございました!
以上、関東支部の黒澤がお送りしました。


執筆:黒澤麗(PARTNER38号ライター)


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