昔いっしょにバカなことした友だちと、今は仕事してる ─イラストレーター・わかばやしたえこ

あのころ肩を並べてアトリエでデッサンしたり、一緒に講評をきいたりしていたみんなは今、なにをして"食ってる"の?卒業したあとからはじまるクリエイター人生、みんなの「いまの食いぶち」が聞いてみたい。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

——————————————————————
イラストレーター

わかばやしたえこ

2009年に美大を卒業した。
いまはイラストレーターとして、雑誌や書籍にイラストを描いたり、LINEのスタンプをつくったり。
最近子どもが生まれたばかり。
——————————————————————





学生時代、先生の「いい」って言うものがわかんなかった

「特技を仕事にしたい」っていうシンプルな動機で、美術予備校に通ってるころから「将来は自分のイラストを使ったデザインの仕事をしたいな」って思ってた。
でもその当時、自分が良いって思って出したものと、先生が良いって言うものが食い違ってて、なんか釈然としなかったんだよね。イラストのお仕事をするようになった今だからわかるんだけど……仕事って、そういうものなんだね(笑)!
 


  • これは美大時代。

 
自分がベストだと思って出したイラストでも、お客さんにはいっぱい修正を入れられるよ。そういうやりとりのときに、美術予備校や美大での先生との攻防を思い出してる。そういう場面で美大での経験が役に立つなんて、当時は思いもしなかったけど。



就職したけど、そういえば絵が描きたいんだったと思い出す

美大のデザインコースを卒業して、そのまま印刷会社のデザイン制作部門に入ったんだけど、1年半で希望退職しちゃった。そこでは広告やポスターを作ってたんだけど、なんか……「絵が描きたい!」って思うようになっちゃって。わたしがしたかったのは「調理」じゃなくて「素材作り」だったんだって気づいたというか。
 



名刺にとりあえず「イラストレーター」って書いちゃえばいいらしい

そんな感じで会社を辞めたとはいえ、「決意の独立!」ってわけでも全然なくて。無職になったわたしがいきなり「イラストレーター」なんて大それた肩書を名乗っていいのか!?って不安になったんだよね。
それで、美術予備校時代の友だちに相談したら「名乗っちゃえよ」って言われた。「イラストレーターですって名刺に書いちゃえばいいじゃん」って。
それから恐る恐るイラストレーターを名乗り始めてみたら、周りの人たちがそれを覚えてくれてて、「そういえばイラストレーターやってるって言ってたよね?」って仕事をくれるようになった。何をやってるのかわからない人でいるよりも、「イラストレーターです!」って自称でも言い切っちゃったほうが、相手も依頼しやすいのかもしれないね。
 


完全に人生の迷子になる

最初のうちは、親戚とか美大時代の友だち、前職の知人とかがイラストのお仕事の依頼をくれていたんだけど、その後ぜんぜん仕事がない時期がくるの。じゃあバイトでもしようかと思ってショップ店員をやってみたんだけど、それも2日で辞めてさ……。合わなかったんだよね……。さすがにこの頃は「わたしは何をやっても続かないのでは……」って落ち込んだね。とにかく自信喪失して、白い紙を目の前に置いても絵が描けなくなった。ほんと、どん詰まりだった。
 


  • そのときの様子。自筆。


もう完全に路頭に迷ったから、また美術予備校時代の友だちに相談したら、その子も新しい仕事を起ち上げたばかりで、苦戦してたみたいで。だから一緒に相談して、その子がやっていたクラウド・ファンディングのプラットフォームで自分のプロジェクトをやってみることにしたんだ。

>> Twitterアイコンを描いてタイムラインをイラストギャラリーにするプロジェクト

支援してくれた人の似顔絵を100個くらい描きまくったんだけど、とにかく似顔絵のトレーニングになったし、なによりも「何かをやってる」っていう充実感があって、完全に失ってた自信を取り戻せた。実家のお母さんにも「ちゃんと絵のお仕事してるんだね」って認めてもらえたし(笑)。止まってたエンジンをもう一回かけなおすきっかけになったよ。



犬が好きすぎて犬のイラスト発注に泣く
 


  • 美大のときに描いた犬の絵。いまはチワワを飼ってる。


仕事でいちばんうれしかったのは、犬の雑誌のイラストの依頼をもらったとき。わたしは昔から犬がすごく好きで、美大生時代から犬を描き続けていたから、ずっと犬のイラストのお仕事がしたかったんだよね。だからその依頼の連絡をもらったときは本当にうれしかった。正直、ちょっと泣いた。
 


  • その依頼の電話を受けたとき。ちなみに井の頭線ホーム

 
LINEのスタンプはこれまでに4種類作ってるよ。自分で自分のイラストのスタンプを使いたいなと思って始めたから「売れなくてもいいや」って感じだったんだけど、けっこう好評で、使ってくれている人がいると思うとうれしいね。
 


  • ▲LINEスタンプのひとつ「子犬のぽぬ」。汎用性高いと好評です

 
続けていれば覚えていてもらえる。そしたらまた続けられる

今は子どもが生まれて、8ヶ月。子育てしながらイラストのお仕事も続けたらちょっとかっこよくない?って思って、赤ん坊を背中におんぶした状態で絵を描いたりしてるけど、やっぱりすごく描きにくいし全然集中できないね(笑)。現実的には周りの人にすごく助けてもらいながらお仕事も続けている感じ。
 

 
周囲で同じような仕事をもっと本格的にやって活躍している人を見ると、当然うらやましいし嫉妬の気持ちもちょっとあるよ。でも、こつこつ仕事を続けていれば、昔からの友だちや知人にわたしがイラストレーターだってことを覚えていてもらえる。覚えていてもらえると、仕事の依頼が来たりする。そうやってまた、仕事を続けられる。
昔、絵とは全然関係ないバカなことをいっしょにやって遊んでた友だちと、今は一緒に仕事してるんだと思うと、なんか人生の縁って、おもしろいよね。

>> わかばやしたえこ公式サイト





(写真/出川光、聞き手/吉川晶子)

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

STUDENT WRITER

partner official / partner official

PARTNER編集部です。 編集部アカウントでは、フリーマガジンやイベントなど、総合メディアPARTNERに関わる様々な情報を提供いたします。