世界・国内の広告賞
どれに出すか、その見極めは「審査員」
世界の国際広告賞(広告やマーケティングのクリエイティビティに与えられる賞)はなんと100以上もあるとか。なかでも有名な「カンヌライオン」には、会期中約100カ国から15,000人以上の来場者が集まり、全21部門に40,000点を超える作品が応募されるという。
▼代表的な国際広告賞
- カンヌ国際広告賞
(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)
- クリオ賞
- One Show
- ニューヨークADC賞
- ニューヨーク・フェスティバル
- D&AD
参照元:ADVERTISING MUSEUM TOKYO 広告図書館
▼代表的な国内の広告賞・広告コンペ
- 朝日広告賞
- 読売広告大賞
- ADC賞
- JAGDA新人賞
参照元:ADVERTISING MUSEUM TOKYO 広告図書館
それぞれのコンペに特色があり、選ばれる作品の傾向も大きく異なる。それもそのはず、全て評価の軸が異なるのだ。数多くの広告賞にチャレンジし、実績を上げている電通アートディレクター(現在6年目)の松永美春さん曰く「それら評価軸を判別する上で一番大事なのは審査員」だという。たとえば、朝日広告賞など伝統的な国内の広告賞の多くは、審査員に大御所のエリートアートディレクターやコピーライターの名前が並ぶことが多い。すると、広告賞にチャレンジする参加者には若手だけでなく上の世代も増えるという。
一方で、松永さんが日本代表に選ばれたヤングカンヌのように若手を対象にした賞やコンペの多くは、審査員自体も30〜40代の若い世代が担っている場合が多い。
ちなみに、広告賞と広告コンペは内容が異なる。前者は基本的にエントリー式で、自身の制作した広告作品を提出し評価を得るもの。後者は、毎年設定されるコンペ課題に対し、一定の期間で広告アイデアやアウトプットを提出するもの。「賞は自分が考えていることを試す場所で、コンペはアイデアの訓練の場所」と松永さんは説明してくれた。
>> まだまだ広告コンペについて気になる方は、下記記事・サイトもオススメです。
「10分で読める世界の広告賞入門」|電通報(2015年3月4日)
「世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ」とは?日本の受賞作品を振り返ってみた」|LIG inc.(2015年7月16日)
「【カンヌ直前集中連載】世界の広告賞をおさらいしよう」|AdverTimes(2012年6月13日)
ヤングカンヌとは
若手の登竜門・ヤングカンヌは、いいものをつくり出す「訓練」だ
広告賞や広告コンペの中には、若手が応募できるものも少なくない。中には美大生が応募できるものもあるという。
かのカンヌライオンが主催する若手のコンペティションもある。それがヤングカンヌだ。30歳以下のプロフェッショナルが対象のこのコンペでは、各国の代表2名1チームが参加する。参加チームは、現地で与えられた課題に対し定められた時間内に作成した映像や企画書の提出、またはプレゼンテーションを行い、その中から審査でゴールド、シルバー、ブロンズが選出される。
日本でもこの代表チームを決定するための国内選考会が開かれる。2016年の国内選考会はすでに終えており、今年は先ほど紹介した電通の若手2名、松永美春さんと坂本弥光さんのチームがゴールドを勝ちとった。ここからは、松永さんにたっぷり広告コンペの魅力、ヤングカンヌを勝ちとるまでのエピソードを紹介してもらおう。
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松永美春
1989年横浜生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。
2011年電通入社。アートディレクター。ONE SHOW,東京ADC賞 プレノミネート,ONE SHOW winner presentation in NY 2015,Music Hack Day Tokyo 2015 最優秀賞,ヤングカンヌ2016デザイン部門日本選考ゴールド、Advertising Age young cover competition finalist in 2015,読売広告賞,朝日広告賞,交通広告グランプリほか多数。JAGDA会員 TDC会員。
— ヤングカンヌにエントリーする意義ってなんなのでしょうか。
松永:「ヤングカンヌってなんのためにあると思う?」と2013年の日本代表選考会フィルム部門ファイナリストのワークショップの時に聞かれたことがあります。それまで考えたことなかったんですが、「次の世代にもアイデアや正しい概念を伝えていくため、ちゃんと考え続ける世代を残していくためにあるんだよ」と聞いてすごく納得したんです。確かに仕事でも「制限」のなかでいいものをつくらなくてはいけない。コンペも同様に限られた時間の中で考え抜いて一番いいものを作り出す「訓練」だなと思うんです。だから私はコンペがすごく好きで、去年も一通り全部チャレンジしました。
ヤングカンヌ攻略のために
「カンヌに関して一番詳しい自信がある」
— ただでさえ忙しいお仕事、どうやって時間を捻出しているんですか。
松永:全部土日にやっています。昨年も毎週ヤングカンヌにエントリーして参加していたので1月〜3月はほぼ休みがなくて‥‥。昨年、全部の部門で応募したのですが、それでも残ったのはファイナリスト1つだけ。これまでも何回かチャレンジしてもうすこしのところで代表に残れなかったので、今年ようやく選ばれて「本当によかったー」って思いました。
— 今年ついにヤングカンヌでゴールドがとれたというのは、繰り返しその「訓練」をした成果なのでしょうか。
松永:たしかにそれはあると思います。ヤングカンヌのコンペでは、31時間で提出しなくてはならないのですが、初めてチャレンジしたときに比べると明らかにディスカッションのスピードが早くなりましたね。「みんなはこういうアプローチでくるだろうね」「他と被らないようにどう差別化しようか」など、ケースが増えたことによって必然と周りのアプローチが想定できるようになったり、アイデアに対して「これはもうやられている」「まだない」や、「みたことある」「ない」などもわかってきたりして、アイデアの研ぎ澄ませ方がわかってきたのかなと思います。自分で言うのも畏れ多いですが、このカンヌクリエイティブ祭に関しては若手で一番詳しい自信があるんです(笑) 会社で開催されるカンヌ勉強会に全部出席して、日本人審査員の話を聞いてどの部門が何を評価するか、全ての部門のゴールドシルバーはだいたい全部見て、どういう作品が賞をとっているかなど分からないなりに理解しようとしていました。その上で、私にとって一番魅力的だったのは「デザイン部門」でしたね。デザイン部門だけはデザインを専門的に勉強した人でないととれない。つまり、その他の職種の人は手が出せない領域なんですよね。
コンペに駆り立てるもの
賞という響きに憧れてスタート、「人から評価されると自信つく」
— カンヌのマニアですね(笑) 何がそんなに松永さんをカンヌに駆り立てるんでしょうか。
松永:過去に一度ヤングカンヌ日本代表選考のファイナリストになったことがあったんです。代表にはなれなかったにも関わらずカンヌまで足を運んで、自分が何かをやるために行かないとなんの意味もないということを痛感したんです。1週間カンヌにいたけどすごい悔しくて楽しくなくて。表彰式みて悔しくて泣いてたんですよ(笑) とても生意気なんですけど(笑)、なんで私があそこに立っていないんだろうって。でも実は、悔しさってすごくいい原動力で、そのあとにつくった作品は賞をもらうことができたんです。人から評価されると自信つきますよね。
— 「人から評価されると自信がつく」っていうのはわかるんですが、コンペは評価されないことの方が多いですよね。評価されたくて出すんだけれど、評価されないリスクの方が大きいという…。
松永:はい、評価されないことの方が多いと思います。一回一回気にしていたらキリがないから、過ぎたことは気にしない。仕事も同じで、いちいち落ち込んでいたら身がもたないですね。
— 新入社員の時からそんな風に切り替えることができていたんですか。
松永:いえいえ、はじめは毎回落ち込んでいましたよ。今ももちろん悔しいとかありますし。でも、当時と大きく違うのは、なんでダメだったのか考えるようになったことだと思います。コンペの結果が出た後に審査員からコメントがもらえることが多いんですが、そのコメントを「そういうことか」と理解してペアで話してお互いに意見交換・答え合わせをして。もしコメントがもらえなかったら、自分から審査員に連絡して、理由を聞きました。自分の中で一回納得するんです。なんでダメだったか考えて、次はそうしないようにしようと。
コンペを勝ち抜いて
「賞は自信を与えてくれた。ただそれが全てではない」
— 1年目のころから広告コンペに軒並みエントリーしたと伺いましたが、のめり込んだのはどうしてだったのですか。
松永:「賞」って響きに憧れて、いっぱい賞をとりたいとチャレンジしてきました。でも実は最近、一周回って「もう賞を目標にするのはやめよう」と思うようになったんですけどね(笑) アートディレクションとかデザインって本当はなんなんだろうと考えるようになって、別に賞をとるためのものではないなと。賞は自分が考えたことを投げかけ、それを評価される場所だけど、評価する人が一体誰なのかということがとても大事で、カンヌもみんながみんな素晴らしい審査員ばかりではないということを考えると、必要以上にカンヌにこだわる必要はないんじゃないかなと思うようになりました。たしかに広告賞や広告コンペは自分のステップアップにはなるんですが、それ自体が目的ではないんですよね。だから本当にいいものをつくる人たちは賞やコンペでの受賞を目指していない。彼らは「1mmでも新しいものをつくる」「1秒でも時間があればおもしろいものをつくろう」としているんです。そういう人たちに会ったり話をしたりすると、自分がちっぽけだなと思って。
— 一周回ったということは自信がついたのかもしれないですね。
松永:そうかもしれないですね。賞は自信を与えてくれたから、本当にありがたかったです。結果が出なくて自己否定していた自分が救われました。普段、自分がつくっているものがいいのか悪いのかわからないから、それを判断してくれるのはありがたい基準だし、「少しでもいいものをつくろう」としている大人たちが審査してくれると嬉しいんです。ただこれが全てではないですね。いまは時代のせいか、賞を過大評価する風潮がありますが、私たちは人の評価を気にすることなく、ただ良いものを作っていくべきだと思います。
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広告賞や広告コンペの理解は深まっただろうか。印象は変わっただろうか。
本業があって時間も限られているなかで、自らの主体性でコンペに応募するというのは簡単じゃない。自分の中で応募する動機や意味づけがなされていないと、なかなか重い腰は上がらない。学生のコンペだってそう。動機が曖昧で、応募して宝くじのように「当たった、外れた」なんて言っていては得られるものは限られる。松永さんの場合は、応募して終わらずに何がダメだったのか徹底的に反省する、そこまで含めて「いいものをつくり出す『訓練』」なんだろう。
それにしても、彼女の「いいものをつくる」ことに対する貪欲さ・ストイックはすごい!インタビューに協力いただいた松永美春さんに興味の膨らんだ方は、ぜひ彼女の生き方インタビューも読んでみてほしい。
>> 学生時代の同級生がきく、松永美春さんインタビュー
「『美大をチョイスをした17歳の自分偉い!』電通AD松永美春インタビュー」
トップ画像:「MISO SOUP IS ON THE RIGHT」
編集者/メディエイター。美大での4年間は「アートと世の中を繋ぐ人になる」ことを目標に、フリーペーパーPARTNERを編集してみたり、展覧会THE SIXの運営をしてみたり、就活アート展『美ナビ展』の企画書をつくったりしてすごしました。現在チリ・サンチャゴ在住。ウェブメディアPARTNERの編集、記事執筆など。