女の子が「音楽」と「テクノロジー」に関わる機会を!スウェーデンのPOPKOLLO プロジェクト

「最新のテクノロジー」というと頭に男性のイメージが浮かびませんか?アートでも音楽でも、伝統的な手法を用いた分野においては、女性アーティストの活躍も少なくはないのですが、「テクノロジー」を介するフィールドとなると、極端に男性人口が増えるのはなぜなのでしょう?電子工学の発展とともに成長をとげている電子音楽は、まさに「男の世界」。POPKOLLOは、そんな男性中心の電子音楽界で、女性がより活躍できるために立ち上げられたスウェーデンのプロジェクト。今回はそのPOPKOLLOプロジェクトについて、音楽プロデューサーのマリアへのインタビューを交えながらお伝えします。

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「女性だから」機械が苦手なのではない!

まずは少し私の話から。
私自身、「自分は機械が超苦手」だと思い込んで今に至っています。「配線」という言葉を聞いただけで、「わかりません」と即答してしまうほどのレベルです。
しかしながら、具体的に苦手だと思った経緯を思い出そうとしても、具体的な出来事は頭に浮かばず、「なぜ機械が苦手だと思い込んでいるのだろう」と更に考えてみると、「機械に触れるきっかけがなかったからだ」というところに行き着きました。そして、なぜその機会が少なかったというと...... おそらく「女だから」だということが関係していることに気付いたのです。

「機械に強いのは男、弱いのは女。」というのが当たり前の事実のようにまかり通っている世の中。私自身も、機械操作がうまくいかない時には、自然と男性にヘルプを求めてしまいますし、機械系の仕事は男の人にやってもらおうという考えが、疑いもなく浮かびます。

また、女性が苦手意識を感じてしまうのは、機械の分野だけではありません。女性が「女だから出来ない」と感じる場面は、日常の中で多々あります。
例えば、私は職場で脚立に上ることが頻繁にあるのですが、仕事を始めた当初は脚立に上るのが怖く、できれば他の人にやってもらいたいなぁと思っていました。しかしほぼ女性だけの職場のため、「自分でやるしかない」と思い、自ら上って作業をするうちに、全く怖くないことがわかり、今では率先して脚立作業を行っています。しかし、もし職場に男性が多かったら、脚立作業は全て男性に任せてしまっていて、未だに「私は脚立に上れない」と思い込んでいたと思うのです。

脚立に上ることはほんの小さなステップですが、いわゆる「やってみたら意外と出来る」ということは多いのではないでしょうか。しかし、それをトライしてみる機会を「男性だから」「女性だから」ということで失っていて、勝手に苦手意識をもってしまっていることが多いように思うのです。何事もやってみないとわかりません。わからないのに、「男の仕事」と「女の仕事」を自ずと分けて、その枠に無理矢理押し込んでしまっているのではないかと思うのです。


  • photo by Katja Lindeberg



男の世界?電子音楽の仕事

マリア・ホーンは、電子音楽プロデューサー、作曲家。私が役員を務める芸術協会フィルキンゲンのメンバーでもあります。複数のグループに所属しながら、幅広く音楽活動をしているマリアは、現在のスウェーデン電子音楽界を牽引する若手のホープでもあります。
そんな彼女に、電子音楽界のジェンダー事情を聞いてみました。

「作曲業界は、ただでさえ男の世界なんだけど、私が専門にしている電子音楽は、テクノロジーの知識が必要だから、本当に男性ばっかりよ。」

マリアが勉強していた王立音楽大学の電子音楽作曲科では、長きに渡って男子生徒がほとんどで、彼女の代からやっと女子生徒をちらほら見かけるようになったそうです。

「この分野の女性進出に関しては、スウェーデンが先駆者といった感じね。交換留学で行ったベルリンの大学では女子生徒はほとんどいなかったもの。」と付け加えるマリア。

そんな男の世界で活躍するマリアが音楽を始めたきっかけは、11歳のときにパンクガールズバンドを組んだこと。その時に女の子同士が協力して、物事を実行することの重要さを実感したのだそう。

「バンドにリーダーはいなくて、皆で一緒に話し合って物事を決めてたの。グループ内にヒエラルキーがなくて全員に決める権利があったのね。これって『フェミニスト的』な考え方だと思うの。子供の頃から、フェミニストのやり方を自然と実践していたのよ。」

男性ばかりの世界でやりにくいところはないのか、と聞いてみると、

「コンサートなどで、サウンドエンジニアとして働くときは、ダークな色の服を着て、なるべく男性のようにタフに振る舞うようにしてる。残念だけど、女性というだけでなめられちゃう世界なの。」

確かに女性らしい人が機械をいじっていたら、「本当に大丈夫?」と自動的に思ってしまうのは、悲しい現実かもしれません。



女の子が音楽/テクノロジーに触れるきっかけを!POPKOLLOプロジェクト

そのマリアが現在携わっているプロジェクト「POPKOLLO」は、ティーンネイジャーの女の子とトランスジェンダーの子供を対象にした音楽教育プログラム。2003年に女の子たちのための「音楽キャンプ」という形でスタートしました。様々なジャンルの音楽の楽器演奏、作曲、DJテクニックを、プロのアーティスト達からワークショップ形式で学べます。
マリアが担当しているのは、”Vem kan bli producent? (「誰がプロデューサーになれる?」という意味)”という一年間のプロデューサー育成プログラムで、18歳から30歳が対象です。男性が多いとされる音楽プロデューサーの分野で、女の子とトランスジェンダーの人達が、テクノロジーを駆使しながら音楽プロデュースに携わる機会を作ることを目的としています。

マリアが具体的な教育方法について説明してくれました。

「Norm Critical Pedagogyという、特定の社会グループからの視点(いわゆる白人男性的視点)が『標準』とされている物事に対して、クリティカルに考慮しながら教育を進めていく方法をとっているの。テクノロジーにまつわる基準は、男性的なことがほとんどだから。」

いわゆるマジョリティーからの視点だけではなく、マイノリティーからの視点もふまえた教育方法。「当たり前」とされていることに疑問をもつことで、より多くの人が生活しやすい環境を作っていくことを目指しています。因みにスウェーデンで、このNorm Critical Pedagogyの考え方は、教育現場だけではなく、TV番組、新聞、広告などのメディアの分野でも応用されています。

そして、このPOPKOLLOの活動が発展して実現されたのが、”Tekla Festival”。スウェーデンの人気女性歌手Robynが王立工科大学(KTH)と提携して生まれたテクノロジーのフェスティバルです。11歳から18歳の女の子を対象にしています。期間中、大学内でロボットプログラミング、ゲームデザイン、3Dプリンターなどの最新テクノロジーを体験することができます。
より多くの女の子たちがテクノロジーに携われる機会を作っていくこと、更にこの分野で活躍する女性たちに焦点を当てることで、女性のロールモデルを確立していくことが、Tekla Festivalの主な目的です。

このフェスティバルは、いわゆる「お勉強」といった形でテクノロジーを体験するのではなく、音楽を楽しむように気軽に楽しくテクノロジーに触れる機会を提供しているところがとても興味深いところです。



「これが当たり前」だと思ってはいけない

いわゆる「男の世界」とされている分野で、女性が活躍するには個人の努力だけでは十分ではありません。テクノロジーの世界は、男性が多くて「当たり前」だと思っていること自体に、社会全体が大きな疑問をもたなくてはいけないと思うのです。
POPKOLLOは、アートや音楽などのクリエイティブの現場がイニシアティブをとって社会に対してメッセージを投げかけていく、良い成功例だと思います。そして、クリエイティビティーをツールに、柔軟に社会問題と向き合っていくことの更なる可能性も感じさせてくれます。

私も「女だからできなくて当たり前」とか、「女だからやらなくて当たり前」と思ってしまう事柄に対して、日常的に考え直していくことから始めてみようと思います。私が最新テクノロジーを駆使したパフォーマンスをするときも意外と近いかもしれません......

➜POPKOLLO http://www.popkollo.se/
➜VEM KAN BLI PRODUCENT http://www.vemkanbliproducent.com/
➜MARIA W HORN http://mariahorn.se/
➜TEKLA FESTIVALhttp://www.teklafestival.se/

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OTONA WRITER

HIROKO TSUCHIMOTO / Hiroko Tsuchimoto

1984年北海道生まれ。ストックホルム在住。武蔵野美術大学卒業後、2008年にスウェーデンに移住。コンストファック(国立美術工芸デザイン大学)、スウェーデン王立美術大学で勉強した後、主にパフォーマンスを媒体に活動している。過去3年間に、13カ国52ヶ所での展覧会、イベントに参加。昨今では、パフォーマンスイベントのキュレーション、ストックホルムの芸術協会フィルキンゲンで役員も務めている。