誰も知らないフランスで、発表する機会をつくった私のスタンス

作品を作ったら他人の目に触れる為に発表をすることが作家としての基本サイクルだと思います。私はフランスになにか繋がりがあって渡航したわけではありませんでしたが、滞在中、個展の開催やグループ展への参加、プレゼンテーションイベントやミュージッククリップビデオへの出演、CDジャケットの制作など、様々な形で発表する機会を頂きました。そういった作品発表の機会を振り返ってみて、思ったことを書いてみたいと思います。

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昨年の12月に約4年の滞在を終えて、日本へ完全帰国しました。今回は滞在中に行った作品発表の機会を振り返ってみて、思ったことを書いてみたいと思います。

滞在の期間中、様々な形での作品の発表を行いました。個展の開催やグループ展への参加、プレゼンテーションイベントやミュージッククリップビデオへの出演、CDジャケットの制作など、様々な形で発表する機会を頂きました。

作品を作ったら他人の目に触れる為に発表をすることが作家としての基本サイクルだと思います。しかし、その為には場所や機会を自分で探さなくてはなりません。私の場合はなにか繋がりがあって渡航したわけではなかったので、アトリエも含めて一から探さなくてはならない状況でした。


  • フランスで初めて行った展覧会。ガレージをアトリエとして使っていたところを会場として使った。

そんな中で主な展覧会を行う為のきっかけとなった経緯を少し具体的に書いてみたいと思います。

最初は通っていた語学学校でアルバイトとして働いていた現地の作家が行っていたアーティストレジデンスへ入り、アトリエを解放するという形で展覧会を行いました。

その時ホームステイをしていた家主が知り合いのアーティストを紹介してくれ、最初の個展を見てもらい、それが縁で彼の知り合いのアンティークのお店の展示スペースで次の展覧会の機会を頂くことができました。

そこでは、たまたま音楽のプロデューサーをしている人がアメリカ人歌手のミュージッククリップビデオを取る場所を探しているということで、会場の提供と出演を行いました。後にそのプロデューサーの彼が働いている映画館にスペースがあり、お礼の代わりに個展を開かせてもらいました。

オープニングにあわせて、映画館で定期的に行っていた上映イベントの企画で「日本人アーティストが選んだ日本映画」という内容を観客の前で映画をプレゼンさせてもらいました。

その時に来ていた観客の一人が興味を持ってくれて、紹介してもらったボルドー市の文化担当の方が運営持っているプライベートスペースでの展覧会が実現しました。

他にも自分が働いていたレストランや町が行っているイベントなどでも行いました。



展覧会の会場を提供


綱渡りのような感じですが、このような形で滞在中はなんとか途切れることなく予定を作ることができました。

これらの経緯から思うことは、やはり発言することと、人と会うことだと思いました。

語学学校に講師で来ていたアーティストに相談した時も、ホームステイの家主が紹介してくれたアーティストにも、音楽のプロデューサーにも、ボルドー市文化担当の方にも、常に機会があれば人と会い、常に展覧会の機会を探していると発言しました。

当たり前のことかもしれませんが、やはりこれらのことが機会を作ることに繋がるものだと思い知らされました。

また、自分から発信することの効果もあったでしょうが、環境が持つ下地が厚かったからということもいえたと思います。日本と比べてアーティストの数の多さや、一般の方達の関心の高さ、それらから生まれる場所や機会の多さが作用したことも実現に結びついた大きな要素だと思います。

単に自分が動き回ったから得られたものなのだけなのではなく、やはり環境の力もあったでしょう。


  • オープニングの様子

そうやって単発での展覧会は複数回開くことはできましたが、ギャラリーでの展覧会を行うことは最後まで叶いませんでした。住んでいたボルドー市や首都のパリでも作品カタログを作り、直接持ち込んだりもしましたが、実現は難しかったです。

フランスのギャラリーは日本にあるような貸しギャラリーは存在せず、ほとんどは企画ギャラリーになります。ギャラリーに所属するアーティストが作品を制作し、それをギャラリストがマネージメントを行うといった完全分業の形が基本です。

ギャラリストは作品を売れなかったら収入が無いので、かなり厳しいアーティストの選択を行います。ギャラリーが求めている作品の傾向や売れるかどうか、また長く一緒にやっていけるかどうかなどを選考基準として持っているのではないでしょうか。

通常はある程度長い期間の作家の活動を見ての判断になると思うので、どことも知れない、いきなり現れた作家と一緒に仕事しようといったことは稀なのではないでしょうか。



最後に行った展覧会。30分のパフォーマンス作品で、日本人の書道家、フランス人の演出家、ミュージシャン3人とのコラボレーション。


しかし、これらの経験のおかげでギャラリー以外での展覧会の良さを実感することができました。

私がフランスに来る以前は毎年福岡と東京の貸しギャラリーで展覧会を行っていました。もちろんギャラリーによっては様々で、一概にいえることではないですが、回を重ねていっても見に来て下さる方達の変化が乏しく固定されることや高い料金を払わなければいけないことなどは短所ではないかと思います。

大学を卒業したての新人作家にとって、発表する機会を作れるという点で価値や役割があるのは間違いありませんが、発展の少ない繰り返しを行うことになる危険性は考えなければいけないと思います。

また、これは企画ギャラリーにもいえることですが、作品の価格を自分の意志だけでは自由に付けることができないこともあります。

私は今のところギャラリーで発表した時に作品が売れたことはまだありません。初めて売れたのはアルバイト先だった日本食レストランで行った時に小作品を購入して頂いたことです。またバンド活動をしている友人がCDを出す時のジャケット制作を依頼された時に収入を得ることができました。

これらの方法は不特定多数の人に発信できる媒体だと思いましたし、普段は美術に関心が高くない方達にも発信することができる価値のある機会だと感じました。


  • レストランでの展示

私はこれらの経験から必ずしもギャラリーでの発表に固執する必要はないのではないかと思いました。

選り好みせずに様々な場所や機会をこなすことで、沢山の経験を得ることができ、作品の発展にも繋がるのではないでしょうか。

今後日本での活動でも様々な形で柔軟に作品を発表していけたらと思っています。

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OTONA WRITER

南健吾 / MINAMI kengo

東北芸術工科大学・美術科・洋画コースを卒業後、地元福岡を拠点に福岡や東京での展覧会やアーティストレジデンスプログラムへの参加などの活動を6年間行いました。3年前に渡仏、現在はフランスの南西部にある地方都市ボルドーを拠点に作品制作と発表を行っています。専門は絵画、彫刻、インスタレーションです。 海外で活動することの長所や短所などを記事に出来ればと思います。