運動と頑固

この男は実在する!

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今年30歳にもなると明らかな体質の変化が見られる。
まず、腰が弱くなった。昨年の暮れは、大きなくしゃみをするたびに、
何度も甘めのぎっくり腰に襲われた。僕の腰は、もうグラグラである。
次に、痩せにくくなった。
20代前半の頃は「少し食べ過ぎたなぁ」と思い、
軽い食事制限をすると体重がストンと落ちたが、今では太るばかり。
友人に会うたびに「ヨシムラさん、太りました?」と聞かれる。
久々に、体重計にのったところ5キロ増。このまま行くと肥満ロードまっしぐら。

上記、2つ問題を解決する方法がある。書かずもがなの話ではあるが、運動だ。
もう運動しかない。
正直なところ、運動なんて面倒でやってられない。
自動的に腰が治り、体重が落ちれば、そりゃ良いが、
もうそんなことを言ってられる悠長な状態ではない。
腰は悲鳴を上げ、腹は出る。

ランニングならタダだし良いかな、と思ったが続きそうにはない。
事務所の近くに区民プールがあったことを思い出し、通い出す。
三日坊主にならないことを祈って。

つい先日、僕はプールのジャグジーに入っていた。
そこには、おっさん、おばさんと僕。
それぞれのパーソナルエリアに入らないように、ほどよい距離感が
保たれた浴槽。
皆一様にリラックスをしていたと思う。

この良い感じに保たれた空気を破壊するものがいる。
そう、子供だ。
プール教室を終えた沢山の子供達が、コチラに小走りで向かってきた。
ザブーン。
静かに入るなんてことは、もちろんしない。いきおいよく浸かる。
そのなかの一人が「エルボー」と叫びつつ
肘からジャグジーに飛び込んだ。

子供なんだからウザくて当然。いくら騒いでも許すという
慈悲のスタンスをとっていた僕にとってはどうでも良いこと。
水しぶきが入らないように目を閉じた。

しかし、おっさんには許せなかったらしい。
「風呂は静かに入れ!!!」
広いプールに、おっさんの怒号が響く。やまびこの如く反響する。
さっきまで、あれだけ騒いで子供たちが一斉に閉口した。
正に、さげぽよ状態。
シュンとする子供を見て「おっさんは、面白い話でもして子供をケアするんだろうな」
と僕は考えた。
否、おっさんは仏頂フェイスをキープ。アフターケアはなし。
気まずい空気がジャグジーの湯気と混じり合い、子供たちは早々に風呂から上がる。

一昔前、アラサーぐらいの人は覚えていると思うが、
「チーズはどこへ消えた?」という自己啓発本が350万部を売る大ブームとなった。
「ねずみがチーズを探す行為」を「人が自分を探す行為」のメタファーとして、
書いた内容だったと記憶している。
ジャグジーで久々のザ・頑固親父を目撃し、
「チーズはどこへ消えた?」じゃなくて、
「頑固親父はどこへ消えた?」だなと思った。
20年前。僕の子供時代もほぼ絶滅状態だったが確かにいた頑固親父たち。
彼らは一体どこに消えたのだろうか?死んだか?

そんな話をお袋にしたところ
「今の若者は、すぐ逆ギレするからじゃないか」と言う。
一人の頑固親父が若者に注意をする。若者が逆ギレをし暴行を働く。
そのことがニュースを伝わり伝播する。それを見た頑固親父は自粛。
結果、頑固親父は絶滅していったのかもしれない。
あくまでも仮説だが・・・。
しかし、ハードコアな頑固親父は暴行事件も馬耳東風。
あくまで自分の意見をストレートに突きつける。

本当の頑固親父とは、他人の意見など馬の耳に念仏。
兎に角、融通が利かない人のことを言うのだろう。

色々なことをオブラートに包んで、コミュニケーションすることが美徳されている昨今。
次世代の頑固親父となりうる人材などいるのだろうか?

実は一人いる。僕の友人Kである。
ストレートな人間で完璧主義者、基本的には良い人だ。
彼は、ある自治体の小さなTV局の制作に携わっている。
そのTV局は、ボランティアで多くの事柄を回していることもあり、
至らぬ点も散見された模様。
普通の人なら「ま、しゃあないな」と流すだろう。しかしKは、完璧主義なのでそれが許せない。

Kは、ドキュメンタリー大好き。
NHKBSプレミアムで放送された世界最高峰のファッション雑誌
『VOGUE』の裏側を描いた回にひどく感銘を受けたらしい。

彼は、そのドキュメンタリーについて、そのドキュメンタリーの放映時間よりも長く語った。
『VOGUE』を作るプロ集団の超一流の仕事っぷりにひどく感銘を受けたと。
そして、酒も入ってか、
「(自信が関わっているTV局の仕事っぷりが)VOGUEじゃない!!」
と話した。
「年収1000万円を超えるだろうVOGUE編集者と
ボランティアの仕事っぷりは当然違うだろうよ」と誰しもが思うだろう。
僕は「けど、Kさんも僕も二流だからVOGUEなんか入れないし、
ましてや僕らは、二流同志だから友達なんだよ」と言った。
一流は一流でつるむし、二流は二流でつるむ。類は友を呼ぶ。
自分の発言にたいして確実に正解だとは言えないが、ま、コレについては間違いないだろう。


しかし、彼の融通の利かない頑固っぷりは潔く、気持ち良い。
もう一度言うが、Kは事勿れ主義がはびこる今には珍しい完璧主義者。
Kの理想はブレることを知らない。
そのブレなさは、高級一眼レフ並。
身体にブレ防止のスタビライザが入ってると思わせるほどだ。

Kがブレなさをキープし続ければ、40歳を回る頃には、そのブレなさは頑固と呼ばれるものに変化しているだろう。

頑固親父の血は途絶えたと思ったが、まだまだ消えない。
頑固親父候補生はココにいる。

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OTONA WRITER

ヨシムラヒロム / Hiromu Yoshimura

中野区観光大使やっています。最近、29歳になりました!趣味は読書です。