ビジョンを持ち具現化することで世界を変える。OA vol.9 JINS 田中仁

「世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信する。第9回はアイウエアブランドJINSを展開する株式会社ジェイアイエヌ代表取締役社長の田中仁さんにお話を伺いました。

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田中仁
株式会社ジェイアイエヌ代表取締役社長。一般財団法人田中仁財団 代表理事。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。1963年群馬県生まれ。1988年ジェイアイエヌを設立。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。2011年 『Ernst&Youngワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011』モナコ世界大会に日本代表として出場。2013年東京証券取引所第一部に上場。2013年起業家支援の為「群馬イノベーションアワード」や「群馬イノベーションスクール」を開始。 現在は前橋市中心街に「前橋まちなか研究室」を設け街づくりにも関わる。著書に『振り切る勇気 メガネを変えるJINSの挑戦』がある。

松葉:「Outsider Architect」の9回目は、アイウエアブランドJINSを展開する株式会社 ジェイアイエヌ代表取締役社長の田中仁さんに主に以下の3つのトピックスについてお話を伺いました。

1:あらゆる業界に可能性は溢れている。ただビジョンがないままに探しても可能性に気づかない。
2:眼鏡でライフスタイルに革新をもたらし、新しい産業を創出する。
3:世の中には優れた起業家になれる人は大勢いる。実行力こそが必要なのだ。

1:あらゆる業界に可能性は溢れている。ただビジョンがないままに探しても可能性に気づかない。

松葉:まず創業の経緯についてお聞かせいただけますか?

田中:高校時代から将来起業したいと考えており高校卒業後、信用金庫勤務や個人起業を経てジェイアイエヌを創業しました。

松葉:20代半ばで起業をされていますが、当初から20代での起業を目標にされていたのでしょうか?

田中:何歳で起業しようとは特に決めていませんでした。チャンスや自身の情熱が揃ったタイミングでの起業です。

松葉:創業時からしばらくは雑貨をメインに扱っていたとお聞きしておりますが、なぜ眼鏡のSPA(製造小売業)を始めようと思われたのでしょうか?

田中:2000年に仕事の関係で韓国に行った際に、東大門や南大門で日本人観光客向けに1本3千円程度で販売されている眼鏡を見つけました。当時、日本では3万円以上で販売されていたので、内外差があるとはいえ、これほど安価で販売されていることに衝撃を受けました。また、一緒に訪れていた友人が3万円の眼鏡だったら、4~5年に1本しか買えないが、3千円とか5千円であればTPOに合わせて、眼鏡を何本も持つことができると喜んで購入しているのを目の当たりにして、帰国後すぐに日本の眼鏡業界についてリサーチを行いました。その中で分かったことは、様々な業者を介すことで中間マージンが発生し、お客さまに届く頃には高額になっているということでした。製造から販売までを自社で一貫して行うことで中間マージンをなくし、質の良い眼鏡を求めやすい価格で販売しようと決め、眼鏡のSPAを始めました。

松葉:2001年4月に福岡の天神に1店舗目のJINS天神店を出店されていますが、なぜ天神を選ばれたのでしょうか?


  • 田中仁

田中:韓国に一緒に行って眼鏡を買っていた友人が当時、福岡の天神ビブレの店長をしており、その縁もあって天神に1店舗目を出したいという打診をしました。

松葉:2000年代半ばには東京にも大分出店されていましたよね?それまではオシャレな眼鏡は1本 5~6万円払わないと手に入れることができなかったのですが、突然1本5千円程度で買えるオシャレな眼鏡が出てきて驚いたことを今でも覚えています。しかも今までと眼鏡屋さんというイメージとは全く異なるデザイン性の高い店舗でしたよね。特に印象に残っているのは建築家の中村竜治さんがデザインされたJIN's GLOBAL STANDARD 青山店(当時のJINSの店舗名)ですが、斬新なデザインがとても印象的でした。JINSの眼鏡の企画・デザインにはどのような方が関わっているのでしょうか?社内にデザイナーがいらっしゃるのですか?それとも外部のデザイナーを登用しているのでしょうか?

田中:社内に10名ほどデザイナーがおりまして、2001年のアイウエア業界参入以来自社で眼鏡のデザインを行っています。

松葉:数年前は太い黒縁眼鏡が流行っていたり、最近は丸眼鏡が流行っていたりと時々で流行があるとおもうのですが、そもそも眼鏡の流行というのは誰がつくり出しているのでしょうか?例えば毎年発表される来年の流行色のように誰かが意図的につくり出しているものなのでしょうか?

田中:イタリアとかフランスで行われている眼鏡の展示会で、様々な眼鏡が展示されているのですが、その中で業界全体の流行の傾向がつかめると思います。


  • JINS店舗

松葉:眼鏡というのは元々視力矯正のためのものだったと思いますが、JINS SCREEN(旧JINS PC)やJINS MOISTUREは視力矯正以外の機能を持っており、旧来の価値観を大きく転換させる眼鏡になっていると思われます。何故JINS SCREENのような機能性アイウエアに着目されたのでしょうか?

田中:おっしゃる通り一般的に眼鏡は視力矯正用という認識が強いのですが、それ以外にも眼を守るという側面もあると考えています。例えば、紫外線から眼を守るためにサングラスを掛けますよね。今の時代、花粉やPM2.5などもあれば、パソコンやスマートフォンなどから発せられるブルーライトもあります。そういった外的要因から眼を守るという発想を持つことで、ブルーライトをカットする「JINS SCREEN」や、眼を保湿する「JINS MOISTURE」など、視力矯正を必要としない人からも必要とされる眼鏡を作ることができ、結果マーケットも広がると考えました。

松葉:眼鏡の視力矯正以外の可能性にはJINSの展開を始められた2001年当初から気づかれていたのでしょうか?

田中:いいえ、当初からその可能性には気づいていたわけではありません。それに気づいたのはJINSがどういうブランドであるべきかというビジョンを定めたときです。2009年に「メガネをかけるすべての人に、良く見える×良く魅せるメガネを、市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する」というビジョンを定め、きちんと形にしていくと自ずとJINS SCREENのような発想が出てきます。


  • JINS SCREEN

松葉:ビジョンを形にしていくことが、JINS SCREENはもとよりJINS MEMEの開発にもつながっていくのですね。ちなみにJINS MEMEの開発の先にどのような世界が見えているのでしょうか? 例えば、近年iPhoneが発売されたことによって、人々のライフスタイルが劇的に変わったと思うのですが、それと同じような価値の転換が起こるのでしょうか?

田中:我々は今では「Magnify Life(人々の人生を豊かにする)」というビジョンを掲げています。JINS MEMEは眼球の動きによって生じる微細な電位差を読み取ることが可能で、ココロとカラダを可視化する世界初のウェアラブルメガネです。これからIoT(Internet of Things)社会を迎えるにあたって、眼鏡の新たな可能性を切り開いた商品だと思っています。今までの眼鏡というのはレンズを介して外側を見るものでしたが、JINS MEMEは自身の内側の情報を見るという新しいコンセプトの眼鏡です。JINS MEMEによって何がもたらされるかと言うと、better me、つまりより良い自分を構築するために自分自身を知るということが可能になるということです。現時点で出来ることは、アタマ年齢やカラダ年齢の測定や、運転中の眠気の推定、ランニングフォームの可視化です。将来的には、肉体的・精神的な病気の予兆の発見など、先制医療分野での可能性を秘めています。眼鏡を通して色々な生体情報が蓄積されていくことで、世の中のライフスタイルが変わり、眼鏡のビジネスそのものも変わっていくことになると見ています。今も、大学等と産学連携であらゆる可能性を追求している段階です。

松葉:JINS MEMEのお話を伺っていて以前田中さんがインタビュー記事の中で、眼鏡で1兆円産業を目指すとおっしゃっていたのを思い出しました。というのも、単なる視力補正用具の眼鏡の販売だけではその到達はなかなか困難なように思えるのですが、Appleのようにライフスタイルに革新をもたらす産業になるのであれば1兆円産業への到達、さらにはもっと大きな産業になっていくことも可能なのかなと素人ながらに思ってしまいました。

田中:そういうことだと思います。新しい産業を作りだすことができれば実現可能だと考えています。


  • JINS MEME ES


  • JINS MEME MT

2:眼鏡でライフスタイルに革新をもたらし、新しい産業を創出する。

松葉:せっかく田中さんにお会いできたので伺ってみたいことがあるのですが、私が今いる建築設計業界はたとえ著名な建築家の事務所でも企業規模でみると中小企業で、売り上げ規模も決して大きくはないと思います。また、建築設計は労力=売り上げで、それが10倍、100倍というようになっていく業態ではありません。田中さんから見てそのような業界というのはどのように映るのでしょうか?

田中:建築設計事務所ではなく、JINSのロゴをデザインしていただいたデザイン事務所の話になってしまうのですが、ある時、デザイン業界の限界を感じて、それまでと違うスタイルのデザイン事務所に転換していきました。10年前には3名ほどの会社から、今では20人近くのスタッフを抱えるまでに成長しています。どうスタイルを転換したのかといいますと、良いデザインを提供するというだけではなく、企業が困っていることへのソリューションを加えて提案していくスタイルになったのです。そういったことを踏まえると、良いデザイン・良い機能を持つ建物を設計することは素晴らしいことですが、ビジネスをスケールしていくには建築家でありながら、併せてクライアントや社会が抱えている問題に対してのソリューションをきちんと提供していくことが重要なのではないでしょうか。

松葉:眼鏡以外で可能性を感じているプロダクト・業界はありますか?

田中:あらゆる業界は可能性に溢れていると思います。ただビジョンを持っていない人はそのことに気づいていません。可能性とは、ビジョンがないままに探しても見つからないものだと思います。


  • 松葉邦彦

松葉:JINSは先ほどもお話にあったビジョンの下、商品、ロゴ、パッケージ、webサイト、店舗など外部に対するJINSというブランドがどういうものなのか、きちんと外に対して発信出来ているという印象を受けますが、ブランディングについてはどのようなお考えをお持ちでしょうか?

田中:ブランディングについてはまだまだこれからで、非常に難しいものだと思っています。そして、ブランディングにおいて一番重要なことは社内の人間がブランドを十分に理解していることです。もちろんデザインも重要な要素ですが、やはり働いている人たちの意識がブランドを体現しているか否かが一番の肝だと考えます。

松葉:最初から社内の方の意識が重要だと思われていたのでしょうか?それとも、ある程度の事業規模になってきてそのことに気づかれたのでしょうか?

田中:最初、ブランドというものは外から見えるものだと思っていました。例えばかっこいいとかシンプルで素敵だ、というイメージです。ただ、ブランディングの過程で専門家と打ち合わせを重ねていくうちに、実際にブランドをつくっていくのは社内・内部の人間だということに気づきました。どういうブランドにしていくのかを明確にし、その下に組織とか戦略を組み立てていきます。デザインというのは結果でしかなく、ただかっこいいデザインをしただけでは意味がありません。そのデザインが何から生まれているのかが重要です。

松葉:著名な建築家やインテリアデザイナーがデザインした店舗がいくつもあったと思いますが、店舗デザインについてはどのようにお考えでしょうか?

田中:かつては、有名な建築家やインテリアデザイナーの方に店舗デザインを依頼するという方針をとっていた時期がありました。ですが、今はその前に自分たちのブランドとは一体どういうものなのか?という根本に重点を置いていますので、有名な建築家やインテリアデザイナーだから登用する、という発想ではありません。我々がこういうブランドだからこうありたい、だからこの方にデザインをお願いしよう、という考え方に変わっているのです。

3:世の中には優れた起業家になれる人は大勢いる。実行力こそが必要なのだ。

松葉:2014年に設立された田中仁財団についてお聞かせいただけますでしょうか?

田中:私は今まで特に趣味も無く事業に専念してきたのですが、50歳を過ぎて仕事で稼ぐだけではなく、稼いだお金をどのように使うかが重要ではないかと考えるようになりました。そう考えた時に、出身の地であり創業の地でもある群馬県に対して今まで培ってきた知見やノウハウを注入し、少しでも地域に役立てたいという思いが出てきたことをきっかけに財団を設立しました。田中仁財団は群馬県の魅力ある都市形成と豊かな地域社会実現のため、起業支援、文化・芸術の振興等の地域活性化のための活動を促進し、地域社会の発展及び市民活動の向上に貢献する事を目的としており、現在は主に「群馬イノベーションアワード」「群馬イノベーションスクール」「前橋まちなか研究室」の3つの事業に取り組んでいます。

松葉:各事業はどのような内容なのでしょうか?

田中:「群馬イノベーションアワード」は、群馬の地から次世代を担う起業家を発掘・奨励し起業やイノベーションを通じて地域を元気にしていくというプロジェクトで、昨年(2015年)で第3回を迎えました。「ビジネスプラン」「スタートアップ」「イノベーション」の3部門があり、2015年は12月5日にYAMADAグリーンドーム前橋で、最終審査を通過したファイナリストが約2000名の観客の前でプレゼンテーションを行い、各部門の入賞及び大賞を決定しました。「群馬イノベーションスクール」は「次世代のリーダーを育てる21世紀の寺子屋を。」をコンセプトに、一流大学のビジネススクール教授によるビジネス理論の講義や、著名企業の経営者と経営についての討議を行う講義など、全10回の講義が前橋で受講できます。全ての費用は財団が拠出するため受講料は無料です。「前橋まちなか研究室」は前橋中心商店街中央通りに2015年9月にオープンしたコミュニティスペースです。前橋市が現在直面している課題や、目指すべき将来像について、行政、商店街、商工会議所、医療、教育、クリエイターといった様々な人が集い、語り合い、街のビジョンを形成していく場として活用されています。


  • 群馬イノベーションアワード 2015(写真:上毛新聞社)

松葉:なるほど、起業家の発掘、支援だけでなくまちづくりに関する事業にも取り組まれているのですね。私も八王子でAKITENという空きテナントを活用して地域の活性化を図るプロジェクトの運営に関わっていることもあり、特に「前橋まちなか研究室」の活動にはとても興味があります。どのようなプロジェクトが進行しているのでしょうか?

田中:今は前橋市のビジョンづくりを行っています。前橋ビジョン委員会というものを立ち上げ、前橋にふさわしいビジョンづくりを行うために、ポルシェやアディダスなどのブランディングを行っているドイツのブランドコンサルティング企業KMS TEAMのSimon Betschというコンサルタントに行政職員や市長も含めた30名以上の前橋市民にヒアリングを行ってもらいました。今後はそのヒアリングを基に前橋のDNAから前橋の強みを抽出して、前橋のビジョンがどこにあるかを議論していく予定です。


  • 前橋まちなか研究室

松葉:「群馬イノベーションアワード」や「群馬イノベーションスクール」を立ち上げたことによって、有能な起業家が出てくると思われますか?


  • 田中仁

田中:そう言っていただくと恐縮ですが、出てくると思いますよ。何故かと言いますと、起業に向いている人間というのは世の中に一定の割合でいると思っているのです。というのも、何もやるにしても、その人のセンスというのが問われます。例えば大して勉強をしなくてもストレートで東大や国立の難関医学部に入るような人も一定数いますよね。その人は勉強のセンスが良いのだと思います。また、それ以外にも絵を描くセンスが良い人もいれば、職人としてのセンスの良い人もいます。それと同じように起業についてもセンスの良い人が一定数いるのではないでしょうか。群馬県も例外ではありません。ただ、センスがあってもそれに気づかずに社会に埋もれてしまっていることが大半だと思います。ですが、そういうセンスを持っている人間はどこかに何らかの覚えがあるはずです。そういう人が群馬イノベーションアワードや群馬イノベーションスクールを通じて、起業が社会にとって素晴らしいことで、かつカッコイイことなのだと感じてくれたらと思っています。もちろんイノベーションアワードに応募したり、イノベーションスクールに通ったりしなくてもいいのです。ただ、「起業」という道が頭にインプットされていれば、人生のどこかで起業という選択肢が出てくるのだと思います。優れた起業家になれる人は大勢いると思いますよ。ただ、そうなるためには実行力こそが必要なのです。

松葉:最終的にやるか?やらないか?となった時にやる人が勝つということですか?

田中:そうですね。仮に何らかのアイデアを持っていても、いざ実行する人はほんのわずかです。

松葉:確かにそうかもしれません。私は八王子の中心街を拠点に活動しているのですが、街に関心のある人たちが街を良くするためにといっていろいろなことを言ってくるのを耳にしました。ただ、結局言うだけで行動におこさない人が大半だったと思います。こちらからすると、やりたいことがあるならやればいいじゃんと思うのですが。もちろんただやれば良いという話ではないのですが、結局自分のやりたいことやった人が色々なことを実現していっているのだと思います。

田中:やらない後悔はずっと追いかけてきますが、やった後の後悔は意外とすぐに忘れてしまうものです。だからやりたいことはやってしまった方が良いのだと思います。

協力:藤沼拓巳

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社 TYRANT 代表取締役 / 一級建築士 ( 登録番号 第 327569 号 ) 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造再生計画/群馬県中之条町)という異例な経歴を持つ。また、同プロジェクトで芦原義信賞優秀賞やJCD DESIGN AWARD新人賞などを受賞。