ニューヨークでコンセプチュアル・アートを作り続けた現代美術家・河原温(かわらおん)
河原温は愛知県に生まれ、1959年に日本を離れるまで具象絵画を発表し活動していました。その後メキシコ滞在を経て、ニューヨークに拠点を移します。この頃に誕生したのが代表作となる日付絵画≪Today≫シリーズです。1960年以降、コンセプチュアル・アートと呼ばれる芸術の概念自体を問題とする作品の制作を続けました。海外に移ってからは、作品は発表するものの公の場に出ることはなくなり、インタビューや肖像写真をほとんど残していません。日本では1998年に東京都現代美術館で大規模な個展が開かれています。現在グッゲンハイム美術館で開催中の個展「On Kawara-Silence」の準備のさなか亡くなりました。
河原が自分の生きている時間と空間を記録した膨大な作品展
この個展では、グッゲンハイム美術館の螺旋状に上昇する廊下に沿って作品が展示されており、1960年代半ば以降の作品がシリーズごとに時系列順で見ることができます。展示作品は、日付絵画172点、葉書1635枚、電報111枚、バインダー114冊など膨大な数におよびます。これらはすべて河原が自分の生きている時間と空間を記録した作品です。通称日付絵画と呼ばれる≪Today≫は、単色の背景の上に制作した日付、つまり1969年7月16日であれば「July16.1969」という文字が手作業で描かれました。
他に、自分の起床時間をスタンプした葉書を知人に送る≪I Got Up(私は起床した)≫や自分が生きていることを世界中から電報で知らせる≪I Am Still Alive(私はまだ生きている)≫といった作品があります。
彼は、自身の生の記録によって「自分」を誇示しようとしたのでしょうか。しかし、その機械的な作風や画一的な手法は、河原個人の記録を人類の大きな時間の中に組み込んでいるように感じられます。個人の生きた記録が連なることで個性が埋没するという矛盾を河原は多様なアプローチで表現しています。
彼は、自身の生の記録によって「自分」を誇示しようとしたのでしょうか。しかし、その機械的な作風や画一的な手法は、河原個人の記録を人類の大きな時間の中に組み込んでいるように感じられます。個人の生きた記録が連なることで個性が埋没するという矛盾を河原は多様なアプローチで表現しています。
河原は何も語らない作家でした。個展の副題にある「Silence(沈黙)」とはまさに河原自身を表す言葉です。しかし、彼が亡くなった今、反復され続けた生の記録は終わってしまいました。膨大な記録が沈黙し、河原の人生は人類の大きな時間の流れから解放されたように思います。没後最初の個展においてようやく、私たちは河原温という一人の人間と対峙できるのです。
▼展覧会概要
企画展名:「On Kawara-Silence」
会期:2015年2月6日―5月3日
会場:ニューヨーク市グッゲンハイム美術館
URL:http://www.guggenheim.org/
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