今回はチリのモネダ宮殿(現チリ大統領官邸)の地下に広がる大きな展示会場
CENTRO CULTURAL LA MONEDAで開催されていた「Iberoamericano(イベロアメリカーノ)展」に行ってきた。
南米・中南米…は耳にしたことはあるが、日本人にとって「イベロアメリカ」という単語はなかなか聞き慣れないかもしれない。
そんなわけで、
【陽気なお面】【カラフルなドクロ】に垣間見た、イベロアメリカの歴史・社会についてお届けしたいと思います!
地球の裏側で繰り広げられるアートの世界をご覧あれ。
陽気なお面 その内に秘められる意味とは
まず最初にお出迎えしてくれたのは、存在感がとにかく半端ないカラフルなお面たち!
一つ一つがとっても個性的なこちらのお面は、イベロアメリカ諸国のリズミカルなカーニバル等で使用されるそう。今にも陽気な音楽に合わせて動き出しそうな存在感…!
調べてみたら、ひとつひとつのお面にとんでもない文化が詰まっていました。
その中でも3つを厳選してご紹介!
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▶︎ボリビアのお面
目力がとにかく印象的。長いまつ毛が羨ましいほどです。
……本当にこのド派手なお面が使われるのか?と半信半疑に調べてみると、実際にカーニバルで使用されている画像を発見!
(この写真では角はありませんが、顔がまんま同じです…!これだけでも迫力があります。)
こちらはボリビアの都市オルロで開催されるカーニバルで使用される「悪魔の仮面」。
ブラジルのリオのカーニバルと比較されるほど盛大な祭りで、世界遺産(無形文化遺産)に登録されています。
補足:南米三大カーニバルはブラジルのリオデジャネイロ/ボリビアのオルロ/ペルー・クスコのインティ・ライミ。
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▶︎メキシコのお面
勇ましい虎のお面ですが、こちらは「大地の恵みの雨と豊作を祈願する」メキシコの伝統的なダンス「Danza de los Tecuanes」に使用されるようです。
Danza de los Tecuanes:テクアンのダンス。テクアンとは、メキシコの先住民族であるナワ族の言語で「食いつぶす」という意味だそう。
余談:「チョコレート」はナワ族のショコラトル(xocolatl)という言葉から由来されているという説があるそうです。チョコレート発祥の地はなんとメキシコだった!
個性豊かな虎たちがとにかくいっぱい!
1つ1つ顔が違います。
このイベントに知らずに迷い込んだら、正直引き返してしましそうですが、是非とも自作の虎お面を持って参加したい!
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▶︎コスタリカのお面
お面からマイナスイオンが発せられている…!
そんなイメージを彷彿とさせるコスタリカの「Boruca masks(ボルカマスク)」。
それもそのはず、コスタリカは国土の4分の1が国立公園や自然保護区という自然大国!エコツーリズムの先進国であるコスタリカならではなお面です。
「Danza de los Diablitos(悪魔の踊り)」というお祭りで使用されるようです。
どのお面を見てもコスタリカの大自然が濃縮されています!木を彫るところから職人が一つ一つ手で作るそうです。
アートに多大な影響を与えた イベロアメリカの歴史
さて、今回の展示のテーマである「イベロアメリカ」という言葉。かつてスペインとポルトガルの植民地だった国々全体を指す用語で、「イベロ」とはヨーロッパのイベリア半島を意味しています。だから、冒頭の地図もすべてスペイン・ポルトガルの植民地だった中南米エリアが対象だったのです。※ フランス語諸国を除外している点、イベリア半島の欧州諸国を含む点がラテンアメリカとの違いだそうです。
当時スペインとポルトガルから来たキリスト教の宣教師たちは、「宗教」を運んできただけではなく、麻の栽培方法や金属製の糸でレースを作る細工技術など、イベロアメリカ諸国の生活やアートに様々な「技術」を伝道したと言われており、今回の展示会ではそれらの影響を受けた作品を中心に紹介されていたというわけです。
※ 先に紹介した陽気なお面「悪魔の仮面」には、二つの由来が考えられているそうです。
ひとつはスペイン人侵略者を悪魔(ディアブロ: diablo)と重ね合わせ、恐れを持って踊りに表したと考えられたという説。または、そもそも悪魔はカトリックが持ち込んだ概念であり、恐ろしき存在として教会人が人々に教え込み、土着の動物や生き物の図像と習合した…という説。
「お面」という歴史を見ても、やはりヨーロッパの影響を強く受けていることが読み取れます。
展示を進んでみましょう。
泥から作られた人形や、バスの上に乗った現地の人の生活が垣間見える作品たち。
メキシコのこの刺繍は、伝統的な模様と、ヨーロッパ諸国がもたらした「麻の栽培技術」を元に作成されたそうです。刺繍には古くからメキシコに住み着く、子羊・リャマ・アルパカ・ビクーニャが表現されています。自然のエネルギーが布隅々まで広がるような作品です。
ドクロアートに見る メキシコの社会
そんな今回の展示会で作品として多く表現され、かつ一際目立っていたのが「ドクロ」。
入り口を入ってまずドクロ。角を曲がってもドクロ……
と、なんでこんなにもドクロが多いのか?アーティストの出身地を見てみると、なんとそのほとんどがメキシコ出身。
…もしかしてドクロアートはメキシコの流行り?と安直に思ってしまいましたが、紐解いていくと、表現技術はヨーロッパのものを取り入れながらも、ドクロの存在自体が彼らの歴史と社会に深く根付いていることがわかりました。
死者の日の祭りに現れる 色鮮やかなドクロ
メキシコのインディオにとって、とても大切な祭りのひとつに「死者の日」というのがあります。11月1日から2日にかけて死者たちが帰ってくる日で、村の墓場で死者たちと一緒に歌ったり踊ったりして、夜と昼を楽しく過ごします。
何日も前からこの日のために、ごちそうを作ったりして準備をし、祖先のお墓や町中はドクロアートで華やかに彩られます。一緒に過ごす死者の範囲は「自分の死者たち」で、血縁関係の近さとは必ずしも同じではなく、なつかしいと思う死者たちだということです。
もう一つ面白いのは、ごちそうを「自分の死者たち」の数よりも1人分多く、余分に作っておくという風習。どの生者にも呼び出されない孤独な死者たちもいるので、そういう死者たちがうろうろしていると、どこかの家族に呼び出されている死者の1人が「おれと一緒に来いよ」といって誘ってくるのだそう。そうしてやってきたプラスワンの死者が寂しい思いをしないよう、ごちそうの数に必ず余分に作っておくのです。
これはもちろんメキシコの、生者の社会の投影です。メキシコでは友人を2人誘うと、その友達とかフィアンセとかを引き連れて4人で来たりする。こうして友情がひろがってゆく。この社会が「よそ者」にとっても魅力的なのは、こういう感覚からくるように思います。
死者の日のごちそうの「余分の一人分」という考え方。実はこれ、社会学にとっても究極の理想でもある「開かれた共同体」、「自由な共同体」ということとも関わる話。メキシコの文化ひとつにも、たくさんのことを考えさせられます。
さまざまな社会を知る、ということは、さまざまな生き方を知るということ。
今回のメキシコのドクロやイベロアメリカ諸国のアートを見て、「アートを知るということは、その土地の人々の“生き方”を知る」ということのように感じました。
一部出典:社会学入門-人間と社会の未来(著:見田宗介)
表面的に楽しむだけではなく、歴史や文化的背景を知れば知るほどアートはもっと楽しめる。
そんなことをじわじわと感じたイベロアメリカーノ展。
今後もこういった知的好奇心を掻き立てられる、そして南米にいるからこそ知り得るモノ・コトをこれからも発信していきたいと思います。
次回は“チリの版画アート”に迫ります!
Hasta luego!(またね)
ebichileco(えびちりこ) 一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー 立教大学社会学部を卒業後、商社系IT企業勤務。2015年チリに移住し、デザイナー活動を開始。「社会課題をデザインの力で創造的に解決させる」を軸に、 行政・企業・個人など様々なパートナーと組みながら、事業を展開している。