キュレーションを学ぶタマビ生がつくる展覧会。今年は成田国際空港にて。

美術大学といっても、絵や彫刻、映像やインスタレーションを「つくる」人ばかりではない。意外に知られていないのだが、私が卒業生した多摩美術大学芸術学科では、芸術学科の名のとおり、芸術を学問として幅広く勉強できた。批評、美術史、編集学、詩、芸術人類学、など。その一つで、私が2年間学んだのがキュレーションだ。今年も学生たちがプロの作家と展覧会をつくる。

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プロの作家と学生キュレーター
多摩美術大学芸術学科・展覧会設計の年に1度の展覧会


毎年この時期になると、多摩美術大学・芸術学科の展覧会設計というゼミでは展覧会を開催する。
私も在学中、このゼミに所属していたので3、4年生の2年間はどっぷり展覧会づくりに関わった。

このゼミでは、長谷川祐子教授(東京都現代美術館チーフキュレーター)の指導のもと、
展覧会の企画・運営をとりまくあらゆる業務を学生が主体となって取り組む。
とても実践的で大きな学びにあふれているだけでなく、
都市の中で展覧会をつくるキュレーションの実践を通して、
作家とともにアートと人々との出会いを創出することを目指している。


4月のゼミ開講から、半年間、展示までの準備はあっという間に過ぎていく。

①会場を選び、場所性などを加味しながら展覧会のコンセプト考え、作家のリサーチをする
②何度も会場に足しげく通う
③出展作家を決める
④作家と作品のプロポーザルについて何度もディスカッションをする(作品制作にも携わる)
⑤展示の構成を考える(展示模型もつくる)
⑥展示の広報をする
⑦搬入・展示・搬出をする

ざっとあげてこれくらい。
他にもお金の管理やアーカイブ制作など細かいことをあげたらキリがない。
全員初心者のキュレーターの卵たち10名前後で取り組んでいる。


一方、出展してくださる作家はみんなプロ。
展覧会を設計するといっても、複数名の作家の作品を集めてするグループ展示ではなく、
キュレーターとなる学生たちが中心になって「ひとつの展覧会」をつくるべく、
作品の方向性についても一緒に考え、必要に応じて素材集めや制作も手伝う。

ただ展示をしても人に見てもらうことはできないので、自分たちで広報もする。
グラフィックデザイン学科の学生にポスターの制作を手伝ってもらったり、
情報デザイン学科の学生にWebサイトの制作を手伝ってもらったり。

毎週のゼミの授業時間では足りず、平日の時間も集まって半年間で展覧会を完成させる。
すると、秋の涼しくなってきたこの時期に毎年展覧会が開催されることになるのだ。





今年は成田空港で
より広い世界と繋がれるようになった今日を、考える


このゼミのもうひとつの特徴。それは会場選びにある。

展示会場に足しげく通い、その「場所・サイト」がもつ
背景・個性・文脈を感じ取り、展覧会につなげていく。
自分たちで展示会場の模型をつくり、展示会場の構成を考える。
光や前後の作品との関係性をよく考え、展覧会を訪れる人の体験を設計する。

東京都内だけでも展示会場にふさわしい「ギャラリー」や「アートスペース」は、
もちろん数多くあるのだが、毎回こだわって個性的な場所を探してくる。
今年の会場になったのは成田国際空港内にある「NAA アートギャラリー」だ。

今年の展覧会のタイトルは「航路の途上」。
コンセプトにもぜひ目を通してほしい。


今日、私たちはより広い世界と、
多種多様なやり方で、繋がりを持つことが出来るようになりました。


物流やインターネットの発達によって、国境を越え多くの人やもの、情報が行き交い、時間や場所を問わず個人と世界が関わりあっています。
そのような中で私たちは、それぞれが独自のやり方で、世界との繋がり方を常に更新しつづけているのではないでしょうか。それは一方ではグローバルなものであり、他方では私的なものでもあるでしょう。
今回私たちは、こうした世界との繋がりを「航路」と捉えました。広い世界と自分との間を結ぶルートが多様にある状況において、我々はそれぞれの「航路」 の途上に立っています。
本展覧会では、現代における多様な「航路」について、市川裕司、太田三郎、 川久保ジョイの3人のアーティストの作品を通し見つめます。彼らの作品は、 私たちがどのような「航路」で世界と繋がっているのかを問いかけます。そしてこの展覧会が、これからのあなたと世界との繋がり方について、「航路の途上」 で想いを馳せるきっかけになることを願います。

ー 展覧会設計ゼミ一同



学生たちの発信するこのメッセージが、
きっと成田空港という、日本で一番外の風が舞い込む特徴的な場所で、
作家たちの作品とともに生き生きと展示されていることだろう。




▼出展作家紹介


市川裕司
1979年埼玉県生まれ。2005年多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画領域修了。日本画の技法を活かし、屏風を変形させたり、箔を用いたりする作品を手掛ける。また五島記念文化財団海外研修員としてドイツ・デュッセルドルフに滞在し、林檎というモチーフに興味を持つようになる。現在では、言葉を越えて意味を伝達することのできるモチーフの可能性について、作品を通し模索している。2012年、五島記念文化賞美術新人賞を受賞。
http://genetic12.jimdo.com/

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[キバナコスモス・1991年7月6日東京都練馬区光が丘] 1991年/素材:和紙、種子、シャーレ/直径11.5cm
[アマリリス・1991年7月7日東京都練馬区光が丘] 1991年/素材:和紙、種子、シャーレ/直径11.5cm


太田三郎
1950年山形県生まれ。1971年国立鶴岡工業高等専門学校機械工学科卒業。 切手や植物の種子といった、郵便や移動を連想させる素材を用いて、「時間」 と「場所」の関係性をテーマに制作。太平洋戦争に題材を得た私製切手シリー ズも多数ある。1980年より内外の画廊や美術館で作品を発表。
2015年東京都現代美術館にて「未見の星座 つながり/ 発見のプラクティス」 静岡市美術館にて「静岡市美術館開館5 周年記念 大原美術館展 名画への旅」 に参加。2013年第4回「創造する伝統賞」受賞。
http://seedproject.jp/

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川久保ジョイ
1979年スペイン生まれ。2003年筑波大学人間学部卒業。風景の普遍性や写真 行為の形而上学性を追求した平面作品や、偶然性やメタ認知を主題や媒体とし たインスタレーション、サウンド作品を制作。また、2011年以降は原子力の問 題や東北の被災地に関連した作品制作、国内外でのトークや被災地での活動も 行っている。
近年の主な展覧会に「Those who go East」(White Conduit Projects、ロンドン、2015)、「VOCA2015」(上野の森美術館、2015「大原美 術館賞」受賞)、「Tokyo Story2014」(トーキョーワンダーサイト渋谷、2014) 等。VOCA2015 大原美術鑑賞、第10回Shiseido Art Egg入選等の受賞がある。
http://www.yoikawakubo.com

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▼開催概要

開催期間:2015年11月7日(土)〜2015年11月23日(月)
企画:多摩美術大学美術学部芸術学科展覧会設計ゼミ
総合アドバイザー:長谷川祐子(多摩美術大学美術学部芸術学科教授・東京都現代美術館チーフキュレーター)
空間アドバイザー:岡田公彦(建築家・岡田公彦建築設計事務所)
会場:NAA アートギャラリー(成田国際空港 第1 ターミナル 中央ビル5F)
開館時間:9:00~22:00(最終日のみ17:00まで)会期中無休
入場料:無料

詳細はこちら



私自身は今年チリにいるので展覧会を見に行くことができず残念だ。
後輩たちへの応援の気持ちも込めて、PARTNERで展示を紹介させてもらった。

学生だから至らない点もあるかもしれないが、作品はどれもとても素晴らしい。
そして、キュレーションということについて考えるきっかけにもなるのではと思う。
よかったらぜひ、足を運んでみてほしい。

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OTONA WRITER

natsumiueno / natsumiueno

編集者/メディエイター。美大での4年間は「アートと世の中を繋ぐ人になる」ことを目標に、フリーペーパーPARTNERを編集してみたり、展覧会THE SIXの運営をしてみたり、就活アート展『美ナビ展』の企画書をつくったりしてすごしました。現在チリ・サンチャゴ在住。ウェブメディアPARTNERの編集、記事執筆など。