400年前から熊本に伝わる伝統工芸品、肥後象がん 美大生に課された「つなぐ」という使命

温故知新—ふるきをたずねて新しきを知る。江戸時代から継承されている肥後象がんには、400年もの間、人々を魅了してきたその理由があるはずです。日々新たなものを生み出そうと奮闘している美大・芸大生の皆さん、古くから伝わる芸術に触れて、新たな発見をしてみませんか?

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古来受け継がれた技と美が気づかせてくれること


  • [お茶炊き]タンニン成分が特有の黒地を生みます。 / 撮影:宮崎有佳

  • [磨き]象がん面に最終的な加工を施します。 / 撮影:宮崎有佳

みなさんは、熊本の伝統工芸品であり、日本の金工象がんを代表するもののひとつである肥後象がんをご存知ですか?同じく熊本にある崇城大学芸術学部の学生として、私なりに、肥後象がんの魅力や見えてきた課題などをご紹介します。

肥後象がんは、刀や火縄銃の鍔(つば)からはじまりました。象がんは「象嵌」や「象眼」と表記され、象(かたど)る、嵌(は)めるといった意味を持っています。

●肥後象がんの作られ方
肥後象がんは、基本的に鉄を素材としており、華美過ぎない侘び寂びの心に通じる風合いが特長です。鏨(たがね)で地鉄に剣山のような刻みを入れ、そこに鹿の角で金や銀を打ち込む「布目象がん」という技法が主に用いられています。錆出し液で錆出ししたあと、お茶で煮出して錆を止め、油を焼き込み、表面を磨いて完成です。
緻密で決して派手でない作業に気の遠くなるような思いですが、今のような便利な機械が何もなかった時代に、こうして人々の手により作られていたと思うと感慨深いものがあります。どんな時代であっても、人の手なくして作品は生まれないということを改めて感じさせられます。

●職人のパートナー


  • 撮影:宮崎有佳

この金づちは自作のものでここに行き着くまでに何十本の金づちを作りやっと手にしっくりくるものができました。長年、使うほどに持つ部分が磨り減っていくのですが師匠の金づちの柄は、2ミリほどの薄さになっていました。この金づちと共に、はや10年。厚さまだ4ミリ。まだまだ駆け出しの若輩者でございます。
(伝統工芸 金工 肥後象嵌 稲田憲太郎 光秀
http://ameblo.jp/zougan/entry-10631129390.html)


  • 撮影:甲野善一郎

これは、肥後象がんのこれからを担う職人、稲田憲太郎さんのお言葉です。私たちが制作を行う上で、筆やペン、パソコンなど道具が大切なように、職人さんにとっても道具はパートナーのような存在だそうです。
金槌だけではなく、やすりや鹿の角にもこだわりがあり、この道具にも手をかけるというプロセスが、精巧で温もりのある作品を生んでいるのではないでしょうか。見えないところにも手をかける……つい日々の忙しさに忘れがちですが、美大生たるもの、心得ておきたいですね。

変わりゆくもの、変わらないもの、変えてはならないもの
元々は武器の装飾のために生まれた肥後象がんですが、歴史と共に形を変えて現在まで伝えられてきました。しかし、高価であることや重厚なデザインであることから若者の間での知名度が低く、後継者不足も深刻な問題となっています。


  • 唐草模様が施された刀の鍔 / 撮影:江藤滉祐

肥後象がんには、銀杏、肥後菖蒲といった熊本を代表とするものや、麻の葉、菊などの植物がモチーフとされた作品が多くあります。これらは日本古来のデザインと親しまれ、意匠としても昔から受け継がれているものです。しかし、現在の世の中においては、少々敬遠されてしまっています。 そこで、今日のニーズに応えようと、若者向けのデザインや有名キャラクターとのコラボレーションなど、伝統工芸品に新たな風を吹き込む取り組みが行われています。

たとえば、花や植物だけでなく幾何学模様をモチーフにすることで、カジュアルな洋服にも合わせやすくなります。また、熊本を代表するゆるキャラ「くまモン」やソニー・コンピュータエンタテインメントのマスコットキャラクター「トロ」とコラボした作品などにより、近寄りがたい、古くさい、といったマイナスなイメージを払拭しています。
古き良きものに新たな要素を加えることは決して容易ではありません。認知度の低下を危惧し、現代のデザインに走って技術をおろそかにしてしまっては本末転倒です。慎重に、でもときに大胆な判断が改革には必要です。ある職人さんは、どうにかして広めたい、残したいという思いで、大量生産や近代的なデザインを視野に入れた新たな挑戦をされています。その一方で、巧妙な昔ながらの手法で伝統を守ろうとされている職人さんもいらっしゃいます。どちらも肥後象がんにかける想いは同じであり、だからこそ難しい問題であるのです。


  • 現代のニーズに合わせた幾何学模様のカフスボタン / 撮影:江藤滉祐

美大・芸大生に求められる「伝統」を継ぐ力、つなぐ力


  • [左]肥後象がん士の大住さんに取材する崇城大学デザイン学科の学生 / 撮影:江藤滉祐 / [右]稲田さんによる肥後象がんワークショップ / 撮影:宮崎有佳

そんなさまざまな想いから、肥後象がん振興会は、同じく熊本にある崇城大学芸術学部デザイン学科にwebサイト制作を依頼。あわせて、若者と肥後象がんをつなぐことを目的とした「肥後象がんプロジェクト」が、一昨年から始動しました。webサイトの運営はもちろんのこと、ワークショップへの参加や若者をターゲットにしたデザインの提案も行われ、肥後象がんの新たな時代が創られようとしています。美大・芸大生である私たちには、このような伝統を守り、次世代へつなぐ使命があると考えます。
まずは、知るということが、大きな大きな一歩です。制作に行き詰まったとき、なにかヒントが欲しいとき、おじいちゃんやおばあちゃんに会いに行くような気持ちで、伝統工芸の世界を覗いてみてはいかがでしょうか?

次回は、実際に熊本の美大生・芸大生が取り組む「肥後象がんプロジェクト」についてご紹介します。





引用元:
【【どこでもいっしょ】熊本の工芸品 通信販売でのお求めはこちらまで! トイショップ・ヤマシロヤ】
http://www.e-yamashiroya.com/f/3f/toroshop/kum02/index.html

【つながる肥後象がん-LINKUPHIGOZOGAN-】
http://soda.art.sojo-u.ac.jp/higozogan/index.html

【伝統工芸 金工 肥後象嵌 稲田憲太郎 光秀】
http://ameblo.jp/zougan/entry-10631129390.html

参照元:
肥後象がん振興会【〜肥後の美〜「肥後象がん」】(冊子)

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STUDENT WRITER

KaoruKo / KaoruKo

人が好きです。 人と関わることが好きです。 ときめくこと、わくわくすることが好きです。 楽しみ、楽しませるがモットーです。