アートの中心が都市間で変動!? 国だけではなく街を選んで活動すること

前回少し話に触れた、ベルリンを中心に注目を浴びているドイツのアートシーン。日本に比べるとアーティストの数も、ギャラリーの数も、アートに興味がある人の数もとても多いように感じます。今回はベルリンから少し離れた旧東ドイツ第二の街ライプツィヒにある、ギャラリー&アトリエ施設「Spinnerei(シュピネライ)」の様子を中心に、ベルリン以外の街での活動についてみなさんと考えたいと思います。

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新ライプツィヒ派を中心に賑わう
アート&アトリエスペース Spinnerei


昔大きな綿工場だったこのSpinnerei。その工場跡地は、現在ごっそりアトリエとギャラリーの施設となっています。1884年から100年以上栄えたヨーロッパ最大とも言われる紡績工場でしたが、1992年に閉業。工場敷地内には労働者住宅の建物もあったようで、小さな住居用の部屋がある建物もあれば、機械が置かれていたであろう吹き抜けの大きな空間もそのまま残されています。現在は100人を超えるアーティストのアトリエが並び、10以上の展示スペースやギャラリーがあります。

ベルリンに次いで、旧東ドイツ第二の街と呼ばれるここライプツィヒは、あのバッハやメンデルスゾーンなど、音楽家、作曲家もとても有名な街。近くには抽象画家クレーやカンディンスキーが教鞭を取っていたバウハウスのあるデッサウ、ワイマール。キルヒナーやノルデがメンバーだったブリュッケや、ドイツロマン派のシュノルやフリードヒなどのドレスデン派でも有名な、古都ドレスデン。そして現代アートで注目を浴びているベルリンなど。ライプツィヒは、歴史的にもそして現在もなお、様々な芸術の流れに囲まれるような場所に位置し、ライプツィヒ派と呼ばれる画家グループを中心に、美術も栄えていた街です。現在は世界的に有名な画家ネオ・ラオホ(Neo Rauch)を筆頭とする新ライプツィヒ派のメンバーを中心に、数多くの新進アーティストがこのSpinnereiにアトリエを構えています。




Spinnereiを見て感じられる
Spinnereiオープン


Spinnereiには展示スペース、アトリエだけでなく、カフェ、大手画材屋、舞台スペース、様々な大型機械を使用レンタルできる工房なども。そんな芸術複合施設Spinnereiは年に数回、ギャラリー・アトリエオープンを開催します。期間中、作家が自分のアトリエを解放し作品を展示したり、ギャラリーや展示スペースが一斉に展示会を行い、毎回多くの来場者で賑わいます。アーティストがアトリエでどんなことをしているんだろう、アトリエってどんな感じになってるんだろう。そんな興味から訪れる人もいれば、一度にたくさんの展示会を同時に見れるということで、足を運ぶ人もいます。大きなパーティー会場のような賑わいを見せるSpinnereiオープン、一日じゃ全て見るのには足りないくらいのボリュームです。中でも、その中心となるHalle 14 という、大きなアートスペースでは、毎回大きなインスタレーションや映像作品が展示され、迫力満点です。

ベルリンから、ライプツィヒへ。 アートシーンの中心が変動している?


「アーティスト一万人越え、アートが盛んなベルリン。」カフェやバー、貸しギャラリーでの展示機会も多く、アートを楽しむのにはぴったりな街。ニューヨーク、パリ、ロンドン、ミラノ、そしてベルリン。ファッションや、デザインそしてアートで、五大都市と言われるほどになりつつあるベルリンですが、ベルリンで活動していると、いろいろ思い悩むこともあります。他のアーティストに埋もれてしまうことや、ベルリン全体のアートのレベル、またアートフェアの出品により、作品が売れにくいことなど、(ベルリンは旧東ドイツに位置しており、西ドイツの大都市に比べまだまだ貧しい地域なため)ベルリンで芸術的な活動をしていくのは、難しいと感じる人も多いのです。飽和状態とも言われつつあるベルリンから、アートムーブメントが少しずつライプツィヒに移ろうとしている流れがあるんです。これはベルリンに限らず、NYからLAへ、パリからリオン/マルセイユへなど、世界各地でも見受けられる動きだと思います。

どこで、何をするのか。
そこに自分が必要としている何があるのか。



脚光を浴びるトップアーティスト達が、中心都市で活動することと、これからやっていこうとする新進アーティストが同じ場所で活動することは、必ずしも同じではないと思います。「NYで展示をした。」という経歴や経験に意味があるという点は置いておいて、「NYのチェルシー地区にある有名なギャラリーで展示をした。」のと、「NYの郊外の貸しギャラリーで展示をした」ということでは価値が違うものでしょう。アートが一番盛んな場所で、他に紛れて展示を行うよりも、少し離れた場所で自分に少しでも注目が浴びるような展示を行うことは、一つの戦略かも知れません。街の富裕層の厚さによって、作品が売れる売れないという差に繋がることもあるので、販売を意識する展示ならば、街レベルで活動の展開の方法を考える必要があるでしょう。契約アーティストを抱えてきっていないギャラリーもまだまだ多くある新開拓地。顧客、ギャラリストなど自分に必要な人たちに招待状を送り、活動の地盤を作り、その後で中心都市へアプローチする。そんな考え方もありではないでしょうか。
ベルリンから少し離れたこのライプツィヒにはSpinnereiの他にも、少しずつ新しいギャラリーができて来ています。ベルリンのギャラリーが、第二店舗としてライプツィヒに新しいギャラリーを開くということも珍しくありません。Spinnereiの中にもあるEIGEN+ARTは、その一つの例になるでしょう。

私がドイツへ来て、まず感動したことは、ベルリンやSpinnereiアーティストなど、アーティストとして生きている人が「見える範囲」にたくさんいるという光景でした。これは裏を返せば、ドイツではアーティストとして生きていく環境があるということに繋がると思います。ドイツには生活費の安さや社会保障、社会的地位、活動の場所などが十分にあります。そして今後どうやって活動していくのかを考える際に、国だけではなく、街単位での活動方法やその場所の環境を視野に入れることが大切だということをよく考えます。 どこで何を行うか、そして何のために今何をする必要があるのか。タイミングや場所を含めて様々なことを考えて明確にし、今後も活動していきたいと思います。

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OTONA WRITER

Masaki Hagino / Masaki Hagino

ドイツ、Burg Giebichenstein University of Art 絵画テキスタイルアート科在籍。「人間はどのように世界を認識しているのか」ということをテーマに、制作を続ける。国内外のギャラリー、アートフェアで展示を行い、作家として活動する。