ヴェネツィア・ビエンナーレ。
現代美術を学ぶ学生なら、きっと一度は聞いたことがあるだろう。
1895年から開催されている現代美術の国際美術展覧会である。
2年に一度6月頃から11月頃まで開催されているこのイベントには、
世界中から国単位で参加し、国家を代表するアーティストが出展する。
ホワイトキューブの絵画が並ぶ美術館とは大きく違う。
国ごとに外観からして異なる建物「パビリオン」には、
その入り口それぞれにJAPAN, RUSSIAなど国名が表記されている。
それらを巡るのは、各棟あたかも様々な国を旅するようでおもしろい。
今回は、この広大なベネツィア・ビエンナーレを紹介するにあたり、
毎回プレビュー期間にプレスとして取材をされている
アートラボ・トーキョーのディレクター、
菅間圭子(Keiko Kamma)さんのヴェネツィア取材レポートを転載させていただくことにした。
この記事は、菅間さんが、
現代アートにさほど深い興味を持っていない、
また、パフォーマンスとかインスタレーションなどの語にもなじみの少ない、
一般の読者を想定して書かれたものだ。
だからこそ、「名前くらいは聞いたことあるけど」という美大生には、
気軽に、でも興味深く読んでもらえることだろう!
「ヴェネツィアをみると、まさにアートワールドの動きが
アートマーケット込みで把握できるので大変よい機会です。
世界情勢とも密接に絡んでおります。
ただ表面的にスタイルを見てまねするのではなく
現在のアートの潮流がどういう概念で組み立てられているのか
ことに若い世代には理解してほしい」と語る菅間さん。
この記事を通してこの「ヴェネツィア・ビエンナーレ」が気になった人は、
これをきっかけにして、ぜひ深く調べ、
ぜひ今年、または再来年、現地に足を運んでみてほしい。
それでは、たっぷりの写真レポートをお楽しみください!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
La Biennnale di Venezia 2015
ヴェネツィア・ビエンナーレは
2年に一度の国際的な現代美術の祭典。
その歴史は19世紀末から始まり
今年2015年は、ちょうど120周年という節目の年。
初めは美術工芸に特化した万博的な催しとしてスタートした
このビエンナーレ。
120年の歴史の中での紆余曲折を経て
現在では、”昔ながら”の各国パビリオンによる
国家代表アーティストの作品展示とともに
ビエンナーレ側の企画として独自に組織された
国際展が催されるという
いわば2重構造になっているのですね。
All the World's Futures
すべての世界の未来
今年の企画展のテーマは「All the World's Futures」
キュレーターは初の黒人男性、オクイ・エンヴェゾー。
ナイジェリア出身のニューヨーク育ち。
マルクスの「資本論」を軸に組み立てられた展覧会では
黒人や、いわゆる第3世界からの発信が目立ち、
白人中心に傾きがちなアートワールドに新しい旋風を吹き込んだ形に。
また資本主義によってもたらされた抑圧に苦しむ層をテーマにした作品も。
ARSENALE & GIARDINI
メイン会場は2か所。
もともとのビエンナーレ発祥の場、各国パビリオンが立ち並ぶ
人口の森・ジャルディーニ。
そして、ビエンナーレ側が組織した国際企画展が始まって以来
その会場として整備された造船所跡地の広大なスペース・アルセナーレ。
S字型に流れる大運河が海と出会ったあたりに
サンマルコ寺院やドゥッカーレ宮、運河を挟んでその対岸に
アカデミーア美術館があり、メインの観光地はこのあたりまで。
ビエンナーレ会場の2つは、さらにその先、赤い線で囲ったあたり。
サンマルコ寺院からアルセナーレ(左側のほうの四角)まで
大体徒歩20分。
ARSENALE
アルセナーレ(元造船所)外壁。
この中が広大なビエンナーレ会場。
企画展のメイン会場、アルセナーレの入り口。
展覧会テーマ「ALL THE WORLD'S FUTURES」が
堂々と掲げられている。
会場内の建物外壁のインスタレーション。
黒人労働の象徴、麻袋で建物の外壁を埋め尽くす。
ビエンナーレ常連、過去に金獅子賞も受賞したアメリカの作家
ブルース・ナウマンの70年代のネオン作品。
今回は言語による作品も多く展示されていた。
株式チャートを織物にした作品。
見た目にはとても美しい。
こちらは今回の金獅子賞。エイドリアン・パイパー(米国)の作品。
資本主義をはじめ、さまざまな要素による抑圧的な社会において、
個人が個を保つことが可能なのか―。観客参加型の作品。
デュッセルドルフの巨匠、ゲオルク・バゼリッツの作品も。でかい!
アルセナーレの中にはほとんど日陰がなく
屋外の空間はイタリアの太陽の
強い光にさらされる。
わずかな日陰と数少ない椅子のまわりに集まる各国メディアやアート関係の方々。
こういうところで見かけるアート関連の方々の中に
将来アタクシがなりたい「かっこいいババア」のモデルがたくさん♡
外のカフェスペース。カッコいいけどフリーwifiもあるけど
炎天下ですぅ~
Press Roomは、無料の冷たい水が飲めて
椅子があって、天国。
(プレビューの間のみ出現)
ヘロヘロの足を休めているアタクシ。
何しろホテルから会場までは石畳。
これ、本当に足に辛い。
疲れてくると一歩歩くごとに
頭にキンキン響きます。
そして会場内は砂利を敷き詰めた道。
足も靴もヘロヘロです。
アルセナーレ展示会場内の建物にある食堂。
たぶん、きっと、エクスペンシブ(内容のわりに)・・・・
◆◆◆
アルセーナーレと、もう1つの会場・ジャルディーニの間は、
大体徒歩15分くらい。
企画展「ALL THE WORLD'S FUTURES」は
ジャルディーニの中にあるエクスポジション館まで
続きます。
GIARDINI
ジャルディーニ・・・こちらは人口の森の中にあるので木陰がある。
この木々の間に、万博みたいに各国のパビリオンが点在。
炎天下を歩かないですむけれど
砂利を敷き詰めた道なので、靴が真っ白に。
企画展の会場、エクスポジション館。
2連の黒板作品(画面左)は、金獅子賞のエイドリアン・パイパーの出品作。
「Everything wil be taken away」というセンテンスが
執拗に書かれている。
身近なものを使いながら構成が見事だったインスタレーション
風にゆれる新聞記事の切れ端。
内容はハードなんだろうけど、繊細で美しい。
ドイツのハンス・ハーケの作品。
ハーケといえば、かつてのドイツ館代表作家(1993年)。
ナチの時代に建てられたドイツ館の床を割り瓦礫だらけにして
壁にはGERMANIA というネオンがあるだけ。
建物入り口にはヒットラーがヴェネツィア・ビエンナーレを訪れた
1930年代の写真。
これ、私がはじめてビエンナーレを訪れたときにみた
なかなか印象的な作品だった。
ほかに今回は、相当数のパフォーマンスや
映画上映なども企画展の中に組み込まれていました。
(大島渚作品「日本の夜と霧」も)
そして、”昔ながら”の
各国パビリオンへ
実際には、アルセナーレとジャルディーニは
それぞれ1日をかけて回っていますが
ここでは続けて書いてしまいますね。
日本館。ベルリン在住の塩田千春氏の作品。
張り巡らされた何万本もの赤い糸が空間をくれないにそめる。
糸にぶら下がる無数のカギ。
非常に詩的で内面に訴える作品。
惜しむらくは、コンセプトが情緒的だったことかな。
現実とのリンクをもっとはっきりと打ち出していれば
かなり説得力を持ったように思う。
ロシア館のインスタレーション
韓国館は若手のアーティストによる映像インスタレーション。
文句なくかっこよかったスペイン館。
サルバドール・ダリの分析をテーマにしたグループ展。
カナダ館は、フランス語圏ケベックのアーティストたちによる
資本主義をテーマにした作品。
実際のマーケットを持ち込んだような入口の展示。
ただ、売買はできなかったので、模擬店ということに。
(たぶん、概念的には本当に売買したかったのだろう。
事務局の許可が得られなかったのだと思う)
英国館。パンクでゲイのかっこいい姐さん、サラ・ルーカスの
圧倒的な作品。
エクスポジション館のテラスにある長椅子も
競争率高し。なぜかみな、アダルティーな女性記者たちが
ぶんどっていた。
こちらはエクスポジション館の中のカフェ。
このデザイン、かっこいいでしょ?
何年か前のビエンナーレで金獅子賞を受賞した作品。
↑
カフェをデザインし、プロデュースするという観念自体が作品。
つまりこの、カフェ自体が作品ということに。
とまあ、ざっとこんな感じのビエンナーレ。
そのほか、このジャルディーニにはいりきれないような
新興国のパビリオンは
迷路のような町中に点在。
さらに関連企画まであわせると
相当数の展覧会が開催されているのですね。
で・・・実は、今回、各国館の中で
1つにだけ与えられる
パビリオンの金獅子賞は、
アルメニア館に。
でもって、このアルメニア館ってのが
ジャルディーニの中でもなく
町中の迷路の中でもなく
海上に浮かぶ小さな島にあったために
取材に行くのにえらい目にあった!
ま、これはまた後ほど。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
執筆者:アートラボ・トーキョー ディレクター 菅間圭子(Keiko Kamma)
アートラボ・トーキョー
ポートフォリオ
写真:菅間圭子 (c)Keiko Kamma
転載元:「ヴェネチア・ビエンナーレ 2015」
本記事は菅間圭子(Keiko Kamma)様から提供を受けております。
著作権は菅間圭子(Keiko Kamma)様に帰属します。
編集者/メディエイター。美大での4年間は「アートと世の中を繋ぐ人になる」ことを目標に、フリーペーパーPARTNERを編集してみたり、展覧会THE SIXの運営をしてみたり、就活アート展『美ナビ展』の企画書をつくったりしてすごしました。現在チリ・サンチャゴ在住。ウェブメディアPARTNERの編集、記事執筆など。