【作家インタビュー 上田純さん】黒色っぽい感じ。いろんな意味を含めて、黒色っぽい感じ…。

「コクとキレ」は京都市立芸術大学の大学院で彫刻を専攻するメンバー11名によって大阪で行われる展覧会です。展覧会に先立ち、出品する作家それぞれの人となりや思考性、作品スタイルについてインタビューを行いました。展覧会は2015年10月13日より、大阪の海岸通ギャラリー・CASOにて行われます。 語り手:上田純 聞き手:山田毅

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山:えーっと、まずは上田さんの作品の傾向を教えてください。

上:傾向?

山:うん。なんか今までつくってきたものと今つくってるものがあると思うんですけど、なんか傾向がありますか?

上:それは表面的な部分と、内面的な部分両方ですよね?総合的にってことですよね?(笑

山:そう、そうそうそう、そう(笑

上:総合的には、一応3年ぐらい前から一貫して”不穏”のシリーズをつくってるんですよ。だからあんまり変化はないのかなあ、と、思ってて。作品形態の方は、最初はインスタレーションがすごい多めだったんですよ。しかも上から下の向きのインスタレーションが多めで。でも最近は彫刻をしたいなって思って。もの、物体でなんとか見せることができないかな、っていうの意識してつくってはいるんですけど、やっぱりそれもインスタレーションっぽいのかなって変化がありました。

山:その、上から下って言うのは、重力みたいなもの?

上:重力ですね。

山:ふぅ〜ん。


  • 重力を意識した映像作品

上:その辺はやっぱ彫刻をずっとやってきているので、潜在的にあったのかなっていうのが。あと上から下だと、基本無抵抗に受け入れるしかないって言うニュアンスが自分の中にあったので、それをたぶん…

山:無抵抗に受け入れるしかないっていうのは、どういうこと?

上:なんか、落ちてこられたらその落ちてくるものも重力に逆らえないので、基本もうそのまま地面に行くしかないなって。雨とか。横から来ても途中でこう、弧を描いて落ちていくじゃないですか。直線的に行くものって現実には存在がないから。で、上から振ってくるものは自分の上に何かを敷いて、防ぐしかないって言う風に思っていて。だから、自分が動かないとこう、基本は無抵抗みたいな。受け入れるしかないなって。

山:もともと上田さんて金沢美術工芸大学?

上:そう、金沢美術工芸大学です。

山:大学の区分とかは、ちょっとわかんないけど、そこでも彫刻を専攻してたの?

上:金沢美術工芸大学でも彫刻で、ここよりもガチガチの彫刻です。

山:ガチガチの彫刻って?

上:アカデミック系の。

山:木彫やったり、鉄やったり、だとか。

上:人体作ったり。所謂彫刻、みたいなのをやってました。

山:でも3年ぐらい前からインスタレーションみたいなとこに移行していく?

上:金沢美術工芸大学のカリキュラム的に学部の2年までは基礎を全部やらされるんですよ。木を彫って、石を彫って、粘土して、みたいな。で、その中にも一応ミクストメディア、現代アートも入ってるみたいな。3年生になったらそこから自分の気になった素材を選択して,移っていくって言う形になるので、一応、全部基礎は全部やってます。で、受験の時もというか高校のときから一応彫刻をやってたんで。

山:え、美術系にいたの?

上:普通高校の美術部で、そこの顧問の先生が彫刻畑の人だったんで、その人に教えてもらって。

山:へぇ〜、じゃあ上田さんはガチ彫刻の人だ。

上:(笑)一応、一応

山:彫刻出身で、彫刻やってる…

上:たぶんここにいる彫刻の人よりかは彫刻かと…

山:そうだよね。で、そのインスタレーションに行ったけど、改めて彫刻をやってみたいっていったじゃないですか。その「彫刻」っていう選んだ言葉というのは、ザ・彫刻みたいな話なの?

上:いや、とは若干ニュアンスが変わって来てて、自分の中でもそれがまだどういった彫刻なのかははっきりしてないですけど、なんか。ものをつくりたいなみたいな欲求が、インスタレーションばっかしてるとちょっとずつ出て来て、やっぱりものでみせるのってカッコいいなっていうところからきてます

山:じゃーそのインスタレーションの時には、どんなことをやってたの?それはものじゃなくて?

上:なんかインスタレーションだと、例えば、畳一畳分ぐらいの布に、つけまつげを10万円分ずっと縫っていくっていう。で、茶室みたいなちょっとした小部屋にそれを真ん中に置いて、他をつけまつげで描いたドローイングでインスタレーションしたりとか。

山:こわい〜こわいわ〜(笑)


  • 10万円分のつけまつげの作品

上:いや、これはちょっと毛色ちがうんですけど(笑 あとは上から風船を垂らして、その風船の中に木炭の粉を仕込んでいて、風船がランダムに割れるって言う風に見せて、そしたら風船割れたら黒い粉がブわって落ちてくるじゃないですか。だから黒い粉がいつ降り掛かってくるかわからないみたいな感じの作品をつくってました(笑)

山:こわい〜こわい〜。こわいな基本的になんかこわいな(笑

上:でも見た目は若干あれなんですよ。ファンシーなんですよ。ファンシーじゃないですけど(笑

山:かわいいというか、取っ付きやすいと言うか。

上:ちょっと、ユーモラス、じゃないですけど。

山:そうだよね、基本的になんか造形的としてはちょっとユーモラスだけど、描く世界は毒があるというか闇があると言うか。それはじゃあ作品の形態についてだったんだけど、中身に関してはどうなの?やっぱり不穏を描いてるの?

上:でも、だんだんその不穏の濃度は薄くなって来てると思いますけどね。

山:それなんで不穏なの?選んだの?不穏を。

上:あー、あの、不穏をやり始めるちょっと前に、自分の中でこれはちょっと一大事だっていうマイナスの出来事があって、これはみんなにも来るなって思って。今自分に来たような一大事はみんなにも必ず来るなって思って。それはよくないことが基本的にはくるな、絶対来るなっていうのでやりました。

山:それはみんなにもいずれ訪れるものだからやろうと思ったのと、というよりは自分にそれが訪れてしまったからそれからそこからどうしても逃れられないみたいな?

上:両方ありますね。なんか…自分でもよくわかんないんですけど。作品を作りたいなっていう欲求は基本的には無いと思ってるんですよ。苦しくて出て来てるみたいな感じが自分の中にはあって、なんかこう、美術はあんまりしたくないけど美術をやるしかないみたいな、なんかそういう感じの、なんかよくわかんないですけど。

山:つくりたくはないの?

上:なんかそんな強い衝動はないですね。

山:生み出さなければ死んでしまうみたいな?

上:なんか、なんでやってんだろ?みたいな。

山:なるほど。でも溜まってくるんでしょ?自分の中に。

上:だと思いますね。最近またそれがちょっといろんな自分の状況とかと相まって、余計わかんなくなって来てはいるんですけど、とりあえずそんなニュアンスが今まではありました。

山:ふぅ〜ん…。それって、何なんだろうね。でもさそれはさ、みんなにも訪れるって言う話をしたと思うんだけど、その啓示っていうの?みんなにとってのサイン?それとも自分のを吐き出すって言うのと、みんなにもあるよ!っていうのはさ、またちょっと違うような気がするんだけど。

上:たぶん、啓示の方が7、8割ぐらい。体よく言うと、日々の価値を再認識した方がいいんじゃない?みたいな。実際自分は後悔したしなぁ、みたいな。のが強いと思いますね。

山:なんかほら映画とかだと黒猫が通ったりだとかさ(笑)っていう表現があるじゃん。黒猫が通るとその後必ず死ぬみたいな。なんかそういう啓示的な意味合いが近いってことかな。

上:そうですね(笑)どっちかって言うと。でもそのあからさまに今猫通ったからこれから不吉なことあるとかじゃなくて自分の場合は。基本的に水面下に爆弾があって、時限爆弾みたいなのが。それがいつ爆発するかはわかんないけど、絶対爆発するよっていう。その爆発力は、なんかものに、人によって違うけれども、デカいのはほんと怖いよみたいな。

山:うんうんうんうん!

上:っていう感じですね。だから一時期爆弾作りたかったんですよ。

山:え?!

上:爆弾。

山:ちょっと危ない話なんじゃない?(笑)ていうか話せる話?それ(笑)

上:いや、へっへっへっへ(笑)実際はやってないですよ(笑)ちゃんと調べて、爆弾ってどういう風に作れるのかなって思ったらやっぱり火薬の免許がいる。ちょっと今はそんな時間はないってなって、その代用が風船なんですよ。膨らまし過ぎたらわれるし、で、一応膨らました状態で置いといてもしぼんでいくのもなんかまた別の意味で使えるなって。爆弾の変わりに風船を。使ってた風船も真っ黒な風船なんで、いい感じに…


  • 黒い風船の作品

山:ロックっていうか危ない作品多いよね。

上:ねえ(笑)

山:一見怖くないのに

上:教授に粉塵爆発気を付けてねって言われました。

二人:(笑)

山:一言では言えないけど、自分ってどんな作家だと思います?

上:ええ?

山:それはなんだ、自分はどんなって言うよりは、作風とか、こういうことをやっている作家だと思う…

上:…黒色っぽい感じ。いろんな意味を含めて、黒色っぽい感じ…

山:黒色っぽい作家?

上:黒色っぽい感じ…

山:色で言うと黒?

上:色で言うと黒、なのは自負してますね。

山:なるほどー。今回みんなで参加して実験的にいろいろやる部屋があるじゃないですか。そこでは他の人と一緒に、自分がやっているスタイルとか素材とかっていうのを持ち寄って、何かアクションを起こしたり起こさなかったりってことをやると思うんですけど、こないだ集めた素材は例えばどんな素材を持っていきましたか?

上:基本的に自分が使っている素材って言うことだったんで、水槽を3つ。と

山:それは過去作で使った?

上:そうですそうです。あと風船。黒色の風船。

山:ああ、爆弾にしたかったやつだ。

上:爆弾(笑)と、なんかいろいろ持っていきすぎて全然覚えてないんですよね。あ、シリコン。一回おっきい水槽の内側にシリコンを張って、白背景にしようとしたことがあったんですよ。で、その使い終わった後のばっと剥がしたシリコンを持っていきました。

山:なるほど。じゃあ、実験の中では何かこういったことをやろうみたいなことは今考えてますか?

上:考えてません。

山:じゃあもうその日その場で思いついたようなことをやろうと思ってるんだよね?

上:そうです。

山:なるほど。今回の展示はどんな所が見所だと思いますか?

上:えー…見所?…見所は…なんだろ、ちょっとよくわかんないですけど、チャレンジ精神みたいな(笑)

山:挑戦?(笑)

上:え、それ全体ですよね?個人じゃないですよね?

山:うん、全体。

上:チャレンジ。

山:チャレンジ?

上:チャレンジ。

山:チャレンジ。そうか、実験とかもあるしね。なるほどね。了解です。ありがとうございました。

京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻展『コクとキレ』
作家|今井菜江 上田純 金昇賢 黒木結 齋藤華奈子 許芝瑜 田中美帆 寺嶋剣吾 林宗将 山田毅 渡辺伊都乃
会期| 2015年10月13日(火)-10月25日(日)
休館日| 10月19日(月)
時間| 11:00-19:00(最終日のみ~17:00) 
会場| 海岸通ギャラリー・CASO
http://www.caso-gallery.jp/exhibition/2015/post-4.html

イベント|
①ミドルパーティー
2015年10月17日(土)16:00-18:30
※11:00からパーティーは始まっています。ピークタイムは16:00からです
②クロージングパーティー
2015年10月24日(土)16:00-18:30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

OTONA WRITER

山田毅 / yamadatsuyoshi

東京から移住して、現在は京都で、編集者をしたり、本屋の店長をしたり、村作りに携わったり、そして再び美術を学んでいます。東京と京都のアート・デザインの世界にまつわるあれこれを配信していけたらと思っています。