【作家インタビュー 渡辺伊都乃さん】その行為をする事で本当の所じゃないけど、そういう所に近づけるんじゃないかなっていうのがある…。

大阪の海岸通ギャラリー・CASOにて行わる展覧会「コクとキレ」は、京都市立芸術大学の大学院で彫刻を専攻する作家11名による展覧会です。今回は展覧会に先立ち、出品する作家それぞれの人となりや思考性、作品スタイルについてインタビューを行いました。展覧会は2015年10月13日-25日まで開催しています。語り手:渡辺伊都乃 聞き手:山田毅

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山田:簡単に言うと、いままでどんなものをつくってきた?

渡辺:んーむずかしい…。

山田:傾向はあったりする?

渡辺:やっぱり人間というか、その枠を超えた内、自分…みたいなものが、中心にあるとは思う。最初はそれが良くみえなくて、自分の身体の動き…?循環とか内臓に、内臓自体が重要なんじゃなくて、目にみえないようなもの?に何か凄く興味があったし、関心があって、どうにかそれを、良くわからないけれど、形にしたいなっていうのはあって。

渡辺:ただそれが今変化して、今まで内側の見えない物を出そう出そうと無理してたけど、外から見つけ出そうとしている感じです。例えば自分が感じ取れる物を探しだすだとか…自分を探しているというか''何なんだろう''という疑問に対しての探し物?(アイデンティティーのはなしではなくて)

山田:どういう素材を使って制作をしてる?

渡辺:今回使っているのはコンクリートで、そこに行き着いたのにはいろいろあるんだけど、なんだろう…コンクリートに行き着いてなかった時の感覚と、今は、なんで行き着いたのかつくってわかったから、前の感覚と違いすぎてどう話せばいいかわからない。

山田:でも、最近はコンクリート?

渡辺:1番新しいのはコンクリート。


  • 制作風景

山田:その前はどんなもの?石彫が多かったの?

渡辺:粘土、テラコッタです。学部のときは、テラコッタか、FRP使ってましたね。

山田:そこから院に入って?

渡辺:しばらくテラコッタ。でも、その中で凄い疑問を感じていて、別に無理矢理素材ありきでなぜ制作してるんだろう?っていう疑問がくすぶってた。自分は、こう興味とかふわふわ動いてるのに、なんでいつも粘土に回帰する必要があるのかなっていうのは凄く感じてて、じゃーもう思いきって変えよう、粘土じゃないものにしようって。今でも別に粘土に戻る必要性は感じてないかなとは思ってる。なんかその自分が惹かれたものに対して1番誠実な素材を使うべきかなと。

山田:今回は作品展示の部屋の他に、作品や彫刻について考えて制作する実験の部屋があると思うんだけど、そこで作家それぞれが、それぞれの技法とか今使っている素材みたいなものを集めてきてやろうという話があると思うけど、渡辺さんは何を持っていって、どんな試みをしようとかは考えてる?

渡辺:うちは今まで使ってきた素材の残りを持っていって、まだ未定なんだけど、セメントが使えるならセメントを持って行こうと考えてます。

渡辺:試みとしては、自分が持っていった素材を使うかどうかわからなくて…今回コンクリートのやつを制作してわかった事があって、自分が惹かれるっていうものを発見(拾う)してからのスタートって事がはっきりしたので、CASOの周りを初日はうろうろして発見した物に対して検証してからのスタートやと思う。CASOに戻ってきて、その発見を引き出せる素材があるかはわからないけれど、それを引き出せるような試みはしたいなと思ってる。まだ、それがCASOで可能かどうかはわかんないからやってみて考える。あわんなって思えば、たぶん素材で遊ぶような事をするんじゃないかな。”積む”ことにも興味があるから、積む行為をいろんな事でやってみたりするかもしれないし、それはまだ皆んなの動きもわからないからなんともいえないけど…


  • 渡辺さんの作品

山田:今”積む”って言葉が出たと思うんだけど、渡辺さんの作品は”積む”って事に意味があるのかどうかわからないけど、その行為に対してある程度重きを置いてるのはなぜ?

渡辺:今わかってる事は”積む”って、無心っていうか、その行為を反復する。だからそこになんか自分を見出せるというか、見出せるような気がして…なんかその行為自体に、その行為をする事で本当の所じゃないけど、そういう所に近づけるんじゃないかなっていうのがある…。
繰り返す事と反復は違って、繰り返すは123-123-123なんですけど、反復は1-2-3-2-1-2-3-2-1なんです。前の数字(太文字の数字)が重複する。このかんじが、重要な部分が残っていくような気がするんです…。

山田:反復する事で重要な部分が残るっていうのは、1度行った事が、なにかここが重要だったんだなってという事を2回目の時に確認しながらやっていく、更新されていくって事?

渡辺:そう、それがどんどん積みあがっていく事でそのポイントが残っていく。なんかそうゆう感覚を感じる…だからすごく個人的なものやし、別にそれは作品とは呼べないと自分で思う。でもそれで今はいいかなって思っていて、んーまだそこしかわかっていない。

山田:今日は、石拾いに行ったんだけど、石拾い好きじゃないですか?石の魅力は?

渡辺:んー石の魅力?


  • 京都の保津川にて、雨の中石を拾う渡辺さん

山田:どんな石が好きですか?渡辺さんの好きな石ベスト3!

渡辺:んー石は全部いいと思うけど、でもなんか並べても自分の傾向はよくわかってなくて、ただ惹かれる。こんなにいっぱいあるのにその1個に惹かれる、それを手にとってみたくなる…たぶんその行為自体も好きなんだと思う。それがたまたま石拾いだったのかもしれないし…でも、石って小宇宙だと凄く思う。「大宇宙がそうであるように、小宇宙である人間もそうである」って言葉があって、捉え方は違うと思うんですけど、私も人間は小宇宙を内包しているって思うんですよね。その小宇宙の謎解きをしたくなっちゃう。そういう事も含めて惹かれるのかも。そこに何かあるんじゃないのかなって思わせる、それが石の魅力かもしれない。なんか私達はどこまで行っても自分の中身はみれないし、想像しかできないけど、でもこの手に拾っている物は、みえる、ある、その実感も魅力かもしれない。でも本当の所はわからない。ただ惹かれるっていう事しか、なんか全部が全部言葉にできるとは思わんし、私は感覚人間だから、その感覚を言葉にできないからこそつくってるのもあるだろうし。


  • 拾った石を丹念に見ている渡辺さん

山田:石拾いと作品制作はつながってくるの?

渡辺:まだわかんない。でも最近、石拾いに関わらず”拾う”って行為自体は作品につながっているなっていうのは確信した。自分が”拾う”っていう、そこには絶対何かしらあるわけだから、そこに自分を見ているっていうのは絶対やなと思う。”拾う”っていう事は繋がりがあるけど、石拾いは繋がりがあるかはまだグレーなかんじ。

山田:今まで行った石拾いに行って良かった場所はどこですか?

渡辺:やっぱり、青森。

山田:なんてとこ?

渡辺:七里長浜。私が住んでた福岡県の糸島は、浜が砂浜なんですよ。だから波音がサラサラ、むしろ波音が勝っちゃうザパンザパンって。でも、あっちは砂と石の浜だから波音がジャラジャラっていうんです。それにすっごい感動した!それに石の種類も違う。見た事ない石だらけ。
まだまだ行けてない場所があるから早く行きたい。

山田:今一番行きたい場所は?

渡辺:新潟県にある糸魚川に行きたい。そこに行けたら、和歌山、東北圏、北海道も行きたいし、北海道の川はまた違うんで、行きたいなぁ。とりあえず東北圏には何回でも行きたい。でも今度高知に行くから高知の海も楽しみだし、五色石というものがあるらしくて、昔はそれを拾ってお土産屋さんで売ってたらしいです。それくらい綺麗な石がある。でも、あまり綺麗な石は興味がないけど、その地に行くならその地の石が拾いたい。

山田:渋い石拾うもんね。

渡辺:んー。

山田:そんなことない?

渡辺:あーでも青森は友達と行ったんですけど、見比べたら全然違って友達は丸い物好きで、好きだからかな?丸いトゲのない形拾ってた卵形みたいなのとか、あ、うちとは違うなぁとは思った。

山田:今日は何を考えて拾ったの?

渡辺:今日はあんまりグってくる場所じゃなかったからなんとも言えないけど…けっこう…模様なんかな?そういう事でもない気がする。

山田:結局のところ石積みって何なんだろ?

渡辺:うーん、なんか積むのは実験だったから、挑戦というか、それから何が得られるかっていうのをやってたから…でも結局何も得られなかったんですけど…石積みからは何も得られなかったっていう事を得られた?それの繰り返しだなと思うけど、何でも。それをいかに数こなしていくか、で、どんだけ近づいていけるか。でも、けっこうショックだった''これだ!''って思ってやったから…それが早い段階で分かっちゃった。その積むっていうのは大事だけど、石積みではない。石積みって意味が強すぎてイメージがついちゃう、記号がついちゃうから違うな。
って事がわかったんだって、今わかった。

山田:なるほど、展示楽しみです。ありがとうございました。

京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻展『コクとキレ』
作家|今井菜江 上田純 金昇賢 黒木結 齋藤華奈子 許芝瑜 田中美帆 寺嶋剣吾 林宗将 山田毅 渡辺伊都乃
会期| 2015年10月13日(火)-10月25日(日)
休館日| 10月19日(月)
時間| 11:00-19:00(最終日のみ~17:00) 
会場| 海岸通ギャラリー・CASO
http://www.caso-gallery.jp/exhibition/2015/post-4.html

イベント|
①ミドルパーティー
2015年10月17日(土)16:00-18:30
※11:00からパーティーは始まっています。ピークタイムは16:00からです
②クロージングパーティー
2015年10月24日(土)16:00-18:30

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OTONA WRITER

山田毅 / yamadatsuyoshi

東京から移住して、現在は京都で、編集者をしたり、本屋の店長をしたり、村作りに携わったり、そして再び美術を学んでいます。東京と京都のアート・デザインの世界にまつわるあれこれを配信していけたらと思っています。