今日は武蔵野美術大学の卒業式。
卒業・修了される皆さん、おめでとうございます!
いつものような体育館アリーナでの派手な卒業式はできなかったけど、リアルな授与式ができてほんとによかったです。また、これまで皆さんを支えてこられたご家族の皆様に心よりお喜び申し上げます。
この時期になると、おセンチなおっさんが先輩ヅラして、後輩たちにしょっぱい話をしがちですよね。
今日はそれです(えっ)。
皆さんは国木田独歩の「武蔵野」という名作はご存知でしょうか?
約120年前に書かれた作品で、情景描写がとても素晴らしいんです。
ブログで何回か紹介したことがあるけど、その一節をまず引用します。ちょうど中盤あたりです。
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武蔵野に散歩する人は、道に迷うことを苦にしてはならない。どの路でも足の向くほうへゆけばかならずそこに見るべく、聞くべく、感ずべき獲物がある。武蔵野の美はただその縦横に通ずる数千条の路を当あてもなく歩くことによって始めて獲えられる。春、夏、秋、冬、朝、昼、夕、夜、月にも、雪にも、風にも、霧にも、霜にも、雨にも、時雨にも、ただこの路をぶらぶら歩いて思いつきしだいに右し左すれば随処ずいしょに吾らを満足さするものがある。これがじつにまた、武蔵野第一の特色だろうと自分はしみじみ感じている。武蔵野を除いて日本にこのような処がどこにあるか。北海道の原野にはむろんのこと、奈須野にもない、そのほかどこにあるか。林と野とがかくもよく入り乱れて、生活と自然とがこのように密接している処がどこにあるか。じつに武蔵野にかかる特殊の路のあるのはこのゆえである。
【青空文庫 国木田独歩「武蔵野」より】
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ちょっとドキっとしません?
「武蔵野の美」なんてフレーズもあるし、ずっと「武蔵野」を「武蔵野美術」と読み替えて読んでも、意味が通じちゃうんです。
皆さんにとって、この1年はほんと悶々とした、悩み迷う1年だったと思います・・・と、いつもならここから「国木田独歩も言ってるように、悩むのも人生経験だし、それで獲られたものがあったはず。迷うのが武蔵野の道なのだ!」とこの状況をポジティブ変換し、それを手羽からのしょっぱいメッセージにしてたはずです。
でも、そんなきれいごとではまとめられないくらい、大人も本当に迷い悩んだ1年でした。
東日本大震災は仕方ないもの、あきらめがつくものがあったけど、コロナでは街や人は元気なのに動けないから、ある意味悩み迷みが震災の時より奥深いかもしれません。
手羽にとっても迷いの1年でした。
というのも、11月末に心筋梗塞になりまして。
術後すぐではどういう病気かよくわかってなかったし、入院自体初めてだったんで「退院したらすぐに仕事復帰しなくちゃ。みんなが手羽を待ってる!」と思ってたんですね。
「(無理をしない範囲なら)すぐに仕事復帰してもOK」と主治医から診断書ももらいました。
でも退院してみると全然ダメ。体も頭も動かない。ブログみたいな一方的に文書を書くことは時間をかければできるんだけど、「受信したメールを読んで、それに合わせて返事する」てのができない。同じ文章書くのでも頭を使うところや体力が違うんでしょうね。
HPがもともと10あったのが心筋梗塞で0になり、手術後、持ち前の基礎体力とポジティブ力で一気に5に戻った。でもそこから上昇せず、6ぐらいをうろちょろしてる感じが退院後もしばらく続きました。正直、今も一直線に回復してるとはいえず、体調が良くなったり悪くなったりを繰り返してます。7ぐらいにはなったかな。
で、産業医さんとの面談で「すぐに職場復帰するつもりだったけど、今の体調だと逆に迷惑かけそう」と伝えたところ、こう言われたんです。
「休むなら3ヶ月以上休め」。
心筋梗塞になる原因は遺伝や食事、運動不足、たばこ等々いろいろ考えられますが、ストレスもその一つだと言われてます。自分ではストレスを感じたことは全然なかったんだけど、自分が気が付いてないだけで、実はストレスをずっと受けてる状態だった可能性もあるらしい。
産業医さんがおっしゃるには、1,2か月で復帰すると、ストレスかもしれない仕事がストップしてるだけで、復帰したらまた元通りになってしまう。でも3ヶ月休めば、その仕事は誰かがやってるはずだから、少なからず解消につながる。
「だからここは我慢して3ヶ月休みなさい。手羽さんがいなくてストップしちゃうような弱い職場じゃないでしょ?」と言われ、そりゃそうだ、と。
さすがに3ヶ月休む勇気はなく、実際は2か月半で復帰しちゃったんで、「え。これ処理しないでそのままだったの・・」なストップしてるだけの仕事も少しあったけど(笑)、産業医さんがおっしゃる通り、手羽の仕事は誰かに移ってました。
これによってすんごい負担をかけてしまった人がいるんで申し訳なく感じ、「私の代わりは他にいるもん」と心の中の綾波レイが寂しそうにつぶやく一方、手羽がいなくてストップしちゃう弱い職場じゃないことがわかりホっとしました。ま、もともとそんな大した仕事してなかったけど(笑)
国木田独歩の「武蔵野」に話を戻します。
上記引用箇所の後、
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されば君もし、一の小径を往き、たちまち三条に分かるる処に出たなら困るに及ばない、君の杖つえを立ててその倒れたほうに往きたまえ。
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と、いろんなものに偶然出会う喜びや楽しさが延々と書かれているんですが、今の手羽の心情としては、「前に進まず、そこにステイする選択もあるよ」と伝えたいかな。
迷いながら前に進み、壁にぶつかってもそれを乗り越えることで人間は成長するし、偶然な出会いはとても大事。迷うことをポジティブに捉えた方が人生は楽しい。
でも、必ずしも前に進む必要はなく、迷ったらその場でのステイを選択し、テントをはってキャンプするのもいいかもしれない。ハンモックでのんびりと本でも読みながら。そう3ヶ月ぐらいね。
やってきたリスと出会ったり、タンポポの成長を観察してると、やがて霧が晴れて、さっきは見えなかった景色が見えるようになるかもしれない。
ガシガシ前に進んで壁にぶつかることが美徳のように思われてるけど、自分が動いたり変化しなくても、周りが変わって解決することもあります。
これから社会に出て困ったことや迷いが起きたら、そんな選択もあることを思い出してもらえれば。
先輩からのしょっぱい話でした。
改めて、卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
桜満開でお待ちしております。
以上、卒業式司会に抜擢された木反橋くんが、一度も噛まずに進行すると信じてる手羽がお送りいたしました。(プレッシャーを与える)
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。