美術手帖 2021年2月号はもうご覧になりましたか?
特集が「2020年代を切り開く ニューカマー・アーティスト100」で、キュレーター、批評家、アーティスト、美大教授などが期待の若手アーティスト100組を一挙紹介しています。
美術手帖がこの特集を前回やったのが、2016年12月号「あなたの知らないニューカマー・アーティスト100」なので4年ぶり。
手羽にとっては待望の企画だし、恒例の「アート&デザイン学校ガイド」企画もあったんで、久しぶりに美術手帖を買いました。
amazon調べたら、2020年4月号「表現の自由 とは何か」以来。WEBサイトは毎日のように参考にさせてもらってるけど、この手の雑誌はほんと買わなくなりましたね・・。
で、恐らくこの号を見て、誰もが・・特に美大関係者が感じたことはこれじゃないでしょうか。
「藝大卒ばかりじゃね?・・・」
ほとんどの人がプロフィールに「東京藝大卒」と書かれてる印象で、「100人中何人がそうなんだろ?てか逆に藝大以外の人は何人ぐらい入ってるの?!」と気になって気になって・・。
なので、調べちゃいました。美大関係者が思いついてもみっともないからやらないことを(笑)
方法はいたって簡単。
こんな感じに
「作家さんのプロフィール欄に書かれてる学歴と誰が推薦したか」をエクセルにまとめただけです。あ、データを手に入れたわけじゃなく、「手羽がページを1枚1枚めくりながら100人分調べた」の超アナログ調査です。実は2016年の時も同じことをやりました。
「学歴厨」とかって言われそうだけど、みんな気にしてるけど、みっともないからやらないだけで(2回言った)
で、最終学歴(または在籍)をまとめるとこうなりました。
29人:東京藝術大学
10人:多摩美術大学
7人:京都市立芸術大学
6人:武蔵野美術大学
5人:東北芸術工科大学
3人:女子美術大学、京都精華大学、愛知県立芸術大学
2人:沖縄県立芸術大学、九州産業大学、広島市立大学
1人:金沢美術工芸大学、東京造形大学、京都造形芸術大学、名古屋芸大学、日本映画大学、東北大学、横浜国立大学、群馬大学、慶応義塾大学、東京国際大学、北海道教育大学、桑沢デザイン研究所、未来美術専門学校、ロンドン大学ゴールドスミス、サンドベルグ・インスティチュート、ブラウンシュヴァイク美大、ベルリン芸大、ニューヨーク市立大学、ナンシー国立高等美術大、朝鮮大学校
*不明:8人
なんと100人中29人が東京藝大!
2016年の時は100人中24人だから、割合的には4分の1から3分の1になったぐらいの増え方。圧倒的。
東京藝大29人中26人が大学院修了または在籍。
「やっぱ東京藝大大学院まで行かないと注目されないんだなあ」と思ったりもするけど、東京藝大は他私立美大を卒業してから藝大大学院に進む人も多いんですよ。今回はそれも調べてみました。「どの美大から東京藝大大学院に入ったのか」。これも気になるデータなので。
わかったのは10人。3分の1は他美大卒ってことですね。
・・と、ここまでデータ見てきて「藝大はやっぱりすごいなあ」の次に皆さんはこう思うんじゃないでしょうか。
「ムサビはタマビに全然人数で負けてんじゃん。いつも偉そうなこと言ってるけどムサビってダメね」と。
手羽も調べてる途中、冷や汗が出ましたが(笑)、これはデータをどう読むかで。
というのも、「どういう大学関係者がどういう人を推薦したか」もまとめてみました。こちらです。
東京藝大関係者が推薦した6人中5人が東京藝大卒、タマビ教員が推薦した6名全員タマビ、女子美の先生も全員女子美OGを推薦してるんですね。
典型例は京都造形、現在の瓜芸かな。
前回2016年版では京都造形出身者が8人も入ってたけど今年は1人だけなんすよ。これ理由は簡単で、京都造形8人中7人を推薦したのは椿昇さんや名和晃平さん等京都造形関係者だったんです。
一方、ムサビの袴田先生は4名中2名はムサビOGだけど、2名はムサビとは関係ない方を推薦しています。すごく袴田さんらしい(笑)
これには二つの考え方ができるはず。
「自分のところの卒業生や学生を紹介するなんて、ナーナー過ぎじゃね?」と「大学に発信力がある人がいるってことじゃないの?」。
「客観的にするために大学関係者は外すべきだ」という意見もあるかもしれませんが、アーティストや学芸員が非常勤講師等で関わってるケースはよくあり、厳密にやるのはなかなか難しいはず。今回は美術手帖に書かれてる略歴で判断しただけなので、実は書かれてなくても関係者だったりするかもしれません。
個人的には趣旨が「応援のために無名に近い作家を挙げる」だから、この特集においては教員が自大学卒業生を紹介するのは全然おかしくないと思ってます。
ちなみに教授が自大学の卒業生や在学生を選出するのはこれはこれで難しいことで、「なんであの人を選んで、私を選んでくれなかったんですか!」と言われたりするそう。言われないまでも「先生はそう思ってたんだな・・」と感じられる怖さがあり。
また、今回のことではありませんが「他の連中はまだまだ頑張れるだろうけど、あいつ最近悩んでるから、ここで後押ししなくちゃ作家やめちゃうかもな・・」という気持ちで選出するケースがあると聞いたことがあります。
これを「客観的じゃない」と取るか「教員の優しさ」と取るか。
人が選ぶ以上、100%客観的なデータなんて作れるわけなく、「そのへんの心理も含めた選出も入ってる」という視点で読むと、また変わった見方ができるかもしれません。
何が言いたいかというと、「どこの大学出身者が多い」とかみっともないし意味もないからやらない方がいいってことです(お前だお前)
前回と今回の特集の一番の違いは「芸術分野のジェンダー不平等な状況を鑑み、推薦者は男女同数に依頼したこと」です。
それもあってか、パっと数える限り女性が6割ぐらい選出されてますね。確か前回は5割以下だったはず。美術大学の女性率はどこも7割以上なので、推薦者を男女同数にすることで実態に近い数字になったかもしれません。
以上、「あ。こういう記事はnoteの有料記事にしちゃえばいいのか」とあとで気がついた手羽がお送りいたしました。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。