美大愛好家的「京都芸術大学問題」まとめ

2019年8月29日(木)

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週末イベントの資料作りもあるんで今週の手羽美★は夏休みを取ろうと思ってたんだけど、美大愛好家としてこの大きな話題に触れないわけにはいかない。


こう書かれちゃったら余計に(笑)
美大愛好家としてのアプローチで書かせてもらいます。

 
美大関係者に「今一番勢いのある美大ってどこ?」と聞くと、恐らくほとんどの人が「京都造形」と答えるんじゃないでしょうか。
通信生もいれると学生数は1万1千人を超え、芸術系大学では最も多い学生数の大学になったし、鬼合宿は毎年すぐに満席になるし、企業との連携や地方での活動はどの京都の美大よりも活発。
京都造形芸術大学を運営する学校法人瓜生山学園は、京都芸術デザイン専門学校京都文化日本語学校を持ち、さらに2019年4月に認可保育園通信制附属高等学校も開設し、京都の美大は「全年齢層を持ってかれるんじゃないか」と脅威を感じてるはず。
なおかつ副学長にはブランディングのプロが就任する流れがあり、以前は秋元康さん、今は小山 薫堂さんがされてるから、いつも動きが早いし、メディアの使い方がうまいし、従来通りの美大広報とはちょっと違う、気になる動きをいつもされてきた印象があります。

例えば、
大学選びのウソ・ホント|京都造形芸術大学

大学名こそ出てないけどこういう比較広報はこれまで美大ではやってこなかったし、手羽がよく例に出すのが2014年のこちらです。
京都の芸大が、やってくる!in nagoya

「東京の7大学・愛知の4大学ってどこだろ?もっとあるんじゃないかしら。逆に京都の6大学って滋賀の成安造形もカウントしてない?」とか「在学生の言葉でも『愛知県の芸大のレベルが2極化してる』とか言っちゃう?若手職員を指導してあげるスタッフがいないのかな」と思ったりもしますが、芸術系大学としては比較的新しい学校なので、当然といえば当然の攻めの戦略。


そんな京都造形さんが8月27日、こういうリリースを発表しました。
京都造形芸術大学|開学30周年「グランドデザイン2030」と「京都芸術大学」への名称変更(2020年4月1日〜)について

主は2021年の30周年、そして今後10年間のグランドデザインで、大学理念である「京都文藝復興」「藝術立国」のさらなる実現に向けて、
●「音楽」「エンターテインメント」「テクノロジー」等の領域拡充
●「附属高等学校」のさらなる展開と新たな高大接続モデルの構築
● 次世代の学習環境を創造する「Campus2.0」構想

の推進宣言。

領域拡充とCampus2.0構想が気になってるんだけど、今話題になっているのがグランドデザイン策定に伴った
2020年4月1日より「京都芸術大学」へ大学名称変更
の発表です。
これはほんとびっくりしました。最初は虚構新聞かと思ったくらいで・・。

グランドデザイン2030を見てすぐに思ったのは「『造形』ってそんな狭い概念じゃないんだけどなあ。『造形芸術』だと確かにファインアート寄りの印象はあるけども」かしら。
「デザイン」も20年前は「意匠」の意味合いが圧倒的に強かったけど、今はずいぶん変わってきましたよね。「造形」も「カタチヅクル」であり、モノづくりだけじゃなく仕組みづくりの意味があるんだけど、世の中ではまだその解釈が浸透していません。ムサビは気づいてもらうためにあえて「造形構想学部」「造形言語」という言葉を使いだしましたが、東京造形大の英語名称が「Tokyo Zokei University」なぐらい「造形」という言葉を信じててもよかったんじゃないかなーと。
また、京都でタクシーに「京都造形まで」とお願いすると、10年前ぐらいまでは「京都造形?・・あ。ゲイタンさんね」「フジカワさんね」と返されることが多かったっけど、今はすっかり「京都造形」が浸透しています。それをこのタイミングで捨てるのは勿体ないなあ、と。


でも京都造形さんからすれば、1991年京都芸術短期大学を四年制改組する時に本当は京都芸術大学にしたかったんだけど当時は美術系学科しかなかったんで断念した経緯があります。「京都芸術大学」という大学名は故 徳山詳直前理事長の強い悲願だったはず。
新英語名称の「KYOTO UNIVERSITY OF THE ARTS」にもメッセージを感じるし、大学ドメインをkyoto-zokei.ac.jp等ではなくkyoto-art.ac.jpを使い続けてきた伏線がようやくつながったというか。


ただ。
もちろん京都には通称「市芸」「京芸」の1880年創立京都府画学校を源流とする京都市立芸術大学があります。
京都造形さんがいくら「略称としては、「瓜芸(うりげい)」「KUA(ケーユーエー)」を使用し、「京芸」「京都芸大」は使用いたしません」と言っても、紛らわしいことが起きるのは明確。例えるなら、ムサビが「90周年を機に『国立(くにたち)芸術大学』に変えます。略称は国立芸大」というようなもん。違うか。
例えるなら、名古屋芸術大学さんが「あ。その手があるのか」と愛知芸術大学に名称変更するようなもの。あ、これだ。


昨日の朝、京都市立芸術大学が理事長名(学長でもあります)で
京都造形芸術大学の名称変更について
という法的措置もありえる抗議メッセージを出し、京都市長も大学名再考の異例のコメントを発表しました。
京都造形芸術大学の名称変更についての市長コメント
ただ、既に「京都芸術大学」で文科省は受理してるんですよ。ま、文科省は「教育研究上の目的にふさわしいものかどうか(系統と名前が一致してるかどうか)」しかチェックしないだろうけど。
次は国公立5芸大の連名抗議文か、市芸さんが京都移転の文化庁に陳情し、元東京藝大学長の宮田長官が間に入る、という展開かな。うーん、すごくありえる・・。


美術手帖さんがこれに関する取材記事を出してて、要約すると、
京都造形芸術大学は「京都芸術大学」に? 京都市立芸術大学と京都市は異議示す|美術手帖
・京都造形芸術大学から京都市に名称変更の連絡があったのが7月9日
・7月12日に京都造形芸術大学の尾池和夫 学長が京都市立芸術大学に来校し、名称変更の旨を口頭で伝えた
・両大学は名称変更についての話し合いを書面で継続。
・京都市立芸術大学は名称変更について異論を唱えたが、京都造形芸術大学からは「混同する恐れはない」といった旨が書かれた回答書が送られてきた


とのことで、商標申請のタイムラインと重ねると、

7月9日に説明を聞いて、あわてて11日に市芸さんは「京都芸大」「京芸」を商標申請し(ついでに「京藝」も取ればよかったのにと思ったり)、

17日に京都造形が「京都芸術大学」を申請したら、さらにあわてて18日に市芸が同じく「京都芸術大学」を出した・・という流れなのがわかります。
手続き的なこと、法的な視点だとどうなんでしょ。専門家の方教えてください。
あ、誤解ないように補足しますが、「ブランド」「リスペクト」「心情的に」だといろいろ思うことはあるし、逆の立場なら「ふざけんな!(怒)」と絶対に思うだろうけど、法的・手続き論で考えた場合の話です。さすがに京都造形さんはこのへん丁寧にやってるんじゃないかと思うのだけど。

ちなみに。
ムサビやタマビも女子美も東京造形も大きなカテゴリでは「芸術系大学」なので、「芸大」と名乗っても問題ではないのですが、東京で「ゲイダイ」「ゲイダイ出身です」といえば100%東京藝術大学を表すし、「芸術大学」という言葉にリスペクトもこめて、「ムサビは芸大です」ということはまずありません。
でも、関西だと最近は結構普通に「うちも芸大です」と広報に使う傾向にありますね。

ちなみにちなみに京都の美術系大学の略称はなかなかややこしくて、数年前に書いたこちらの記事を参照ください。
関西と関東の美大の違い2
昔からの美大関係者だと「京芸」よりも「市芸」を使ってる人の方が多いんじゃないかな(手羽もそうです)。


昨日のうちにChange.orgで反対署名運動も起きました。
京都造形芸術大学の「京都芸術大学」へ名称変更についての反対署名

はたしてどうなるのか。


ひらめいた。
「京都ブランドは捨てたくない」「造形芸術はやめたい」ってことなら、「京都創造大学」はどうでしょう。
これなら略称「京造(キョウゾウ)」も変えずに済むし、ものづくりだけのイメージじゃないし、私立っぽいし。今日の手羽、冴えてる。


以上、商標検索してたら

東京工芸大さんが2006年頃に大学名変更を考えてたことをたまたま発見しちゃった手羽がお送りいたしました。冴えまくってる。
東京芸術工科大学、すごくいい名称だと思うんだけど、なんでやめちゃったんだろ?

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。