【今年も手羽が講師をします】ムサビ入門ってなんだ?

2019年5月31日(金)

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1年生を対象とした「ムサビ入門」という、れっきとした2単位が取れる前期授業があります。
大学における学びへの導入として心身の健康に関する知識を獲得し、大学の成り立ちや歴史を知
ることで、ムサビ生・美大生・大学生としてのアイデンティティ獲得、表現者としての視点を確立することを目指した授業。学生さんからは「楽しい」「しんどい」と意見が分かれる授業でもあります(笑)

10年前ぐらいだと「大学の授業でそんなことやるの?!オリエンテーションでやれよ!」という声の方が大きかったはず。でも今はむしろ「自校(自分)を理解する→自分を肯定する→勉強へのモチベーションを上げる(中退率を下げる)」という効果があるので、総合大学では普通に取り組んでる内容で、ムサビは2016年からスタートしたけど後発組ぐらいで、今となっては否定する人は少ないはず。
「在学生保護者向け大学説明会」もそうですね。10年前だと「大学が保護者会?!子供じゃないんだから・・」と言われたもんだけど、これは去年のムサビ在学生保護者説明会の様子ですが↓

7号館4階の一番大きな講義室があっという間に埋まり、それでも入りきらず他教室に生中継したくらい。ちなみに今年は午前・午後の2回制になりました。これが現状です。


ただ自校教育といっても、大学の歴史を語るだけじゃほんとにオリエンテーションでいい話。
ムサビ入門は、毎回異なるテーマで異なる専任教員が、それぞれの研究分野によせて学生さんにとって身近な「大学生活とムサビ」をモチーフに講義するのが最大の特徴となっています。

例えば心理学を専門とするクリエイティブイノベーション学科の荒川先生が「大学生のストレス」「悪徳商法やブラックバイト、カルトにひっかかる人間の心理」を心理学的に展開したり、健康の話を体育の北先生がしたり、図書館を利用した研究の楽しさを伝えたり、教育史の専門家である教職の高橋先生が社会や大学の歴史の中から見たムサビの歴史を語ったり、数学の圓山先生がかたちと多様性について説明したり、彫刻の黒川先生が彫刻的観点からムサビ関連銅像の話をしたり、建築学科主任教授の鈴木先生が建築学的にみたムサビキャンパスの特徴を解説されたり、音楽の白石美雪先生がムサビ校歌を学問的に分析しみんなで歌ってみたり、ディスカッションやったり、という感じ。
校歌を歌う機会は今まで入学式・卒業式しかなかったけど、ムサビ入門を受講することで北原白秋作詞のムサビ校歌を覚えることができる。

手羽的視点だと、このムサビ入門は「教員どうしが声掛けをし、専任教員だけで構成するオールムサビ体制の授業」が最大の特徴だと思っています。
「事務局から無理やりに」ではなく先生方から「こういう授業があった方がいいよね」「この先生にこういう話をしてもらうといいんじゃない?」という形で始まり、授業内容や声掛けも先生方がされてるんです。
他美大では他学科の先生と一緒に授業をやること、まして教養科目の先生と実技系の先生がタッグを組む授業はほぼ考えられません。ムサビは「美大」としてだと学生数・教員数の大きな大学に入りますが、そのわりには先生方の交流も深いのがこの授業からもわかります。


  • 去年のムサビ入門の様子(建築・鈴木先生)

たぶん同じようなことを他美大さんでやろうとしたら、教務課が無理やりあちこちの教授達に頭を下げて依頼をして、「そんな話を授業でやるなんて」と文句を言われ何度も職員が授業理念を説明し、お客さん状態で授業をしてもらう・・という形になるはずで。
「教員の横のつながりが強い」「専任教員が様々な研究分野を網羅してる」「学問の広がりを大事にしてる」と、ムサビ入門自体がムサビの強みを表してる授業なんですね。


「様々な切り口でムサビ(自分)を学ぶ面白さを知る」という意味合いもありと思います。ムサビの中では当たり前のことも一歩外に出ると当たり前じゃないわけで。

例えば、総合大学とムサビで非常勤講師をされてる先生が「ムサビ生は『睡眠』を価値基準にしているのが面白い」とおっしゃってました。
というのも、授業評価アンケートで「授業が楽しくて眠くならなかった」と書くのはムサビ生だけで、一般大学ではいないんですって。「もしかしたらムサビ生は課題が多くて睡眠時間が短いから『睡眠=自分に必要な価値』になっているんじゃなかろうか」とその先生は推測されてました。
ここまでいけば「ムサビ(美大生)をテーマにした研究の切り口」になる。


そうそう。違いといえば、昨日、守衛さんと話す機会がありまして。
守衛さんは様々な大学で守衛業務をされた方がいらっしゃるので、「守衛さんの立場で一般大学とムサビの違いを感じるときはありますか?」と聞いたら、すぐに「学生さんが挨拶してくれる確率がどの大学よりも圧倒的に高い」と答えてくれたんです。
私たちからするとその光景って日常なんだけど、一流大学の学生さんだと守衛さんに挨拶をする人は皆無なんだそう。なんか小さな話だけどうれしくありません?

また、下の写真は、学期末に清掃さんが張り出す張り紙だけど、

それが作品なのか素材なのかゴミなのかは誰もわからないわけで、「アートはゴミかどうか?」論争を一番悩んでいるのは美大の清掃さんかもしれない。

先ほどの守衛さんはこうもおっしゃってました。
「総合大学では建物のそばに突然現れたものは放置物か危険物しかありえず、すぐに報告し撤去対象になる。でも美大だと作品だったりするから、最初赴任した直後はこれが放置物なのか作品なのか材料なのか区別がつかなくて、見回りにすごい時間がかかりました(笑)」と。

確かにこれを見て、「手前にあるのは材料の石で、その横が多分かぶせてたブルーシート、その横が彫刻運搬用の枠、奥は・・・作品といえば作品だけど」と答えられるのは彫刻学科だけで、私たちは日常の光景だけど、守衛さんからすれば「置いている」のか「放置されてる」のか「危険物」なのかわかるはずない・・。

通常の大学警備ではありえない、美大の特殊性を理解され臨機応変な対応をされてる美大守衛さん。その方に注意されるってことはよほどのことだという認識がなく、「融通がきかない」と逆切れする外の世界を知らない学生さんや教職員がたまにいらっしゃる悲しい事実。
守衛さんや清掃さんは「学内全体を常に見てる一番身近な他者」とも言え、「自分を知る」「違いを学ぶ」ための最高のメディアかもしれません。

ちなみに彫刻学科は搬入だったり警備でいつも守衛さんにお世話になってるんで、芸術祭の男神輿は必ず正門守衛室前で感謝を込めてエンヤコラセを奉納させてもらってます。

・・え?逆に迷惑になってる?(笑)


で、はい、ここから本題です(えっ)

今年もムサビ入門に手羽が登壇することになりました!
去年までは大学史史料室所管として法人企画グループ長名で出てたけど、今年は完全に美大愛好家・手羽イチロウ名で(笑)
7月頭に2回続けて登場することになってますんで、「めんどうだから出席だけやったら出ちゃおうぜ」「課題が詰まってるだから休んじゃえ」なんてことはしないでね・・・。

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OTONA WRITER

手羽イチロウ / teba ichiro

【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。