「下水道」をテーマに大学生がZINEを制作。若者にもっと下水道の魅力を知ってほしい!東京地下ラボ by東京都下水道局

下水道の魅力を、編集の力で若い世代に届ける。そんなテーマのもとにスタートしたプロジェクトが「東京地下ラボ by東京都下水道局」。デザイン、工学、科学と異なるバックグランドを持つ学生たちがグループを組み、下水道に関するZINEを制作することになった。その成果報告会が2月13日に東京都庁で開催された。その模様をお届けする。

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「下水道」がテーマの世にも珍しいZINEを学生たちが制作

下水道に関する都民意識調査によると、20代の下水道事業への関心度は10%程度と著しく低い。こうした状況を打破するために立ち上がったのが、本プロジェクトだ。

2018年11月に首都大学東京で実施された、雑誌『ケトル』編集長の嶋浩一郎氏による編集に関するワークショップを皮切りに、12月にはプロ・ナチュラリストの佐々木洋氏をファシリテーターにフィールドワークも実施。こうした活動を通じて得た知見をもとに、学生たちは8つのグループに分かれてZINE制作に突入した。そのお披露目の日が2月13日の成果報告会というわけだ。

この日は、制作されたZINEのなかからグランプリ、メディア賞、ソーシャル賞を選ぶという。会場には、プロジェクトに参加した学生たちに加え、審査員としてワークショップを担当した嶋浩一郎氏、認定NPO法人ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁氏、そして東京都下水道局総務部長の安藤博氏の3名の姿があった。

主催者挨拶と審査員紹介が行われた後、学生たちはグループごとに3分間のプレゼンテーションを実施。ZINEの魅力を端的に紹介している姿から、何度も練習した様子が伺えた。なかには当日の朝まで発表原稿を入念に確認していたグループもあるという。

紹介されたZINEは、それぞれに違った魅力があり、審査を任された3名はどれを選出するべきか悩んでいたように感じる。

学生たちや審査員の投票によってグランプリが決定!

8グループすべてのプレゼンテーションが終わり、休憩を挟んだ後にいよいよ審査発表へ。学生たちと審査員の投票によって、それぞれの賞の受賞作品が決定した。

ソーシャル賞には、下水道のない都市とある都市をポップなイラストで表現した『下水道のない世界』が受賞した。

高橋氏からは「下水道のない世界は実際に開発途上国に存在しているけれど、それを架空の都市を通して説明することでシリアスなトーンにならずに紹介できている点が素晴らしいと思った」と講評があった。

続くメディア賞には、ヨーロッパの下水道の歴史とファッションを紐付けて紹介した『SEWER AND FASHION』が選ばれた。

選出理由について、嶋氏は「ハイヒールやフープスカートといった普段から身につけているアイテムが誕生した背景が、下水道と関連づけられている点が非常に編集的で面白いと感じた」と話す。

そして映えあるグランプリに選ばれたのは、清流復活事業に着目した「私と川と、サンドイッチ」。

サンドイッチの形をしたかわいらしい8つ折りのZINEだ。一見すると何ら関連性のない下水道とサンドイッチを巧みに意味付けして紹介していた点が大きく評価された。

このZINEの制作に携わったのは、首都大学東京大学院修士生の竹内泰裕さん、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科の石上真菜さん、武蔵野美術大学基礎デザイン学科の船越源さんの3名。

ZINEを開けると、渋谷川、目黒川、野火止用水、玉川上水の4つの川に関する説明と、それぞれをイメージしたサンドイッチが掲載されている。そして裏面には、パンの具がサンドされた写真と、川が岸辺でサンドされた写真が上下に並ぶ。こうしたユニークな発想も高い評価を得るに至った理由のひとつになったのだろう。どのような意図でこのZINEは作られたのだろうか。メンバーに話を聞いた。

石上さん:下水道は汚い印象があると思います。でも、12月のフィールドワークで訪れた多摩川はすごく綺麗で、鮎も泳いでいるほどなんです。だから、負のイメージを払拭するためにはどうしたらいいかをすごく考えました。その結果、川にピクニックに行くアイデアが浮かびました。なぜサンドイッチかというと、おにぎりやお弁当に比べて手軽だし、写真映えもするからSNSで発信しやすいと思ったんです。

船越さん:デザインに関しては、サンドイッチと川をビジュアル的にどうやって結びつけるかが難しかったです。でも、川をサンドイッチの具に見立てるアイデアがひらめいて、それが突破口になりましたね。

竹内さん:私は原稿制作を担当したのですが、限られた文字数のなかで必要な情報をきちんと入れていくのが大変でした。たった4つの文章ですが、完成までに1週間かかっていますから。

3カ年計画の1年目は大成功。早くも次回の開催が待たれる

審査員を務めた安藤氏は、今回のプロジェクトを次のように講評する。

安藤:長いこと役人をやっていると、漏れがないかとか、これを載せたらクレームが来るんじゃないかと、どうしても保守的な考え方になってしまい、いつも同じようなものを制作していました。しかし、学生たちの制作したZINEはそれぞれに違った魅力があり、どれも素晴らしいものでした。今後の広報活動にぜひ活かしていきたいと思います。

この安藤氏の言葉と同調するように、プロジェクトを推進していた下水道局の職員たちも「自分たちが気づかなかった下水道の魅力を知ることができた」と話す。社会では、プロやアマといった言葉で実力の差を二分することも多い。だが、そういった凝り固まった考えに囚われず、ユニークな視点で下水道の魅力を伝えることに尽力した学生たちの姿から学ぶべきことは多い。

大成功に終わった本プロジェクト、実は3カ年計画の1年目だという。つまり、2019年度、2020年度の開催も決まっているというわけだ。来年度はどのようなテーマで取り組むことになるのか。詳細はまだ決まっていないそうだが、より実りのあるものになる予感がする。

「東京地下ラボ by東京都下水道局」のこれまでの活動を見るならこちら!
https://note.mu/tokyogesuido


【クレジット】
取材・文/村上広大 撮影・今井駿介

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