今の私たちに足りないもの、それは「熱量」ー OFP松江さん&檜山さん対談【前編】

リニューアルしたフリーペーパー専門書店「ONLY FREE PAPER(以下OFP)」。ここに、フリーペーパーへの熱量が凄まじい人達がいる。それはOFP代表の松江さんと、スタッフであり、昨年のSFFにてアワードを受賞した茨城大学のフリーペーパーで編集長を務めていた檜山さん。そんなお二人に、中目黒の新店舗にて学生フリーペーパーの"熱量”について熱く語っていただきました。フリーペーパー制作者の皆さん、フリーペーパーを制作したいと思っている皆さん、必見です!!

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熱意は狂いから生まれる!?

渡辺(SFF記者):お二人はこれまで様々なフリーペーパーを見てきたと思いますが、制作者がフリーペーパーを通して熱意を伝えるために、何が必要だと思いますか?

松江さん(以下松江):阿呆な回答ですけど、やっぱり制作者自身が熱意を持つことですよね。制作者自身に熱意があれば、媒体を通して自然と熱意が伝わってきます。

制作をしているとデザインや、ライティングのスキルに目が行きがちですが、それは関係ないと思います。熱意さえあれば、拙い文章でもその思いは伝わってきますよね。
これを無意識にできている人もいれば、意識しなければできない人もいる。つまり、熱意を紙に落とし込むことができるかどうか、それが一番重要ですね。

檜山さん(以下檜山):熱意を紙に落とし込んだ結果が、「尖ったフリーペーパー」につながるんだと思います。

松江:うん。シンプルに、好きなこと、伝えたいこと紙にを落とし込めばいいんです。でも、最近の学生は真面目で根は素直な人が多いのであれこれ考えてしまいがちです。考えれば考えるほど、迷路に入るというか。インターネットを通じて、必要のない雑音すらも簡単にインプットしてしまうという環境がそうさせているのでしょうけど。

檜山:手よりも先に頭が動いてしまうのは、まさにありがちだと思います。

松江:目かもしれないけどね(笑)。今「熱意を伝えるために、何が必要だと思いますか?」と聞くということは、正に無意識に色々考えてしまっているという事だと思います。それよりは、自分がやりたいテーマがあるというのが前提なのですが、あまり考え過ぎないで瞬発的に行うことも大事です。読者のことを考えるのも必要ではあるけど、読者に寄りすぎると面白くなくなってしまう。そのバランスが難しい。

檜山:フリーペーパーはあくまで、自分が言いたいことを言うメディア。そこに「読者がどう思うか」なんて、もはや考えなくて良いんですよね。

松江:そうですね。特に学生の年代は余計なことを考えない方が良いですね。むしろ色々考えていたら失うことの方が大きくなってしまう気がします。

檜山さんは、しっかりしているように見えて、だいぶ狂ってますからね(笑)。
「狂っている」からこそ生まれるものがある。けれどまだ若いので、「狂っている」という感覚を論理的に語る言葉が身についていない。社会に出ると「なぜ狂っていることが良いことなのか」を語れる言葉が身についてくる。だけど今、論理的に語れない「狂っていること」を語ろうとすると、狂気の部分が正気に汚染されてしまう可能性があって、その事の方がよっほど怖いですね。

檜山:考え始めると、その「狂い」が中途半端になってしまう。

松江:そうです。そして若い時は狂った方がいいですね。そういう視点は編集にも同じことが言えます。
 

 
熱量あるフリーペーパーは、「問い」を立てることからはじまる

工藤(SFF記者):フリーペーパーの惹かれるポイントって、やっぱり企画かなと思います。私自身、フリーペーパー『POV』を個人的に制作しているのですが、フリーペーパーを作り始めてから企画の大切さ・大変さを痛感しました。加えて、個人制作だったらまだしも、メンバーが多いと企画を一本にまとめる難しさもりますよね。

檜山:以前関わっていた『C-mail』という媒体は、むしろその逆でした。誰か一人がやりたい企画をプレゼンして、「いいね」ってなった企画をみんなで形にしていく。一人の尖った熱量を、編集員のみんなで伝わるように丸くしていく方式で制作していました。

ひとつの尖った山をみんなで作ろうとするより、ひとりの尖った山をみんなで丸くしていく方が簡単ですよね。

逆に言うと、みんなで一つのものを作ろうとするからよくわからなくなっていく。編集員皆のやりたいことを浅く広くカバーしようとするから、結果的に「結局何が言いたいのか分からない」冊子ができると思うんです。

松江:メディアの中でも紙の雑誌は特に、webメディアと比べてコンテンツに限りがあります。webメディアはリンクを貼ればコンテンツが無限に広がっていきます。だけど雑誌は有限なメディアなので、世界観を完結させる事の優位性が高い。

一概には言えないけれど、元々熱量が強い人が作る冊子は、明確なヴィジョンがある。逆にそうでない場合はヴィジョンが散漫で個々の情報も希薄になってしまう。編集員の人数が多くてもいいんですけど、ちゃんと「こういうのを作るぞ」と先導する編集長がいたほうがいい。むしろ、気に入らない奴はやめていいぞって言うぐらいの意気込みで(笑)。
 

 
松江:おそらく最近の学生フリーペーパーの多くは、まずテーマを決めて、編集を担当するページを決めて、最後に全員のを集めてという手順で作っていると思うんですよ。そしてそこから「面白いね」「いいね」っていう馴れ合いが始まる。この手のやり方で作られるフリーペーパーでは、読者には伝わらないですよね。

檜山:特集名が単語になっている媒体は危ないですよね。

松江:危ないね(笑)。単語はテーマが広いから難易度がめちゃくちゃ上がる。

檜山:特集名『旅』とか、旅の何が言いたいんですか?っていう(笑) 何が言いたいのか文章で言えないって、熱量がない......というか......



雑誌は情報を羅列することではない

松江:フリーペーパーの多くは雑誌っぽい体を成していますが、雑誌は読者の意識を拡張し、新しい「なにか」を見据えていることが必要だと思うんです。一方で最近の学生フリーペーパーは、既に周知されている情報や予測が容易い企画を雑誌っぽく編集するだけというものが多い。読者が既存の情報を見て頷いているだけだったら、発信の場として紙媒体を選ばずにSNSで承認欲求を満たしていれば良いんです。
 

 
松江:雑誌は新しい「なにか」を与えるものでなくてはならない。もし自分が「瞬発的な熱量」を持っていなければ、自分が関わるテーマについて勉強しなくちゃいけない。
でも最近の学生は、文献などを調べるとかしていないんだと思います。要するに、常にアンテナを張って色々なものをインプットする量が圧倒的に足りていない。
さっき単語の話があったけど、自分の今持ってる知識だったり、スマホで3秒で拾える情報だったり、そういうものだけで作ろうとするから浅くなるのであって。自分の意志でフリーペーパーやるって決めたなら、ちゃんと勉強して、掘って、違う視点から見ないと。大学の勉強はもちろんすると思うけど、それ同等の或いはそれ以上の熱量を注がなければ、人の心は動かせない。メディアを作ることって簡単なことじゃないんですよ。

檜山:一つのことを掘り下げた結果「問い」、すなわち言いたいことが生まれると思うんです。でも最近、問いを投げかけているフリーペーパーって少ないですよね。

松江:そうだね。

松江:天才じゃない限り新しい「なにか」ってすぐ出ないと思うんです。だからインプットをたくさんすることが必要で、その過程でオリジナリテイが出てくると思う。

自分が何が好きで嫌いなのか、自分でも分かってない人意外に多いんじゃないんですかね。好き嫌いの成分を分解していったら最終的に「みんながそう言っているから」「SNSでバズってたから」にたどり着いてしまう人。そして周りからの受動的な意見に左右されて自分が作られていることを自覚していない人。赤信号ですね。
本来は、能動的に得た情報を自分の中に取り込む事でその人の好き/嫌いなものが確立させていくと思うんです。

檜山:『大学喫煙所名鑑』(※全国の大学の喫煙所を集めたフリーペーパー。昨年のSFFにも出展。)のことずっと考えていて。私、このフリーペーパー制作者をすごくリスペクトしているんです。というのも彼らは、世の中に価値とされていないものに焦点を当て、フリーペーパーという形に残すことで焦点が当たるようにしている。松江さんがさきほど「雑誌は新しい『なにか』を与えるものでなくてはならない」とおっしゃった通り、これこそフリーペーパーらしい媒体だと思うんです。

松江:あれって、戦略的に作っているのであって、すごく喫煙所が好きだから作ったわけではないんですよ。(そんなような事を言っていた気がします。間違っていたらすいません。)最近の学生フリーペーパーを色々調べた上で、それらを「つまらない」と一刀両断して、じゃあ自分たちは何をするか?という段階的なプロセスがある。きちんとインプットして、自分の中の思考を巡らせた結果なんですよ。だから他の熱量があるフリーペーパーとは少し違う。

檜山:SFFって市場調査じゃないですけれど、大学にこもってフリーペーパーを作っている人が、外に出て世界を知るためのきっかけになると思うんです。

何作ればよいかわからないと思っている人も、SFFを通して皆がどういうものを作っているのか知るのも一つの手ですよね。



後編に続く...

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松江 健介
株式会社Beatface 代表取締役/
フリーペーパー専門店『ONLY FREE PAPER』代表
1982年、東京都生まれ。2010年、フリーペーパー専門店を東京・渋谷にオープン。2012年からは同店代表を務める。
以降、場所を転々としながらもフリーペーパーを通じて発信者のプラットフォームを作り続ける。
2018年9月には中目黒店、及び東京都外初出店となる名古屋店をオープン。
フリーペーパー専門店を営む中で、全国各所のフリーペーパーブースのディレクションやフリーペーパー制作のコンサルティングなども行う。
グッとくるフリーペーパーに出逢えたら一週間くらい機嫌が良い。
最近の趣味はフリペ飯。(フリーペーパーに掲載されている飯を自作する事)
>> Only Freepaper HP


檜山加奈
フリーペーパー専門店『ONLY FREE PAPER』スタッフ
1997年、栃木県生まれ。大学在学中に多数のフリーペーパー製作に携わる。
茨城大学学生広報誌『C-mail』、茨城県フリーペーパー『茨女』、サークルフリーペーパー『Blooming』、有志フリーペーパー『BIG』、自主制作誌『うるさい女はだまれ』、美大生向けAdobe情報誌『Adobe BOOK』等で企画・執筆・編集等を担当。
現在、茨城大学教育学部4年。就職活動ではフリーペーパーへの愛をプレゼンし第一志望企業に内定。現在、ひとりでフリーペーパーをつくる卒業制作に勤しみ中。
グッとくるフリーペーパーを見つけたらTwitterで発信するが、本当にいいと思った媒体しか紹介しないのがポリシー。
檜山加奈Twitter


関連サイト:
Student Freepaper Forum(SFF)



(編集:渡辺 桃加)

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