“NO”も”YES”も、全てを包み込む場所だから。上野から始まるインクルーシブアートプロジェクト「UENOYES バルーンDAYS 2018」の目指す世界

2018年9月28日(金)・29日(土)の2日間、上野恩賜公園を舞台にUENOYES(ウエノイエス) バルーンDAYS 2018が開催された。UE ”NO” ”YES” というネーミングは、”NO”も”YES”もあっていい場所、懐が深く、誰でも受け入れてくれる上野、という意味が込められているそう。その名の通り、多種多様な人々が少しずつ関わり、繋がり合えるパフォーマンスやイベント、ワークショップなどが行われ、気がつけば自分もすっかり作品の一部に…!ここまで”人”が主役のアートプロジェクトも、ちょっと珍しいかもしれない。

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海外からの旅行者や家族連れ、カップル、卒業旅行の中学生の団体など、いろんな人がごった返す噴水前広場。”UENOYES”のロゴが入った色とりどりのバルーンに埋もれながら、まず目につくのは「スタチュー写生大会」だ。
 


  • これらのスタチューはパフォーマーが演じていて、彫刻ではないらしい

 
子どもや美大生、はるばる福祉施設から車椅子で来られた方も、黙々とスタチューを写生している。「日本では珍しい光景というか、広場でみんな一緒にイーゼルを並べるなんて、ヨーロッパみたいな雰囲気ですね」と言うのは、日比野克彦さん。今回のプロジェクトの総合プロデューサーを務める。

思い思いのデッサンがのったイーゼルの群れを抜けると、今度は楽器が鳴る音が聞こえてきた。音のアーティスト・西原尚さんが手がけたパフォーマンス&ワークショップ 「全身の耳になる、全身の目になる」だ。
 


  • 南三陸で流され、役場で回収されたスピーカーも楽器の部品として使われている

  • 何気なく配置されているものにも、一つひとつ意味が込められている

誰でも奏でられるよう、抽象的な音が鳴るようになっているという手押し車も楽器の一つ。今回初めて東京に遊びに来たと言うオーストラリア人家族や、地元上野の子供たちが、自由に、本当に楽しそうにキャッキャと走りながら押していた。

そのすぐ隣からは、トーラスヴィレッジによる美しい歌声が流れてきた。単純な旋律なので、飛び入りで合唱に参加できるプログラムだ。「日本人も、本来こういうことが好きだと思う。ちょっとしたきっかけで参加できる場を作るのが大事だね」と文化庁長官の宮田亮平さん。


  • 佐藤公哉さんによる作曲

  • 単純なメロディのハーモニーがとても心地よく、初めて会った人でも、一緒に歌うと距離がグッと縮まる

 
少し手前にあるかわいらしいテントでは、北澤潤さんがFIVE LEGS Factoryを開いていた。インドネシアの移動式屋台「KAKI LIMA」を上野の風景に加える、という実験的な試みで、来た人に新たなアイディアを募り、みんなで考えて形にしよう、というもの。

そこから今度はずっと森の中に入っていくと、土の上で寝そべっている人たちがいる。新人Hソケリッサ!のパフォーマーたちだ。
 


  • 元路上生活者 / 路上生活者だけで構成されているメンバー。2ヶ月半にわたる公開稽古を経て、誰でも参加できるワークショップやパフォーマンスを行った

 
寝そべっているのは疲れて休んでいる‥‥のではなく、「力を抜いて、いまこの瞬間に意識を向けているんです」と、主催のアオキ裕キさん。なんでも、リラックスしてから体を動かすことで、自分だけの動きを生み出せるそうだ。

そして最後、噴水を抜けた広場の突き当たりにあるのは、ホセ・マリア・シシリアさんによる星屑屋台と、小山田徹さんによるきき耳ラジオのブース。
 


  • 2011年の震災以降、自身で何度も被災地を訪れ、東北の方々と過ごす時間の積み重ねの中で作品を作ってきた、ホセ・マリア・シシリアさん

 
星屑屋台は、震災と関わりのある食べ物を、食べる本人たちには告げず食べてもらい、生きる力を持って震災を乗り越えよう、というプロジェクト。東北に残った家族や、東京に避難した家族、いろんな人の家に行って話をしながら食を提供する様子が展示されていた。

「この地上にあるものは全て死にゆくものであり、私たちは不在や喪失というものとともに在ります。でも全て失われたものを怖がらず、愛していくことです」と、語るホセさん。制作するということ以上に、活動を通していろんな体験を乗り越えていく、新たな生き方を見つけていくという意味があるそう。
 


  • いろんな人をゲストに迎え、語る「きき耳ラジオ」。28日は上野消防署の地域担当防災課長をゲストに迎え、防災について話をした

 
また、きき耳ラジオの小山田さんはこれまで、共有空間を作る活動を行ってきた。「公園はいざという時に避難するパブリックな場所。回りながら災害時のサバイバルについて考えたい」と話していた。

日比野さんも同調して、「上野のように “全てを受け入れ誰も排除しない” という雰囲気が、いざという時に命を救う鍵になると思う。ライフラインよりも大事なのが、人と人との繋がり。人と繋がってさえいれば、災害時も生き延びられます」とコメント。なんだか改めて、ここ上野で開催する意味が、頭の中で繋がったような気がした。
 


  • 総合プロデューサーの日比野克彦さん(左)と、ディレクターでArt Center Ongoing代表の小川希さん(右)。この先の計画について語るふたり

 
「作品が置いてあってただそれを見る」という一般的な展示からはかけ離れていたUENOYES バルーンDAYS。バルーンを使ったのは、形あるものが空間を占めるのではなく、人が集まってくることで空気感が見える、そのあるような、ないような感じを表すためだそうだ。

「この自由な雰囲気は上野ならではだし、ここが最も見えやすい。でも実は、上野じゃなくても、そして特別な能力、特別な施設がなくても、どこでも実現できること。それを伝えるためにも、まずは上野から、しっかりと発信して伝えていきたいと思います」と日比野さん。

UENOYESは、この先も不定期で開催する予定。将来的には、動物園や商店街、谷根千など台東区エリア全体へ広げていくことも考えているそう。まずは上野から、多種多様な人々の存在が作品そのものになる、という感覚をぜひ体験してみてほしい。


▼関連イベント
谷中の回遊イベント
地元回遊プログラム
(実施予定:11月 / 場所:谷中界隈の民家等)
地域の回遊性を高め、地域文化を未来に継承することを目指し、アーティストとまちづくり団体や上野地域で活動しているアートNPO等が連携し、作品展示や街全体を使ったイベントを開催します。
 
旧博物館動物園駅の公開

歴史的文化資源活用プログラム
(実施時期:秋頃/場所:京成電鉄・旧博物館動物園駅)

京成電鉄株式会社と東京藝術大学の協働により、「旧博物館動物園駅」駅舎の一部を公開し、歴史的建築物の魅力を伝える展示や、日比野さんがデザインした駅舎出入口扉のお披露目等を行います。
「旧博物館動物園駅」駅舎は、今年の4月19日、特に景観上重要な歴史的価値をもつ「東京都選定歴史的建造物」に選定された建造物です。 


詳しくは、http://ueno-bunka.jp
をチェック!



文・井上結貴 編集・上野なつみ

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