単刀直入に言います。
旅するムサビプロジェクト、略して旅ムサが、10年以上続く実績を高く評価していただき、なんとグッドデザイン賞を受賞したんです!(涙)
■美術普及・振興プログラム [旅するムサビプロジェクト] | 受賞対象一覧 | Good Design Award
実は今年の4月、寝てる時に「あ。旅ムサってグッドデザインじゃね?」と突然閃き、翌日の社会連携チームミーティングで「チャレンジしてみない?」とスタッフにもちかけたのが事の始まり(笑)
ここで多くの方・・・というかほぼ100%の方が瞬間的に「なんで旅ムサがデザインなの?」と感じることでしょう。
私が「旅ムサをグッドデザインに申請したい」と思った理由は大きく3つあります。
てなわけで、グッドデザイン賞のテキストは文字数制限があったので、語れなかった部分を補足しながら書いていきます。
まず、旅ムサについておさらいを。
2008年、中学美術教諭をされている本学OBの未至磨先生から「生徒に本物の美術作品を見せたい」という相談が教職・三澤先生にあり、学生の作品を中学校に持ち込んで鑑賞授業を行ったことからスタート。
のちに「旅するムサビプロジェクト」と命名され、教職課程受講生を中心に自主的な活動として様々な展開をするようになりました。
学生が制作した作品を学校に持ち込み、作品を前に子どもたちと対話しながら鑑賞する「対話型鑑賞」、小学校や中学校を美術館に変えてしまう「ムサビる!」、中学校などの空き教室をアトリエとして借り、学生が居候しながら制作を行う「公開制作」、子供たちと一緒に創作活動を行う「ワークショップ」、そして、
メディアで何度も取り上げていただいてる「黒板ジャック」。
もともとは「今日から旅ムサやりまっせ!」と告知するために学生さんが黒板に描いたのが始まりなんですが、わかりやすくもあるので、良くも悪くもここだけメディアに注目されてしまい。
ムサビ内でも知らない人が多いけど、「旅するムサビの一環が黒板ジャック」という関係なのです。
ちなみに東京23区のうち新宿区ともう一区(文京区だっけかな)が小学校の全面ホワイドボード化を決定してるので、将来的には「ホワイトボードジャック」に変わるかもしれません。ま、DVD売っててもいまだに「CD屋さん」と言ったりするから黒板ジャックと言い続けるのもいいし、そもそも「緑板」だけど「黒板」と言ってるわけで。脱線。
最近だと学生が1週間から2週間程度地域に滞在しながらその地の小学校などの施設を借りて作品制作を行う「旅ムサスティ」という活動もやっていて、2017年夏だけで北海道訓子府町と中札内村、鳥取県大山町、長崎県大村市、鹿児島県奄美大島、の5地域、北は北海道、南は奄美大島で実施しました。
これが2016年までに旅ムサを実施した県の色塗りマップ。
地元の大学生と黒板ジャックや対話型鑑賞、ワークショップを一緒にやったりしてるんで、全県でやったつもりでいたけど、まだまだ半分ぐらいなんだなあ・・ご依頼お待ちしております(笑)
あ、今は日本を飛び出して台湾でも旅ムサをやってたりもします。
去年から旅ムサを始め社会連携(産官学連携は除く)は、依頼があると社会連携チームが窓口となり、事前に登録してもらってる学生さんから希望者を募る方式を取っています。三澤先生が自主的にやってたことを去年から旅ムサ以外のものも含めて社会連携チームが受け持つようにシステム・組織化させたのです。私たちは「MCB(マウクリエイターズバンク)」と呼んでます。
MCBにはなんと200名近い登録学生がいるんですよ。約4000人の大学で200名の登録者ってすごくありません?(まだまだ希望者募集してますよ>ムサビ生)
これらの活動については、最初のステップこそ社会連携チームや三澤先生が段取りしますが(といっても条件詳細を聞き出したり広げたり、本当に実施可能か現場確認するぐらい)、その後の先方とのやり取りや現場での取り回しは完全に学生に任せています。
教職員が付き添いでいくこともほとんどなく、この仕組みに驚かれる方も多いです。
教職履修者を中心にスタートしたのも関係してますが、現地で教職員がべったり付き添ってすべて段取りして、最後に『はい学生さんどうぞ!」ってやっても学生さんの学びは少ないですよね。「先方との交渉から学びが始まってる」というやり方なのです。大学なので。
ただ、これは登録制によってモチベーションの高い学生さんだけで構成されてるからやれる方法かもしれません。
というのも、単位も出なければ謝礼もほぼ出ないんです。交通費も基本的には自腹。これもなかなか信じてもらえないんですが、奄美大島や台湾の旅費も学生さん持ちです。
活動に対して単位を出すのも一つの方法なんですが、それだとモチベーションの低い学生さんも交じってしまい、トラブル発生する可能性もあるんですよ。単位化することは決していいことばかりではなく。
やる気のある学生さんがそろってないと成立しないプロジェクトであり、それに200名近い登録者がいることが奇跡というか、私はムサビの最大の誇りだと感じてます。
審査委員の評価でも、
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小中学校の美術教育時間が減少するなか、身近に美術を感じてもらうための活動。「黒板ジャック」は一時期のメディアを賑わせた。学生にとっては遠方への交通費など、経済的負担が大きいのに、世代を引き継ぎ、10年以上も続いている点を何より評価したい。率いた先生方の努力にはもちろんだが、過去に参加したすべての学生とこれから参加する学生に賞を捧げたい。
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この点を評価していただいていて、涙が出そうになりました。
「一時期のメディアを賑わせた」と過去形なのが少し気になってるけど。現在進行形ですっ!
10年かけて依頼者側から交通費を出していただけることが増えていて、ようやくいいサイクルが回りだし、より発展・持続可能なシステムが今年あたりから動き出しました。
交通費が出るご依頼お待ちしております(笑)
旅ムサ全体をまとめるとこういう図になり、最近注目を浴びてるのが「朝鑑賞」。
小中学校で「朝読書」「朝テスト」をやった経験はありませんか?
それの美術版をイメージしてもらうとわかりやすく、10分間の朝活動の際に中学校の先生がファシリテーターとなってムサビ生の作品を鑑賞するのが朝鑑賞です。
既に複数の学校でやってて、所沢市立三ケ島中学校の校長先生がこういう発表をされてます。
■第28回勉強会まとめ | ことづくり生活を見つめて
「目に見える成果としては、学力が向上したり(特に国語の表現力)、美術部の生徒が増えたりしています」なんだそうで、ここまではっきりとおっしゃっていて私たちもびっくり。
二つのポイントがあって、一つは生徒の「『答えがない』ものからの主体的・対話的な深い学び」であること。
これは文科省が言ってる「アクティブラーニング」そのものであり、私達からすれば「ようやく文科省も気づいたのね。美大は昔からそうなんだけど」なんですが。
そして、もう一つが先生が生徒の意見を引き出す発問を工夫するなどファシリテーターとしての力を身につけるきっかけになってること。
そう、旅ムサビの朝鑑賞は単なる「情操教育」「美術教育の一環」ではなく、「美術による教育のリ・デザイン」になっているのです。
というわけで、これらのことから「旅ムサって単なるアート活動じゃなく、立派なプロジェクトデザイン・ソーシャルデザイン・エデュケーションデザインで、これってグッドなデザインじゃね?」と思い、グッドデザインに申請した、と。
これが一つ目の理由。
二つ目は・・・・長くなったので明日書きます(笑)
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。