一流のエッセンスが詰まった、あっという間の90分
「EAT creative program」第2回授業「音楽と映像とテクノロジーの未来―クリエイターに求められるシゴトのつくりかたー」。授業が始まる前から、会場には熱気があふれていました。真鍋さんが登壇すると、自然と拍手が沸き起こります。真鍋さんからの「僕のことを知っている人?」という質問にほとんどの受講者が勢いよく挙手したのは、クリエイターを目指す人が集まったデジタルハリウッドだからこそ。授業への期待度が高まります。
日本のメディアアートシーンを牽引する真鍋さん。まずは、ご自身のお仕事を振り返り、写真や動画を見せつつ近年の活動を紹介していただきました。
東京芸大の講師を勤めながら、フリーランスとして働いていた、2006年に会社を設立した真鍋さん。その動機は、「フリーランスとして働いているとどうしても請負ばかりになってしまうので、会社にして自分たちの得意とする分野を新しいジャンルとして確立したかった。」からだったといいます。Web業界が盛り上がりを見せていた当時、Rhizomatiksは今より小規模ながらも、インタラクティブなメディアアート作品づくりに奔走していました。
Rhizomatiks Researchが一流のメディアアート集団であり続ける理由とは?
では、Rhizomatiksの中でもR&D/アートを手がける部門「Rhizomatiks Research」が作品づくりで実践しているのは、具体的にどんな試みなのでしょう。授業中に真鍋さんが挙げた3つのキーワードをご紹介します。
1.Body
Rhizomatiks Researchと言われてまず思い浮かぶのが、Perfumeのパフォーマンスだという人は少なくないでしょう。初期から現在まで、ダンス作品はRhizomatiks Researchの重要な仕事のひとつです。その大きな理由として、真鍋さんは自らの作品づくりのルーツが音楽にあることを挙げました。筋肉や影の変化を電気信号に変えたり、人間の動きをデジタル化してトラッキングしたりする技術は、ダンス作品を演出するうえで最重要。ダンサーやコレオグラファー(※振付け師)と話し合いを重ね、身体と密接なつながりを持つ最新技術を生み出しています。
2.Camera technology
Rhizomatiks Researchというチームの強みは、マルチなクリエイティブ集団でありながら、最先端の技術を使いこなすカメラチームが存在していることです。例えば、2014年の紅白歌合戦でPerfumeのパフォーマンスに使用されたドローンの技術は、3年以上にわたり何度も試行錯誤を繰り返した結果、実現したものだといいます。驚いたのが、それぞれの技術は常に次の作品への応用を想定して開発されているということ。複数の作品に同じ技術を応用することで、より洗練された表現が可能になります。
3.Visualization
企業や海外のクリエイターと作品づくりをする上で最も重要なのがビジュアライゼーションです。お話の中で例に挙がった作品のひとつが、『Sound of Honda/Ayrton Senna 1989』(2014)。伝説のF1レーサーであるアイルトン・セナのドライビングの記録をデジタル化し、実際にセナが走ったコースを再現した映像です。アナログとデジタルの境目を飛び越え、今まで見えなかったものが可視化された作品に、会場は大いに沸きました。
授業内では、このほかにもリオデジャネイロ2016大会の閉会式で行われたフラッグハンドオーバーセレモニー、世界最大級のテクノロジー博覧会「CeBIT」でのパフォーマンス映像など、話題の演出についてのお話もたっぷりと伺うことができました。授業の終盤にはデジタルハリウッドの杉山知之学長を迎えた対談も。ここでしか聞けない話が満載で、あっという間の90分でした。
美大生の私にとって、印象的だったトピック3選
まず実感したのは、クリエイティブのおもしろさ。真鍋さんは、「単なる技術のデモならストーリーがいらないが、作品に昇華させるためにはコンセプトが必要」だといいます。
例えば、ダンス作品を手がける場合を見てみましょう。ショーで使用したい新しい技術があるときには、必ずコレオグラファーやダンサーをスタジオに呼び、実験現場を見せるそうです。何がどこまでできるのかを分かってもらったうえで、振付やストーリーづくりはクリエイターにお任せ。クリエイターに実際のテクノロジーを見てもらうことで、より柔軟なアイデアで作品づくりを行うことができるのです。
「CeBIT」のオープニング。作品のストーリーづくりにはクリエイターの力が欠かせない。
出典:http://www.daito.ws/work/cebit-2017-opening-ceremony.html
次に、ズバリお金の話。アートじゃ食っていけない、なんていう言葉にモヤモヤしたことがある美大生は多いはず…。これ、実はすごくシビアな問題です。ものづくりの仕事に魅力があるのは確かですが、日本ではクリエイターの地位が高くはないのが実際のところかもしれません。
Rhizomatiks Researchは、一般に公開されるライブパフォーマンスだけではなく、企業との研究開発プロジェクトにも多数参加しています。タイトなスケジュールで進行する企業からの依頼案件と、時間をかけて多様な表現を模索する自主案件とを両立しています。
また、アメリカのオーディション番組に参加したことで一気に知名度が上がり、世界中からオファーが来るようになったといいます。エンターテイメント作品のプロモーションとして、大成功した例だといえるでしょう。
作品の内容にこだわるのはもちろんのこと、作品そのものを「どう見せるか」、「どこに見せるか」を考えることで、「仕事としてのアート」が理想的な形で実践されていることを感じました。杉山学長との対談の中で、真鍋さんが「最近は健全なお金の回り方になってきました」と答えていたのが印象的。リアルなお金の話を聞くことができるのも、第一線で活躍しているクリエイターの授業ならではですね。
最後に、この授業全体を通して常に感じられたワクワク感。今回の授業には、未来に向けて新しいものを作っていくことの楽しさが散りばめられていました。杉山学長からの「未来にはどんなことをやっていきたい?」という質問に「音楽の仕事をもっとやっていきたい」と語る真鍋さん。ライブシーンを重視した活動を続けていきたいといいます。
また、ゲームの仕事もやってみたい、と意欲を見せていました。1つの作品を作って終わりではなく、次にどんなものが作りたいかを考えて常に前進していく。おもしろいことをどんどん拡大していくワクワクこそが、Rhizomatiks Researchが走り続ける原動力であるように感じました。
今後クリエイティブ業界をめざす人たちに、真鍋さんはこのようなメッセージを送ります。
「僕らの時代に比べて、なんでもできるので逆に大変だと思います。いろいろなことが簡単にできるぶん、どうしても作りたいものがないと厳しいかもしれません。ただ、仕事には夢があります。BjörkやPerfumeなど、好きなクリエイターと一緒に仕事ができるのは大きな喜びです。」
鑑賞者を驚かせるような新しい作品を生み出し、世界を牽引する存在である真鍋さん。しかし、その口調には「ものづくりを楽しむ」ワクワク感があふれ、とてもフラットな姿勢であるように感じました。この軽やかさこそが、次世代のクリエイターに必要な感性なのかもしれません。
「EAT creative program」は、デジタルハリウッドの杉山学長、ジャーナリストの津田大介さん、メディアアーティストの落合陽一さん、脳科学者の茂木健一郎さん、現代美術家のスプツニ子!さんなどの一流クリエイターの授業が目白押しです。(※現在は一般の聴講生の受付は終了)、その他にも通年での1人1人のクリエイティブの可能性を伸ばすサポートをする様々なコースがあるので、デジタルで繋がる新しい世界を見たいひとは、デジタルハリウッドをチェックしてみては?
▼デジタルハリウッド東京本校(でじたるはりうっどとうきょうほんこう)
日本唯一の、大学・大学院を併設した社会人・大学生向けプロ養成クリエイティブスクールです。開学以来フラッグシップコースとして開講をしている『本科』はCG、デザイン、テクノロジーを活用できる真のクリエイターを育成し、クリエイティブ業界のビジネス発展に寄与することを目的としたコースです。専門技術の習得だけに終わらず、現場での即戦力になりうる「実務能力」「作品力」の向上を目指します。
デジタルハリウッド東京本校(御茶ノ水)web/デザイン/CG専門スクール(学校) | 東京本校 | デジタルハリウッド|Web/デザイン/3DCGの専門スクール
執筆:齋木優城(東京藝術大学芸術学科美学専攻修士課程2年次在籍)
PARTNERでは、美大生や卒業生のゲストが書いてくださった記事も掲載いたします!定期的にアカウントを持って記事を書くのは難しいけれど‥‥、そんなときは編集部にご相談ください。