世界一注目される5年に一度の現代美術展「ドクメンタ」はここが凄い

世界で一番注目されている現代美術展と言っても過言ではない、5年に一度開催されるドクメンタ。ドイツのほぼ真ん中に位置するカッセル市で行われますが、今回はカッセルだけでなくアテネとの2都市で開催。4月、2ヶ月先行という形でギリシャのアテネから始まりました。正直、興味はあるけど実際のところよく分からない、ドクメンタって何が凄いの?と思っている方も多いのでは?そんなドクメンタについてご紹介します。

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ドクメンタとは?

そもそもドクメンタは、ナチス政権によって退廃芸術とされたモダンアートの回復、または芸術を破壊した国というドイツの負のイメージを払拭する目的も兼ねて1955年に始まりました。1975年のドクメンタ5以降、毎回チーフキュレーターが選ばれ、テーマや作家選考を一任する方針になってから、キュレーターはその時の世界情勢や時代背景を考慮し、確固とした一つのテーマを掲げるので、単なるアートの祭典というよりは、アートを通して世界に何を訴えられるかという要素が強く出てくるようになりました。今年14回目を迎えるドクメンタは、特にその傾向が顕著に出ていると言えるかもしれません。



今回のテーマは「アテネから学ぶ」

今回のチーフキュレーター、Adam Szymczyk(アダム・ジムジック)が提案するテーマは「アテネから学ぶ」。前回も他4都市で同時開催されましたが、やはりメインはドイツのカッセル市でした。しかし今回は、アートの祭典として絶対的な地位を築いたカッセル以外の場所に、同等の価値を見いだす展覧会を開くことで視点の変化をもたらすのが目的。150人以上の参加作家は両都市で作品発表をすることになっており、同じ作品を2箇所で見せても良し、新・旧作品を分けて見せても良し、どう見せるかは作家自身がすべて決められるとのこと。例えば、カメルーン出身のBili Bidjocka(ビリ・ビジョカ)は、巨大チェスを両都市に設置し、期間中は観客がその場でインターネットを介し、次の一手を提案することができるようになっているそうです。
 


 
ドクメンタって何がすごいのか?

ドクメンタの何がすごいのか?一言でいえば、歴史と影響力です。 戦後の負のイメージ、すべてを失った中から、自分たちで文化を立て直そう、作り直そうという意図で始まったドクメンタ。ドイツ人によって考えられた、ドイツでの美術展ですから、参加作家もキュレーターも国際色豊かとはいえ、ドクメンタの在り方そのものはかなり真面目で深いです。 回を増すごとに来場者数が増え、経済的にも内容的にもかなり重要な、しかも両方のバランスを保った、世界でも稀にみる国際文化イベントの一つといえますが、ドクメンタがアート界で絶対的地位を担っているのは、経済効果よりも、やはりアートに関わっている人すべてが5年に一度、ドクメンタという祭典を通してアート界の動向をチェックし、真剣に現代アートについて考える機会を持つ場だからといえます。そしてドクメンタを機に世界の大きな美術館で展示する作家がたくさん出てきます。このように新しい作家を発掘する場でもあり、現代アートの世界で一つのバロメーターになっていることは間違いありません。

しかし今回は、アテネ開催まで参加作家が発表されませんでした。まさにそんなドクメンタ出展作家という、私たちが勝手に持っている基準を外したり、訪れる前にアーティストをチェックし、名前で優先順位を決めるような観覧を避けさせるのもアダム・ジムジックのコンセプトの一つです。
先月始まったアテネでは、パフォーマンスはもちろん、芝居、ラジオ放送、コンサート、食事を配るなど、観客参加型スタイルが多く、”アテネの街全体が社会という彫刻”になっているとのこと。ネットを通して何となく疑似体験できてしまうご時世に、始まるまで必要以上の情報を流さない、そして観客参加型の展示も、ネット社会に対する新しい美術展の提示、可能性なのかもしれません。



美的要素は少なく、政治的。

今年はドクメンタだけでなく、10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクトもドイツ国内で開催されます。こちらも世界的に知名度があり、確固としたコンセプトとポリシーを持って開催されていますが、そのチーフキュレーターであるKasper König(カスパー・クーニッヒ)が、今回のアテネ・ドクメンタの印象を「美的要素は少なく政治的」と表しました。




すでに開催中のアテネのドクメンタハイライト映像 / Documenta 14 Athens Highlights
 
前回のドクメンタからこの5年間、特にヨーロッパでは、金融、経済危機、シリア内戦、難民問題、ヨーロッパ各都市でのテロ事件など、ただごとならぬ状況が絶え間なく起こり、今も安定しない状態、目に見えぬ不安が続いています。そんな中、アーティストは何を言及するのか、もしくはアート自体が持つ力とは何なのか?作家は個人個人、作品を通して表現するテーマは違いますが、世界的に影響力も注目度もある展覧会のキュレーターは、そんな状況を無視することはできないでしょう。彼の言葉に”実時間を知る”というものがありましたが、これが彼の最も伝えたいモットーだと思います。



初めて行くなら何をどう見るべき?

まず一度、テーマやドクメンタの背景・主旨などは横に置いておきましょう。ドクメンタは、メイン会場以外にも市内のあらゆる場所に作品が展示され、開催期間は街全体がアートの祭典で一色になります。たいていは歴史ある建物が会場になっているので建物を見るだけでも楽しいし、屋外に展示されている作品は街中に溶け込んでいるので、展示マップを片手にそれらを探すのも面白いです。例えば、屋外の作品を見た時は、自分の住んでいる街の似た様な環境にこの作品が展示されてたら……と、置き換えてみると一番臨場感が出るし、いかに街全体で美術展をサポートしているか、規模の大きさが実感できると思います。
 


  • ドクメンタ14・カッセル会場の準備中の様子

 
今回のドクメンタは、政治色が強いとも言われていますが、私たちがどんな時代に生きているのか?そんな問いを投げかけ、考える機会をもたらす展覧会であることは間違いないようです。とはいえ、ドクメンタはやはり美術展です。何よりも”作家ありき”のものです。約160人のアーティストが参加するので、必ず気になる作家・作品は出てくるはずですし、私も多くの作家をドクメンタで知りました。そして良い作品に出会えれば、それは一生覚えていることでしょう。そういう出会いが皆さんにも私にもあることを期待しています!



ドイツ・カッセルも6月10日〜
 


  • カッセル会場、搬入の様子

  • カッセル会場、作品設営の様子

 
先行するアテネ追うかたちで、いよいよ6月10日より、ドイツ・カッセルでもドクメンタ14がスタートします。いち早く会場を訪れてみると、作品が搬入され、設置・準備に追われている様子でした。先に紹介した10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクトや、2年に一度のヴェネツィア・ビエンナーレなど、今年は国際芸術祭のゴールデンイヤー。夏休みの時期に開催されているので、この夏、ヨーロッパの現代美術の旅をしてみてはいかがでしょうか?



▽開催情報
ドクメンタ14
ギリシャ・アテネ:2017年4月8日~7月16日
ドイツ・カッセル:2017年6月10日~9月17日

>> ドクメンタオフィシャルサイト
>> ドクメンタ14オフィシャルサイト



(執筆:金原明音)

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