雑誌「WIRED」日本版創刊時のアートディレクターをつとめ、多摩美術大学の教授としてもPARTNER読者と馴染みの深い佐藤直樹氏が、絵を描いている。しかもその制作プロセスは下絵もなく日々目に飛び込んでくる植物などをひたすら巨大な板に描きつけていくというもので、欲望と衝動のままに白黒の木炭画を増殖させていくという行為は、綿密な計画と作戦の上にデザインしていくアートディレクターの仕事とは想像しがたいものだ。その何かに憑かれたかのような制作の様子は、現在展開されているクラウドファンディングのプロジェクトページで「絵を描き始めとまらなくなっています。」と異様な言葉で伝えられている。
佐藤氏の作品がどのくらいの振り幅で変化したのか。まずはアートディレクターとしての作品を見てみよう。
翻ってこれが、現在佐藤氏が描き続けているという作品。
実際にその絵を見てみると、しっかりとした線の中に細密な描写がぎっしりと敷き詰められ、これはもう描かずにはおれなかったのだという気迫を感じずにはいられない。思わず後ずさりしてしまうような密度で迫ってくるような絵は、描き続けられ、現在も増殖しているというからたまらない。
具体的な作品の大きさはというと天地1.8メートル左右0.9メートル、人ひとりより大きいサイズの板を横へ横へとつなぎながら描いている。描かれる植物は手におさまるような草花なども織り交ぜられていて、それらが大きくなって自分を見下ろしてくると自分が小さくなってしまったかのような恐怖さえ感じそうだ。
正直、筆者にはアートディレクターは絵を描くことなんてないと思っていた。さらに言えば、絵一本でやっていく決心をするとは想像もつかなかった。その謎の答えがこの個展には用意されているのだろう。
クラウドファンディングの目的である展覧会は。2017年4月30日からアーツ千代田3331のメインギャラリーにて行われる。佐藤氏の真意を知るには、ここで支援をしてみるのひとつかもしれない。
クラウドファンディング恒例の支援のお返しにはアートディレクターとしての手腕も光るラインナップ。さらに20万円で原画を購入することもできるという。
プロジェクトが掲載されているのは3月24日まで。
「アートディレクターが絵を描くなんて」。
私のように驚いた方はぜひクラウドファンディングのプロジェクトページへ。
(執筆/出川 光)
現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。