仕事になる絵よりも、私がただ描きたい絵をー相撲画家・加藤タオ

休日のたびに相撲部屋を巡り、相撲雑誌を読んでは生き生きとした力士をアクリルで鮮やかに描く、アーティスト加藤タオ。ひとり独学でコンペに出し続けたこと、服部一成賞の受賞、そして運命のモチーフお相撲に出会い、自分にとっての絵が何なのかにたどり着くまでのストーリー。

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描き続けるために、褒められたくてコンペに出した。

はじめ、イラストレーターって職業を知らなかったんですよね。それまで雑誌に載ってる絵は編集の人が頑張って描いてるものなんだと思ってました(笑)

19歳のとき横浜の本屋で見た「みづゑ」っていうイラスト専門雑誌に衝撃を受けました。高橋真琴さんのキラキラした女の子が表紙で大きく「イラストレーターになる!」っていう文字が目に入り、「おお」と思ってページを開くと100%ORANGEさんの絵が載っていて。その時の私には「かわいい、自分にもかけそう」って思っちゃって。

でも、美大にいってるわけでもなかったし、イラストレーターのなり方がわからなかったから、特に周りに見せるわけでもなくひたすら描いてました。「自分は美大にいってないし、デッサン力がないから」っていう気持ちが強かった。

大学の時に絵の教室に行ったりもしたけど、まずは独り立ちしようと思って就職しました。仕事をしていると、絵なんか描かなくても誰も何も言ってこない。誰かに褒めてもらったり悔しい思いをしないとこのまま描かなくなっちゃうと思ったんです。「描き続けなきゃ」っていう気持ちでひたすらコンペに出し始めました。

コンペで賞をとってやっと「自分もイラストレーターを目指していいんだ」って

たくさん出したコンペのなかで、ペーターズギャラリー主催のコンペでデザイナーの服部一成さんから賞をもらいました。本当にびっくり。その時初めて、自分がイラストレーターを目指してもいいレベルなんだって思えました。それまで誰にも評価されたことがなかったから。

でもそのコンペでいただいた言葉は「僕が選んだのはたまたまこの一枚が良かったからかもしれない、この先どういう方向でいけるかはもっとたくさん描かないとわからないね」でした。

「25歳までにはイラストを描き始めて、30歳なかばまでにはいい感じの絵を描いていよう」っていう漠然とした将来設計は昔からしていました。その時の私は24歳。始めるなら今だ!と思ってイラストレーション青山塾を受講しました。

そこで初めて憧れのイラストレーターやデザイナーの人に作品を講評してもらえたんですが、その時はまだ、自分と、自分の作品のことをわかっていなかったんですよね・・・。



自分の絵をどんな風に使われたいんだっけ…?

受講生のなかには実際に仕事している人もいて、まわりは即戦力のあるイラストレーターを目指す人ばかり。仕事になりやすい絵を目指す人が多かったから、当時私が楽しく描いてた女の子の絵はなんか浮いてました。その時は真剣にみんなの中に入り込もうとしたんだけど、理由がわからなくてずっと悩んでました。
例えば講評で絵を見せるとデザイナーさんに「どういうふうに使われたいの」って聞かれて、口ごもってしまう。「雑誌とか…」ってようやく答えると「ちょっと使いづらいなぁ」って言われたりして。恥ずかしいなぁ。ほんとに見えてなかったですね。

「相撲」というワードにピンときた


青山塾も卒業してしばらくした時、あるデザイナーさんに何気なく描いたお相撲さんの絵を褒めてもらって。他の絵は全然ダメだったんですけど。その時、「ああ、お相撲か!」ってピーンときました。普段愛用しているターナーのアクリルガッシュのオペラレッドっていう蛍光ピンク色に白を混ぜたら、お相撲さんの肌にぴったりだなあってどんどんイメージが膨らみました。当時は女の子をモチーフにした絵で個展をやっていたんですけど、もうはやくお相撲さんを描きたくてうずうずして。
その日から狂ったように私のお相撲ライフが始まったわけです。

ただ描いていきたいっていう気持ちがようやくわかった



それから資料集めに本場所や巡業を見に行っては夢中で写真を撮って、相撲に関する本や動画を見たりしてるうちにどんどん相撲に魅せられていきました。

とにかく土俵の上で行われる所作を全部、描きたい、描きたい、描きたい。

その時ようやくわかったのが、「仕事とかもうそんなの関係なくただ描きたいんだ」っていう自分の絵に対する気持ち。



このまま相撲ばっかり描いてどうするんだろうっていうのはありますよ。憧れてたオシャレ系イラストレーターにはなれなくなっちゃったから。でもまだ描きたいモチーフがありすぎて。まだ描けちゃう(笑)。お相撲さんのイメージを変えたいっていうのもあります。相撲ってもっとかっこいいし、面白いんだぞって。

これからも記者やカメラマンにはできない、絵描きだからこそできる自由な発想で面白さを伝えていきたいですね。たまにちょっとシュールでふざけてみたり。「お相撲とかよくわかんなけどウケる。かわいい〜」「これってよくあるシーンだよね。クスクス」なんて若い世代から高齢の方まで幅広く受け入れてもらえたら嬉しい。これからどうやって相撲というモチーフと作品を広げていけるのか、試行錯誤しながら描いていきたいです。

(写真・執筆 / 出川 光)

◆プロフィール
相撲画家|加藤タオ

神奈川県出身、在住。2011年ペーターズギャラリーコンペ 服部一成賞受賞。2012年第14期イラストレーション青山塾修了。個展・グループ展、デザインフェスタ等のイベントに多数参加。

▼現在個展を開催中!!
2017年1月13日(金)より両国にあるKNOT GALLERYにて個展「BEEF OR RIKISHI?」を開催中。

場所:東京都墨田区両国3-16-11
会期:2017年1月13日(金)〜2017年1月22日(日)12時〜19時
※火曜・水曜定休
公式サイト: http://knot-gallery.com/

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OTONA WRITER

出川 光 / Degawa Koh

現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。