ペンの色ってもうそれだけで綺麗だと思っていて。ほら、こうして白いスケッチブックにペン先でちょん、と色の点をのせると綺麗な色で、ペンって贅沢な買い物だなぁとよく思います。またもう一つ、点を描くと空間があっという間に変わりますよね?そのことが面白くて絵を描かせる理由の一つなんです。
—ペン先から出てくるそのままの色を幾重にも連ねて街の風景や宇宙、心の機微までを描き出すAokidのドローイング。コンペ「1WALL」でグランプリを獲得し開催された展示タイトル「ぼくは”偶然のダンス“の上映される街に住んでいる」にも登場するように、彼の表現の始まりは、ダンスだ。そのきっかけは、青春まっただなかの中学校時代に遡る。
中学の時に影響を受けたものはたくさんあったのですが、炭酸飲料のCMを見て「教室の隅でダンスをしている人がいる光景っていいな」と思ったのがきっかけでダンスを始めたんです。
近くの駅で踊っている上手いダンスチームに混ぜてもらったりして、高校時代はどんどんブレイクダンスにのめり込んでいきました。一方世間では「ウォーターボーイズ」が流行っていて、高校三年生の時に各クラスにチラシを貼って行って、みんなを誘ってウォーターボーイズを作り文化祭で行いました。
その時の、窓からプールを見ている人がいるとか、教室を走り回って文化祭の準備をしているあの雰囲気…学校がどんどん活動的になっていくのがすごく楽しかった。なにも抑えきれなくて「わぁー」って言いながら廊下を走ってしまうような、みんなが感情のままに飛び出てくるドラマチックな映画のような状況が好きで、映画学科がある美大を目指しました。
美大では色んなものに触れその中でコンテポラリーダンスに興味を持ちました。ストリートダンスではなかったことにされているディティールや生身のリアリティなどがあって。また一方でロックバンドの銀杏BOYZのライブに、弱い日本人の身体をマッチョに見せず、そのままさらけ出す動きにリアリティを感じたりしていました。
世の中ではなかったことにされがちな、弱さや、緊張する気持ちや、はみ出しちゃう気持ち。そういう感情のままに飛び出す動きの説得力をダンスをもって表現し信じてやっていきたい、そのことを世の中にもっと見せていくんだって思っています。
—有り余った気持ちが沸点をこえてはみ出してしまうような高揚感と、それを体現する身体。そんなエネルギーに満ちた映画のような世界を望みながら踊るダンサーとしてのAokid。一方で、絵には自分の意識をたどるような内側に向かう気持ちが託されているようだ。
絵は自分の小さいころの記憶や、見た世界を確認しようと何度も辿ろうとする作業でもあって。「エルマーのぼうけん」や、「銀河鉄道の夜」のような小さい頃や思春期の大事な記憶やファンタジーの世界と行き来しつつ、それを自分のものとして改めて描きながら、一方で現実的な絵画や素材の問題とかも巻き込みながら描いています。
大学の友人の、たかくらくんがいつも授業中にスケッチブックに絵を描いてるのを見て描こうとぼくもやろうと思ったのがきっかけのひとつでした。まずはスケッチブックを埋めることを目標に、それから少しずつ自分にハードルを課していきちょっとずつ喜びを見出していったんです。
詩のような言葉も大学時代からこっそり書いていたんですが、ある日言葉を書いたメモが飲み会でぽろっと筆箱から出てきちゃったんです。そしたらまわりにすごく面白がってもらって。
「あ、こういうことやっていいんだ」
ってびっくりした。恥ずかしいとも思っていたから。美大っていいかもと思う瞬間でした。
絵を始めたのも遅かったから時間がかかって、デッサンとかもできなくて恥ずかしかったから学校ではあんまりだったけどそれでコンペに出したら賞を貰ったりして、またここでもやっていいんだって少しずつ自信をつけていったんです。
—ダンスと絵画、異なる表現手段を持つAokidの絵は、しばしばダンスと結びつけて語られる。筆者にとっては「ダンスに現れる身体性」という表現が持つ絵画にむかうスタイルには、彼の繊細な筆使いや絵のタッチには少し違和感が残った。彼にとってのダンスと絵画の共通点はどのようなところにあるのだろうか。
ダンスと絵をやってきた僕の作品を、「ダンスの身体性を絵に落とし込んでいる」というと、言いやすいしその可能性もあるかもしれないけど一方でそんなうまく見えてこないこともあって。確かにいくつかの方法を同時に並行して行き来しながら重なっていく問題と思考が出ていきますが、、、
たとえばスケッチブックに、ペンをちょんと置いたり、しゅっと線を描く行為は、ページが膨大にあるおかげで何度も繰り返し試すことができる。これはダンスの振りの練習に似ていると思って。ダンスも、ひとつの振りが一回だけでうまくなることはないから、なんども空振りで動きの練習をする。1回の動きに対しての責任があんまりなくて、何度も繰り返すところがすごくダンスに似ているかもしれない。
真っ白いスケッチブックを広げて、まずひとつ点を描く。その隣にまた点を描く。すると、見る人の目はそれを追いかけて移動する。ダンスの練習のように1回に責任のないストロークのお試しをスケッチブックの上で繰り返すことで、鑑賞する人の目の行き来を作り出しているんです。
例えば僕がスケッチブックに赤と青と黄色の点を描いたら、それぞれの色で受け取る情報が違う。それを追ったり、時にはじっと集中して見たりする目の動きは、ダンスみたいだなって。
なんでも上手くできるようになって型ができちゃうと、それを壊す必要が出てくる。絵も、他のことも、まだまだうまくなっていないのだけど。
きっと、外へ出ていい絵やいい光景を見ていく中で自分にストックされていって、それと自分の身体の現在のレベルによって描ける絵が決まってくる。だから自分を料理していくような感覚で、これからもいろんな体験を課して時間をかけて行きたい。まだ見たことない世界を描くことができるかどうか、楽しみです。
◆プロフィール|Aokid
1988年東京生まれ。2010年東京造形大学映画専攻卒業。Aokid city所属。
受賞:2008年 EPSON COLOR IMAGING CONTESTグラフィック部門特選、横浜ダンスコレクション2016 コンペティション1Aokid×橋本匠「フリフリ」審査員賞
2016年 個展「ぼくは”偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。」など。
現在、ダンス公演や展示などの活動の他に、渋谷街頭や公園でのゲリラパフォーマンスを個人で、また人を集って行ったりしています。改めて街を作っていきます!
ウェブサイト:http://iamaokid.tumblr.com/
YouTube:https://www.youtube.com/ninjaaokid
どうぶつえん:http://doubutsuenzoo.tumblr.com
Tシャツショップ:https://aokid.theshop.jp
(執筆・写真(一部)/出川 光)
現PARTNER編集長。2010年武蔵美卒。専攻は写真。新卒でリクルートに入社、営業・ディレクターを経て、クラウドファンディングCAMPFIREを立ち上げるため転職。5年間CAMPFIREでチーフキュレーターを務め2015年に独立。カメラマン、クラウドファンディングコンサルタントにを経て現職。