アフリカ・ボツワナ共和国に住む世界最古の民族が描くアート「サン・アート」 

ボツワナ共和国は南部アフリカの内陸にあり、国土の大半をカラハリ砂漠に覆われた国です。荒涼とした大地にはサン族と呼ばれる、狩猟採集民が住んでいます。サン・アートは古くから独自の生活形態、文化と言語を現代まで持ち続けたサン族によって生み出されました。彼らが描くユニークな絵画や版画を紹介したいと思います。

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世界最古の民族、サン族(ブッシュマン)とは

サン族、ブッシュマンと言った方が日本人にはわかりやすいかもしれません。アフリカ南部で狩猟採集をし、獲物や採集するものをもとめて砂漠を移動しながら定住しない生活を近年まで続けてきた世界最古の民族と言われる人々がサン族です。

厳密な話をすると、サン族というのは狩猟採集民の総称で、その中にはグイ、ガナ、ナロ、コンなど色々な民族があります。

彼らは一見何も無いように見えるブッシュの中から、必要な物をみつけ、小さな動物を狩り、獲物や採集するものがある場所に向かって常に移動し続けます。言語も特殊で、クリック音という数種類の舌打ちのような音をまぜた言語を使います。

「ブッシュマン」はオランダ人に名付けられたものが英訳された呼び方で、侮蔑の意味が入っていたため、ボツワナではサン族、サルワ族などという呼び名を付けました。研究者の中には「ブッシュから様々なものをみつける知識人」という尊敬の意味で彼らをブッシュマンと呼ぶ人もいます。


  • 観光のためのアクティビティでサン族の生活の知恵を実演するブッシュマンの一家。ボツワナ、ハンチ市で撮影。

有名な岩窟絵は、おそらく彼らの祖先によって描かれたもの


アフリカ南部には岩窟絵や岩絵と呼ばれる、大昔の人々が描いた絵が岩場やその洞窟に多数発見されています。その絵を描いたのはおそらくサン族の祖先だと言われているのです。

ツォディロ・ヒルズについて詳しくは下記を参照してください。
GAPE -ボツワナの情報サイト- 世界遺産ツォディロ・ヒルズ 岩窟絵


  • ボツワナ北部 ツォディロ・ヒルズの壁画。この一帯は岩窟絵の宝庫で、世界遺産に登録されています。

壊されたサン族の生活と文化


近年ボツワナ政府は国を近代化するため、彼らに定住を強制し狩猟を禁止、サン族はその生活形態を大きく変えることを余儀なくされました。ボツワナ政府は病院や学校を彼らの定住地に完備。設備は近代化されたものの、今までの生業であった狩猟採集を禁止されたことで彼らは失業してしまったのです。

ボツワナでは失業者に援助がでるため、働かなくても餓死する事はなく、彼らはただ毎日座ってすごしているだけ。このことは大きな問題となっています。
彼らの中には、裁判で定住地以外の動物保護区に住む権利を勝ち取り、保護区内に居住している人もいますが、以前のように定住しない生活をするこはできていません。


  • 中央カラハリ動物保護区に住むサン族の一家

現代のナロの人々が描くサン・アートの世界


それでは、そんな彼らが描くアート"サン・アート"とは、一体どんなものなのでしょうか。
その起源ははボツワナのディカールという北西部の村。彼らは正規の美術教育を受け絵を描いているのではなく、ただ彼らの生きる世界、見ているものを描いているだけ。
その絵は、驚くほど鮮やかな色面の上に大自然や動物たちが踊るような自由に溢れています。ひとつひとつ省くことなく描きこまれた蛇のうろこや、毅然とした動物の眼差しには、彼らの見つめるアフリカの今がそのまま描かれているかのようです。


  • 版画作品、ディカールのギャラリーにて撮影

  • 絵画作品、ディカールのギャラリーにて撮影

サン・アートをサポートする人たち

彼らの高い芸術性に触れ、そのアート国内外に売り込んだりサポートする活動をしている団体も居ます。例えば、クル・アートは1990年からディカール拠点に活動するオランダのNGO団体。ナロのアーティストを国内外に売り込んだり、お金のやり取りやディカールで工房やギャラリーの運営などをサポートしています。
結果、ブリティッシュエアウェイズの尾翼のデザインにナロのアーティストのデザインが採用されたり、サン・アートの世界巡回展まで開き、サン族という非常に少数な民族を国外に知らせることに成功しています。

クル・アート ウェブサイト http://www.kuruart.com/


  • 版画作品、ディカールのギャラリーにて撮影

  • 版画作品、ディカールのギャラリーにて撮影

たくましく生きるサン族


戸籍を管理し、 国境線を引き、国境を越えるには旅券が必要になる。モノはお金でやり取りされ、そのお金は国が管理し、さらに全世界規模でお金のやり取りが行われています。動物保護区と人の居住地は柵でわけられ、保護区内で狩猟や採集はできない。
この現代社会の全てを管理するシステムは、サン族の生き方を否定しているのです。どんなアフリカの隔絶された村でも、誰もがお金を稼がないと生きてゆけないのが今の世界の現実です。


先進国側やボツワナ政府側から見れば、彼らに“絵を売ってお金を稼ぐことを覚えさせる”というのは、彼らを資本主義の世界に取り込むために必要なことですが、そうと書いてしまうと、なんだか彼らの世界を壊しているような気持ちになってしまうのも事実です。
しかし、彼らは彼らで今の環境の中でアイデンティティを持ちながら、たくましく生きています。


  • 絵画作品がならぶディカールの工房

アイデンティティと外の世界の狭間で、たくましく生きるサン族の人々は何を見て、何を感じているのでしょうか?
日本から約1万3千キロメートル離れ、全てが私たちとかけ離れているその生き方とアートは新しいインスピレーションを私たちに与えてくれるかもしれません。
荒涼とした厳しい土地、カラハリ砂漠から生まれた作品たちを是非見てみてください。


  • ディカールの工房に並ぶ絵画

日本では下記のギャラリーに作品が展示されています。

京都ギャラリー北野(8作品展示中)
http://www.gallery-kitano.com/
営業時間: 11:00〜19:00 火曜休館
※イベントにより異なる

〒604-8005 京都府京都市中京区恵比須町439 コーカビル
電話: 075-221-5397/ファックス: 075-241-3090
地下鉄東西線市役所前駅より徒歩2分、京阪線三条駅より徒歩2分


  • ディカールの博物館

millibar (1Fにて4作品展示中)
http://artniks.jp/
営業時間: 11:30〜23:00 火曜休館

〒550-0012 大阪市西区立売堀1-12-17
電話: 06-6531-7811
地下鉄四つ橋線本町駅23番出口より南西へ徒歩5分
地下鉄長堀鶴見緑地線西大橋駅2番出口より北へ徒歩8分

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OTONA WRITER

HiromiAme / HiromiAme

南部アフリカのボツワナ共和国在住 グラフィックデザイナーの伊藤洋美と申します。筑波大学芸術専門学群デザイン専攻卒業。日本の広告制作会社に合計約8年勤務した後、青年海外協力隊でボツワナの首都ハボロネにある国立博物館の制作部に派遣され、展示やPR関係のデザインとその技術移転が仕事です。日本で知られているアフリカとは別の顔を持つ国、ボツワナからアートやデザインの情報をお伝えしようと思います。