パリで絵だけを描いて生きていく。そんな人生に“イエス”と言おう。 ーアーティスト Etsuko Kobayashi

アーティストによって不法占拠された、パリの伝説のアトリエ「59 リヴォリ」。ここで、これまで15年、制作活動を続けてきた日本人アーティストがいます。Etsuko Kocayashi。世界各地からやってきた作風も考え方も言語も違うアーティストとのカオスな共同生活に、奥底に眠っていた創作意欲がかき立てられ、彼女は数多くの作品を生み出しました。

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ピカソやモディリアーニが生きた時代の創作の精神が、パリのスクワットに残っている

パリ・ルーブル美術館の並びにある、こんな個性的な外観の建物を知っていますか。いかにも、アートの香り漂う魅惑的な外観です。
 


  • 59リヴォリの個性的な外観。パリの中心地に位置していて、とても目立っています。

1999年のある日、この建物を3人のアーティストが不法占拠。次々に世界中のアーティストが集結してアーティスト・コミュニティに発展します。すると、従来の不法占拠 "スクワット" と同じように「追いだせ!」という世論が強まり、パリ市の行政やメディアを巻き込んでの大論争に発展。ところが次第に、パリ市民に熱狂的に歓迎されるようになり、2001年には市長の決断で奇跡的に合法化されます。

「59 リヴォリ」は他のスクワットと何が違ったのでしょうか?
それはアーティストたちがオープンだったから。彼らはいつでも見学に来る人々を歓迎し、ワインを注ぎ、作品を前に夜遅くまで語り合いました。訪れた人々は、もう歴史の彼方に消えてしまったと思っていた、ピカソやモディリアーニが生きた時代の創作の精神が、まだこの街に残っていることに気づいたのです。


「59 リヴォリ」がEtsuko Kobayashiを本物のアーティストにした

大論争の渦中、一人の日本人女性がその伝説的なスクワット「59 リヴォリ」と出会いました。ワーキングホリデーでパリを訪れていたEtsuko Kobayashi。専門的に美術の勉強をしたことはありませんでしたが、20代の終わりに「絵を描いて生きていく」という決意をもってパリに飛び込んだ彼女は、いきなりフランスのスクワットで、アーティスト活動を始めてしまったのです。


  • 仲間のひとり、フランチェスコのアトリエ。常に30人ほどのアーティストがこの建物で作品を作っている。

 
スクワットにはフランス人だけでなく、アフリカやカナダ、ロシア、南米など多くの国からアーティストが集まり、日々創作に勤しんでいました。作風も考え方も言語も違うアーティストとのカオスな共同生活に、奥底に眠っていた創作意欲がかき立てられて、彼女は数多くの作品を生み出します。
 


  • Etsuko Kobayashiのアトリエ。フランスだけではなく、海外からも大勢の人がここを訪れる。

 
彼女の当時の様子を、「59リヴォリ」のリーダーでアーティストのガスパール・ドラノエは次のように語ります。

「僕が仲間と共に59リヴォリというアーティスト達のスクワットを始めたときには、まだEtsuko Kobayashiの事は知らなかったし、その時は、そう遠くない未来に、彼女がこの共同体の中心的な役割をになうようになるとはつゆとも思わなかった。しかし、彼女はなんの前触れもなく、僕たちのアトリエにふらりとやってきて、まるで小鳥がそうするみたいにアトリエの片隅に住み着いて、絵を描きはじめた。
すこしずつ、とても繊細なやりかたで、彼女は自分の巣を築き、彼女がそこにいることは自然なことになった。幾月幾年と、ドローイングを続けただけではなく、大きなカンバスに絵を描き続けた。すると、みんなが彼女のビジュアルアーティストとしての多彩な才能を認めるようになった。ここでは言い尽くせないたくさんの理由のもとに、 Etsuko Kobayashiは僕が賞賛するアーティストであり、注意深く注目してきた女性であり、ぼくの心の中でこのアーティスト集団の永久メンバーとなったひとりの人間でもある」
 


  • Etsuko Kobayashi(左)とスクワットの仲間たち。一番右側はスクワットのリーダーのガスパール・ドラノエ。

 
そう、次第に彼女の絵はアートフェアで認められるようになり、今ではヨーロッパ中にコレクターが増えたのです。パリ、そして「59 リヴォリ」が、彼女を本物のアーティストにしたのです。
 

 
彼女の絵は、自分でも最後まで完成形がわかりません。ただ、感じるままに身をまかせ、自分の精神と絵を自由に解放して完成させます。だから完成した作品の解釈も見る人次第。
 

 
彼女のアトリエには、日々たくさんの人が訪ねてきて、作品を前に様々な対話が行われています。人と話すことで、彼女は自分の描く絵の意味を知るのです。


「絵を描いて生きてく」ことにこだわる

彼女は「絵を描いて生きてく」ことにこだわっています。
しかし、歯を食いしばって、苦労して、というのとは少し違います。ただ不必要なものをすべて手放し、軽やかに、楽しく、自由に生きています。
 

そんなEtsukoが、過去15年間のいろいろな作品や、スクワットのエッセンスを集めた自由な形態の作品集を準備中。「私のへんな生き方は、私の作品からも感じていただけるでしょう」そう語る彼女。スクワットのエッセンスと彼女の人生が表現された一冊になりそうです。

また、今年11月には東京・恵比寿で展覧会も開催予定。「山小屋がスクワットされた!」というテーマで、実際に期間中はEtsuko Kobayashiが寝泊まりしながら制作や展示を行い、パリのスクワットの雰囲気を東京に再現します。
詳しい情報はこちらのプロジェクトページで。


(執筆・上野なつみ)
引用元:MotionGallery

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