個人出展も可能?アートフェアの実態!

前回の記事に対しての反応の中で、アートフェアについての反応が多かったようです。そこで今回は、今年に入って参加していたイギリスのLondonArtFair、オーストリアのInnsbruckArtFair、そしてドイツからはArt Karlsruheについて、レビューを交えながら、アートフェアについてお話ししたいと思います。

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アートフェアとは?

アートフェアとは大きな展示会場に各々ブースをもらい、そこで美術作品を展示販売する場所のこと。自分がつくった小物を販売するフリーマーケットのようなものではなく、中にはピカソやミロなど、美術館に所蔵されているような過去の有名な作家の作品も、数百万、数千万円という値段で展示販売されていることもあります。フェアのレベルはピンからキリまで、世界中様々な場所で、様々な規模で開かれています。作家からの視点で言えば、フェアの種類は大きく分けて二つ。ひとつはギャラリーのみが出展できるもの。そしてもうひとつは作家個人でも出展できるものです。



ギャラリーのみが出展できるアートフェア

アートフェアには開催の数ヶ月前に応募があり、審査で選ばれなければそこに出展することができません。出展料も100万円を超えるようなアートフェアもあるほど、かなり高額なものが多いです。「ギャラリーのみが出展可能」という条件のアートフェアは、ギャラリーの名前で応募しなければなりません。つまり契約作家を抱えているギャラリーが、その作家の作品をもって応募をし、作家の作品を展示販売するということです。契約ギャラリーということは、作品が売れた場合契約に沿ったパーセンテージが作家に払われることになるでしょう。たとえばドイツの場合は、多くのギャラリーと作家の取り分を50:50とする契約が多いと思います。(作品売価の30%+19%の税金)また、ギャラリーの名前を借り、個人出展するということも可能です。アートフェアに出展することは作家、ギャラリーの名前を売るという大きな利点がありますが、同時にアートフェアに出展することは幾ばくかのリスクを背負います。配布物などの広告準備、作品の搬入出に設営、期間中の滞在費、そして出展費。これらの仕事量と出費額、そして一週間近くある展示期間がネックになり、出品を渋っているギャラリーが多くあります。それらを全て個人で行う代わりに、ギャラリーの名前を貸りるということも可能というわけです。またギャラリーのみが出展するアートフェアの中には特別推薦枠などで個人出展している作家も見受けられます。


個人出展できるアートフェア

「アートフェアはギャラリーを通して行うもの」とひろく認知されているようですが、中には個人出展が可能なアートフェアもあります。これもまたレベルはピンキリですが、出展費が比較的安いものが多いです。またギャラリー出展者と混ざっての展示になることが多いです。前述した準備と費用はもちろん個人負担ですが、個人販売のためギャラリーへのパーセンテージを払う必要がないことは言うまでもありません。まだギャラリーと契約を結んでいない作家も多いため、新たな作家を探し求めているギャラリストも多く展示に足を運びます。アートフェアを通してギャラリーを見つけることが目的の作家も多くいます。ドイツ国内ではここ数年でいくつもの新しいアートフェアが開かれています。まだ規模の小さいものでは個人出展が可能な場合も多くあります。
応募は同じく開催の数ヶ月前にインターネットで行われることが多いと思います。応募に必要なものは
自分の経歴、作品のコンセプト、作品の写真データの3点がメインです。
作品の写真データをアップロードすることになりますが、提出可能作品点数も限られているので、自分の作品が載っているホームページを用意することをお勧めします。どの応募でもホームページアドレスを記載するフォームが用意されているので、自分で活動をしていくには自分のホームページを用意することはとても重要になってくると思います。


  • Photo by Masaki Hagino

アートフェアの前置きはここまでにして、ここからはレビューも兼ねて、今年に入って展示を行ったアートフェアを紹介します。


1) LondonArtfair
http://www.londonartfair.co.uk/
会場:Business Design Centre(52 Upper Street, London N1 0QH)

イギリス最高峰とも呼び声高いアートフェア。5日間で数万人が訪れるフェアですBisinnes Design Centreで毎年1月頃開かれている模様。
今回は契約ギャラリーを通しての展示でした。ロンドンでの展示は今回が初めてでしたので、ロンドンのアートシーンについてはさっぱりでした。ですがやはり富裕層の多いロンドンということもあり、かなり多くの作品が売買されていた様子でした。

アートフェアは5日間開催され、初日はVIPゲストのみを招待したオープニングが開かれます。この初日の段階でかなりの作品が売れたようで、作品の横には多くの赤いシールが貼られていました。100以上のギャラリーが集まる今回のフェア。3フロアに分かれており、ギャラリーのタイプも様々、展示されている作品も様々な種類で、美術館にいるような感覚です。現代アートから印象派の時代の作品、絵画だけではなく彫刻や写真作品も並び、見応えがあるフェアでした。

2) Art Fair Innsbruck 2016
http://www.art-innsbruck.at/index.php/de/

会場:ART Kunstmesse GmbH.(Gutenbergstr. 3, A-6020 Innsbruck)


販売交渉などはすべてギャラリストに丸投げし、ロンドンを足早に後にして、次はオーストリアのチロル地方インスブルック(Innsbruck)という街のアートフェア、ArtFairInnsbruck2016に参加していました。ロンドンとは違い今回は個人出展なので、すべての準備を自分で行わなければなりません。出展への応募は、前回の別の展示にてこのフェアのオーガナイザーから直接招待を受けました。

準備はとても大変です!カタログや名刺、作品の説明や活動歴(CV)のハンドアウトを印刷に出したり、作品の輸送や当日の設営、売買の手続きなどなど… フェアへの個人出展は今回で3回目になるので、ようやく準備に慣れてきたように思います。
ご近所さんと仲良くしながら展示を進めて行きました。壁に作品を水平に設置するのも割と大変なんですよね。今回は奥さんと2人で展示しているので比較的大きなスペース(4x5m)を貰いました。


  • Photo by Masaki Hagino

  • Photo by Masaki Hagino

初日のオープニングは23時まで続き、数千人が訪れたようで会場はかなり賑わっていました。他の展示者はオーストリア、ドイツからがほとんどでしたが、イタリアやイギリスからの参加者もいたようです。会場にはこのフェアのために世界各国から訪れた人も多く見受けられました。


  • オープニングパーティー / Photo by Masaki Hagino

  • 展示準備中 / Photo by Masaki Hagino

中にはギャラリストも見学に来ており、個人出展の若手作家をスカウトするために来ている人もいるため、常に気を張っていなければなりません。すごいフランクに作品について話したりしていて、その流れで「実はギャラリーやってるんだけどさ…」なんてこともしばしば。

作品の売買がメインのアートフェアですが、作家同士の横の繋がりや、新しいギャラリーから展示のオファーがあったりなど、いろんなことが起こります。出展料もかかるフェアですが、作品が売れる売れないという損得勘定だけでなく、そういった繋がりも大事にしたいなと思います。

また作品を見て感想や意見交換が多く行われるので、自分作品になにが足りないのか、また作品のどの部分が利点になっているのか。作家からの視点では気づけないことも多いので、こうして作品についてコミュニケーションを取ることはとても大事だなと実感します

3) art KARLSRUHE
http://www.art-karlsruhe.de/de/home/homepage.jsp

会場:Messegelände(Messeallee 1, 76287 Rheinstetten, Deutschland)


  • Photo by Masaki Hagino

  • Photo by Masaki Hagino

ドイツ国内では2番目とも謳われる大きなアートフェア、アートカールスルーエ。ドイツ国内1番は何と言ってもArt Cologne(http://www.artcologne.de/ART-COLOGNE/index.php)ですが、その次に作品のレベルも入場者数も誇るアートフェアです。今回は契約ギャラリーを通しての出展でした。大きな展示ホールが4つ分というかなり大きなアートフェアです。1日じゃ回りきれないほどで、世界中のギャラリーが展示をしていました。カールスルーエはドイツとフランスの国境近くに位置しているので、フランスのギャラリーも多く見られ、フランスから来る人も同じように多いようでした。私が所属するギャラリーだけでもかなりの作品数が売れましたが、ほかのギャラリーでも作品がどんどんと入れ替わっていました。

4つのホールはそれぞれテーマで別れており、若手アーティストを抱えるギャラリー、ピカソやミロなどといった世界的に有名な作家の作品を持つギャラリーなど、ホール毎にコンセプトがありとても見応えがあります。



今回は私自身が参加した3つのアートフェアの様子を紹介しました。

「作家として生きて行く」ということは自分の作品を売って生計を立てていくこと。その道の中でも販売を中心に行うことができるアートフェアの出品は、とても大切です。ですがこうしてアートフェアに出品していると、作品を売れる売れないで判断してしまいがちなことにも気づきます。
売れる作品だけが果たしていい作品なのでしょうか。また、売れない作品はよくない作品なのでしょうか。売れやすいような作品を作ることが、作家として成功を掴むために大切なのでしょうか。
壁に飾られる作品は、インテリアの一部なのでしょうか。インテリアとして作品を作る人もいれば、作品としての価値を求め、受賞を狙う作家もいます。骨董品とも呼べるような、かの有名な作家の作品のコレクションを探す人。部屋に合う絵を探している人、ギャラリーで展示する作品を選びに来た人。様々な目的を持った人が、様々な意味を持った作品を見に来るアートフェア。毎回、出品についていろいろと考えさせられます。




Masaki Hagino
http://masakihagino.com

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OTONA WRITER

Masaki Hagino / Masaki Hagino

ドイツ、Burg Giebichenstein University of Art 絵画テキスタイルアート科在籍。「人間はどのように世界を認識しているのか」ということをテーマに、制作を続ける。国内外のギャラリー、アートフェアで展示を行い、作家として活動する。