南米チリ、歴史が浅いから成し遂げられたデジタルアーカイブ
チリに住んでまもなく1年が経とうとしていたころ。
「チリの芸術・文化を知りたい!」とチリ人に話をしていたとき、「それならこのサイトを見ればいいよ」と紹介してもらったのが、チリの国立図書館が運営するサイト「MEMORIA CHILENA」だった。
このサイト、ジャンルや収蔵施設の枠を超えて、すべての文化的資源がまとまっている。画像も文献もバイオグラフィも丁寧にリンクが貼ってあって、とにかく見やすい。信頼度が高く添付資料がすべてリンクされている芸術・文化・歴史版Wikipedia、といったようなかんじ。
せっかくなのでまずは、スペイン語がわからなくてもいい、ぜひサイトを訪れてみてほしい。
データベースの構造はこうだ。
テーマは建築と地理、科学と技術、文化と芸術、歴史、文学など全10ジャンル、掲載データは本や新聞記事、写真やデッサン、絵画、ビデオや音楽素材など全19のメディアが対象となっているほか、デジタル年表で時代ごとの検索ができたり、チリ国内の地域別にもソートができる。
ひとつのテーマ、例えば「チリ中央銀行(1925年〜2009年)」というページを開くと、チリ中央銀行に関する沿革がテキストで記載され、関連する単語にはすべてリンクが貼られている。「文書」のタブをクリックすると関連文書が画像付きで一覧表示、ダウンロードをクリックすれば、PDFでスキャン画像が手に入る。「画像」のタブをクリックすると過去のチリの紙幣の画像が並び、「年代」をクリックすれば年ごとに主なトピックが確認できる。
こんなにもユーザーの使いやすいデジタルアーカイブは、正直初めて見た。まさか、南米でそんな先進的な取り組みが実用化されているなんて!チリの先進性に驚かされた。
補足すると、チリの歴史は1492年にコロンブスがチリを「発見」してからしか残っていない。それ以前、マプチェ族をはじめとする複数の先住民が存在したが、彼らはすべて口伝継承。文化的資料が数少ないということもあり、日本や中国、ヨーロッパなどに比べるとアーカイブするべき対象が少ないから成し遂げられたプロジェクトなのだと思う。
ヨーロッパのeuropeanaを筆頭に、世界各地で進むデジタルアーカイブ
●欧州連合「europeana」
ヨーロッパでは欧州連合がサイト「europeana」という巨大なアーカイブを2008年に構築。2016年1月現在110万点以上の画像、4万4千のテキストのほか、映像や音データも取り扱っており、ヨーロッパ各地の美術館と提携して、貴重な文化的資源を公開することに成功している。日本語はさすがに対応していないが、ヨーロッパ諸国の言語は17ヶ国語対応している。
●MIT「Visualizing Cultures」
2002年にはマサチューセッツ・工科大学が「Visualizing Cultures」をオープン。最新の技術をつかってこれまで視覚的に触れられにくかった文化的資源を観れるようにするという試みがなされた。日本や中国などのアジアの芸術・文化について、デジタル化が進められている。
●ニューヨーク公立図書館「DIGITAL COLLECTIONS」
続いてはニューヨーク公立図書館のデジタルアーカイブ「DIGITAL COLLECTION」。このデータベースは、写真やイラスト、地図なども対象だ。
さっそく私の好きな、有名な写真家・Walker Evansを検索してみると、すぐに代表作を見つけることができた。
今月6日には、18万点もの作品が高画質でダウンロードフリー・再利用可能になったというから、感動!
フリーを利用したサービスとして、気に入った作品の印刷サービスなども始まった。
他に、アメリカの「WORLD DIGITAL LIBRARY」なども有名だ。
日本のデジタルアーカイブも構築が進む!課題は組織間の連携
これに対して日本でも各種機関がデジタルアーカイブの作成に動いている。国立国会図書館サーチでは、本のアーカイブだけでなく歴史的音源などもあって、歴史的人物の音源がインターネットを通じて再生できる。量・内容ともに、とても充実している。
しかし一方で、他諸国のようには組織やジャンルを超えた提携が進まず、紹介したチリやヨーロッパのようなポータルサイトとしての機能はもてていない。
「つくる」人にとって、いろいろなインプットや知識はとても重要だ。もちろん作品を生で見る重要性は言うまでもない。それでも、数多くの作品を気軽に知ることができるのだから有効活用すべきだ。インスピレーションという観点はもちろんのこと、自分の作品・アウトプットを歴史の中でどう説明するのかを考える上でも、自身の制作のなかでコラージュ作品などの素材としても活きるかもしれない。
既存の作品に影響を受けすぎる必要はないのかもしれないが、何千万・何億という先人たちのクリエイティブに刺激を受けて、深い知識や教養をつけて「つくる」を深め極める。そんなとき、現代ならではのデジタルアーカイブは、「つくる」人にとって大きな味方になるのではないだろうか。
参照
●総務省「デジタルアーカイブの構築・連携のためのガイドライン」2012年
●CB CREATIVE BLOQ 『Download thousands of free images from the New York Public Library』2016年1月11日
※この記事はライター本人が趣味半分・好奇心でリサーチして書いたものであり、事実をお約束するものではありません。みなさんの制作のご参考までに!
編集者/メディエイター。美大での4年間は「アートと世の中を繋ぐ人になる」ことを目標に、フリーペーパーPARTNERを編集してみたり、展覧会THE SIXの運営をしてみたり、就活アート展『美ナビ展』の企画書をつくったりしてすごしました。現在チリ・サンチャゴ在住。ウェブメディアPARTNERの編集、記事執筆など。