テーマは「アトラクション」
本展は、美術とデザインの個性豊かな作品たちが混ざり合い響き合うという意味の「アトラクション」がテーマ。美術館の改修工事により、例年より早い開催となりましたが、日本画・洋画・彫刻から写真・タイポグラフィ作品・マンガ表現までバリエーションに富んだ、まさにテーマパークのような見応えある展覧会でした。
■美術学科
繁栄—コンセプトから発想を得る絵画表現の追求—/杉本祐太
会場に足を踏み入れ、最初に目に飛び込んでくるのがこの作品。夜の街に光るネオンやライトが交錯し、勢いある賑やかな画面は迫力そのもの。
電気は、家電などを通して人々に物理的な充実を与えてきましたが、インターネットの発達により、SNSなど精神的充実も与えるようになりました。この2つを満たすエネルギーや電気が持つクリエイティビティな部分が「繁栄」という意味で表現されています。
今まで、具象画から抽象画まで、さまざまな絵を描いてきたという杉本さん。今回は、描くことのできない「電気」を描くために、照明を中心とした夜に目に入ってくる光をなんでも取り込み、形を形成していったそうです。6年間培った構成力を活かし、具象的と抽象的、双方の表現の統合に挑戦した作品となりました。
彩ずる間—具象彫刻制作における「量のコントラスト」の追求—/富永健斗
ずっしりとした胴体を支える長く伸びる細い足。触れてしまえば一瞬で崩れてしまいそうな精妙な作品が、独特の緊張感をまとって存在していました。
学生の頃からずっと人体を制作してきた富永さんは、制作の中で、大きい・小さい、太い・細いといった視覚的なボリュームのコントラストに興味を抱くようになりました。そこで、研究テーマを「量のコントラスト」とし、それが顕著に現れるフラミンゴをモチーフとした彫刻作品が生まれました。
今回用いられた具象的表現は、見ている人の共感を生みやすい、いわゆる“わかりやすい“作品。その共感を得る喜びが、制作を続けていく上でのモチベーションとなっていたことに今回の制作で気づいたと言います。今後は、人体を中心に動物や植物など、具象的表現という立ち位置で自分の作品を作っていきたいそうです。
オニキス/鈴木沙彩
鮮やかな色遣いと、とても細かい描き込みで特有の世界観を持つ鈴木さんの作品。どんどんその画面に引き込まれる緻密な絵ですが、本人曰く「まだ大雑把」とのこと。描きたいものだけ描く、描きたいときに描きたいところを描く、のが鈴木さん流。端から描いているわけではなく、描こうとしているところに愛猫が居たら、そこを避けてあとで描くこともあると言います。また、本作品は、描いている途中で端に違和を感じ、画面を増やしたものだそう。「攻めることをやめたら(鈴木さんの)絵が死ぬ」という先生のお言葉の元、常に攻めの姿勢で制作に取り組まれています。
《花と歩く》—人物、植物を用いた時の流れ表現—/石川美由紀
学部卒業時には挑戦した作品を制作したため、今回は今までやってきた集大成としての作品にしたという石川さん。現在から過去への時の流れを表現したという画面構成は、人物を左側に配置し、その背後から画面右端に向かって花が広がるようすで過去を表しています。透き通るような肌を持つ美しい女性と咲き誇るアサガオとから、みずみずしさと澄んだ空気が感じられました。
Affair/小島拓朗
ビルの解体により、長い間隠れていた場所がいきなり現れたところを発見し、それに感動して制作に至ったという本作品。自画像は、1年生のときから捨てずに取っておいたたくさんの紙パレットに描かれており、取り壊されたり、また建ったりと変化を繰り返す建築物を描いた作品の意図とリンクされていました。
それでも、関わりあっていく/安森大樹
教育実習のため母校を訪れた際、当時嫌いだった学校を俯瞰で見ることで不思議な気持ちを感じた安森さんは、思春期の印象的な記憶や感情を俯瞰的に表現することで、同じような感情を与えられるのではないかと考え制作にあたりました。悩み苦しんだ自己のアイデンティティーの形成を、同級生と同じ数である132個の空洞な卵に投影したという構成作品になっています。
■デザイン学科
Typographic龍之介/桐原萌里
無垢な紙の上に動きや感情を持った文字が乗っている、ひときわ存在感を放つ一角がありました。
元々、ひらがなに対してかわいいという感情を抱き、文字を扱いたいと考えていた桐原さん。彼女自身が、本や新聞の小さく規則正しく並んでいる文字を見て窮屈さを感じ、もっと自由な、色を持った文字や大小さまざまな文字で書かれた本があったらいいのにという想いから制作されました。
芥川龍之介の「白」「蜘蛛の糸」「僕は」「動物園」「舞踏会」「蛙」といった6点の短編小説を題材としたのは、芥川作品は人間味に溢れており、また日本語が巧みに使われているからだそう。コンクリートポエトリーの技法を取り入れた表現により、また新たな文学の魅力に触れることができる作品でした。
マンガ表現の可能性の追求/大松弘華
「4年間学んできた映像と、ずっと独学でやってきたマンガのこの二つで何かできないかと考えた」という大松さんは、連載を持つプロの漫画家でもあります。
マンガの映像化というと、世間からの印象はあまり好ましくないのが現状。実際に本研究でアンケートを実施した結果、98%もの人が、がっかりしたことがあると回答したそうです。そこで、どうにかマンガの良さを削らずに映像化できないかと考えられたのがこの作品です。一般的なマンガの展示も、映像を使ったり、プロジェクションマッピングを使ったりと進化しており、そういったものを取り入れながら新しいマンガ表現を追求した結果、このような展示が生まれました。
暗闇空間エンターテイメント空間の構想と実践/髙光誠
この黒い箱の中は、光の一切ない、閉ざされた暗闇となっています。この制作に至ったきっかけは、以前、自身が暗闇空間でのワークショップ『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』を体験したことだったそうです。壁に白いペンで書かれているのは、体験した人々の感想。作者の意図する、視覚以外で体感する芸術的アプローチをたくさんの人に受け取ってもらえたのではないでしょうか。
TRATTO SEDIA/合志安以
高校時代から被服を学び、布と触れる機会の多かった合志さんは、どうしても卒業制作で今までにない布の使い方をしたかったそうで、この布の伸縮性を利用した座面を持つ椅子が生まれました。彼女が大学に入って一番触れることの多かったという木材と以前から好きだった布、この二つの素材を用いた作品となっています。「一番楽しかったのは、布選びだった」そう。
Skirt and Dress : for men/益田笑利
後輩の「僕、スカートを履きたいんですけど……」という言葉を聞いて、奇抜ではない、抵抗感のない男性用スカートを作れないかと考えたのがきっかけで制作された本作品。写真表現を専攻するゼミに所属しながら、アパレルのデザインに取り組んだのは、「自分の作った服を着ている人を撮る」という夢を叶えるためでした。
デザインのシタゴコロ/信國由征
信國さんが本作品を制作したのは、大学でデザインを学ぶ中で、まだまだデザインが知られていないことのもったいなさを感じたためでした。本という媒体を選んだのは、本人曰く「実物主義だから」。そこには、実際に手にとって、紙の違いや素材の特徴を感じてほしいという想いがあったのでした。
いかがだったでしょうか。九州の真ん中で、新たな表現や可能性を追求している学生が居ることを少しでも多くの方に知っていただけたら幸いです。
余談ですが私自身、毎年、卒展の搬入・搬出や設営などを通して、この時期になって4年生の先輩方と仲良くなれるので、もっと早く親しくなれたらと悔やんでいました。来年こそは……と思ったら、来年はなんと私が4年生でした。恐ろしい。
先輩方の卒業を前に、縦のつながりも大切にしたいと強く思う今日この頃です。
人が好きです。 人と関わることが好きです。 ときめくこと、わくわくすることが好きです。 楽しみ、楽しませるがモットーです。