コラムニストの憂鬱その5「お袋と時計」

前回のコラムを読んでいただけだろうか。 「感想はどうでしたか?」 みんなに私信を送りたい。

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コラムニストの憂鬱その4「親父の彼女」
この文章を読んで一番爆笑したのはお袋だろう。

実際に「涙が出るほど笑った」と報告された。
「描写が上手い」と褒められ、文章の甘い部分に赤を入れられた。
また友人から「あんなこと書いて大丈夫なの?」と心配のLINEが来たらしい。
お袋は、「もう書いちゃったから仕方ない」と返信。
つまりは、もー仕方ないのだ。色々と・・・。

うちの親父とお袋は、冷戦状態だ。会話をすることは皆無。
ふと、いつ頃から二人の関係性が崩壊したかを考えた。
お袋が働きだしてからなんだよな。
そこで本人曰く「お脳がついた」らしい。
以前は、親父にイエスマン否イエスウーマンだったお袋が反逆が始まった。
親父へツッコミを入れ始めたのだ。
ヒットマン否ヒットウーマン(しつこい)ような正確無比な射撃口撃。
急いで出かける親父の服装にあれこれ言う。たいして親父がキレる。
このしょうもないやりとりを幾度となく目撃した。
2010年代に突入してからは、お袋のツッコミに親父は無反応。
あと、最近うちの愛犬が死んだから夫婦喧嘩を食べる装置も消えた。

ふとお袋に質問をしてみた。
「もし一億円あったら離婚する?」
お袋はかなり長考し、「迷うな、迷うなぁ」と二度つぶやいた。

夜。正確に記すと9月29日の20時44分。お袋からこんなLINEが来た。
「もう親父さま 頭へんになぅたよ バブリーな時計、いらないよ」
お袋独特の文体で書かれた内容。

要約すると「親父がお袋にバブリーな時計を買ってきた」らしい。
絶対面白い。

事務所から家へとすぐに駆け出した。3分後に到着。
リビングからお袋の嘆き声が聞こえる。


「もーどーするのコレいらないよ、あぁあぁあぁ」

どうやら親父はいない様子。

僕がリビングに入ると・・・眩しい。
ビカビカに光る腕時計が光る。とてつもなく輝いている。
ダイヤがギラギラと光り、自己主張が半端なく強い。
お袋の左腕だけジュリアナ東京、バブル状態。
「なんで、親父はいきなり腕時計なんて買ってきたの?」と聞くと、「わからない」
だが、お袋この腕時計には見覚えあり。
30年前に親父にねだった品だと云う。
「じゃ、嬉しいじゃない」と聞くと
「もう30年の前の話だよ、30年前に欲しかったものが今でも欲しいとは限らない」
と至極まっとうな意見を述べた。
僕「じゃ、これいらないんだ」
母「いらない」
僕「じゃ、ちょうだいよ」
母「バカな冗談言わないでよ」
丁々発止のやりとりが続く。問題は腕時計の値段。
袋に入った領収書を見て腰が抜けた。
50万也。

親父のお袋へサプライズにかかった値段50万円。稀に見る無駄なサプライズだ。
お袋はどうやったらこの腕時計を生かせるかを必死で考える。
「この派手なベルトと取り替えればなんとかいけると思わない?」と僕に聞く。
「このビカビカなベルトが良いんじゃないの?」と言うと
「こんな派手なの会社でつけらるはずないじゃない」と返した。

ガチャ。家の扉が開く。
どうやらサプライズの発起人親父が帰宅したようだ。

母「なんで時計買ってきたの?」
父「今日、時計の展示会行ったんだよ。そしたら、お前が欲しがっていたのがあったからさ。いいだろソレ。な、ヒロム」
僕「派手だね」
父「そりゃ派手だよ。ダイヤだぜ。けど、30年前は350万もしたのが今では50万。良い買い物したよな。30年前に欲しがっていたものを覚えている俺を偉いだろ」
母「けど、コレ派手すぎるよ」

さっきまでお袋は「いらない」と明言していたが、流石に親父の前では言えないようだ。
親父は酒も若干入っているので気分揚々である。

それじゃ、面白くないのが僕。

二人のバチバチが見たいのに、ナニも起こりゃしない。
火種を投げ込む。

僕「親父、お袋、時計気にってないらしいよ、さっき全然いらないって言ってたよ」
リビングが凍る。お袋は机の下から僕の足を蹴った。
父「・・・ん?」
僕「なんか、昔は欲しかったんだけど、もーいらないんだって」
父「・・・、ま、気持ちだから。人のそういった気持ちを理解できないならもう良い」
母「けど、なんで買うときに電話くれなかったの?買うなら自分で選ばせて欲しい。こんなバブルみたいなセンスの恥ずかしくてつけられるはずないじゃない。笑われるよ。また店員におだてられて買ったんでしょ」
父「・・・」
親父は耳をそっと閉じた。
母「クーリングオフとか使えないのかしら」
僕「訪問販売とかじゃないから使えないよ」

お袋は口をそっと覆った。

歯車の狂い始めた夫婦関係は、悲劇を通り越し喜劇となる。
ちなみに、親父は自分用にも50万の時計を買っていた。

最後にこのコラムを事前に読んでいたお袋からこんなメッセージが届いた。
「立場は逆転していない、口答えできるようになっただけ。
離婚については、長年付き合ってきた歴史があるから、断ち切れるものではない
今はお互い好きなことをして、無理して関わらなくてもいい
近い将来ヨボヨボして、関わらなくちゃならないんだから
あまり波風立てたくないからね
よろしく!」

矢沢みたいだった。

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OTONA WRITER

ヨシムラヒロム / Hiromu Yoshimura

中野区観光大使やっています。最近、29歳になりました!趣味は読書です。