芸大生が振り返る!今年も大盛況で終わった「越後妻有アートトリエンナーレ2015」

アートの話題の中でも近年よく耳にするようになった「◯◯◯芸術祭」、その先駆者とも言えるのが、2000年から3年に1度開催されている世界最大級の国際芸術祭「越後妻有アートトリエンナーレ:大地の芸術祭2015」です。7月から50日間開催された今年の芸術祭も、日本各地から訪れたという美大生は少なくないのではないでしょうか。芸術作品を展示する場であり、人と人をつなぐプラットホームでもあり、地域振興の場でもある「芸術祭」とは?今夏越後に赴いた筆者が、2015年の総括と今後に控える他の芸術祭の導入として、越後妻有アートトリエンナーレ:大地の芸術祭2015をいくつかの視点で振り返ります。

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今年の夏開催された越後妻有アートトリエンナーレ:大地の芸術祭2015。
地域で開催される「◯◯◯芸術祭」の先駆者でもあるこのイベントを訪れ、
見えてきたことを、3つの視点で紹介します。


1.芸術祭で知る地域の「文化」
展示作品から知る、京都とつながる「越後妻有」の織物文化


 新潟県南部に位置する十日町市や津南町の一帯は、総称で「妻有(つまり)」と呼ばれています。この芸術祭では、JRほくほく線の十日町駅、まつだい駅周辺のほか、津南町や魚沼といった地域にまたがり作品が展示され、プロジェクトを構成しています。

 まつだい駅周辺には、古民家をそのまま移送し展示している作品があり、まつだいを中心に妻有の民族や歴史に関する資料展示を見ることができます。

 越後妻有では古くから機織りや繊維業が盛んに行われ、元は苧麻や青苧といった原材料を使用していましたが、江戸時代にかけて起こった町人文化の波がくると、元来の原料から絹への移行を余儀なくされます。そこで、農業のできない冬期に妻有の女性たちは織物の生産に努め、生産した織物を京都へ卸すことで金銭を稼いでいたのだそうです。ほかにも、信仰や芸能の分野に関しても、妻有と京都は接点があったということが、この展示からわかります。


  • まつだい郷土資料館特別企画展「京につながる越後妻有郷」にて、田中聖『ものがたりをつむぐー雪にひらかれるみちー』

 さらに注目したいのは展示方法です。それらを伝えるために、単なるパネルを使うような資料展示にするのではなく、地元原産の和紙を使用した作家によるインスタレーションに応用した演出が施されています。五感を使った展示を通じて、現地の文化を知ることができるのは、大地の芸術祭ならではです。



2.芸術祭で考える「地域振興」
地域×アートを考える……『最後の教室』@旧東川小学校


 越後妻有では、国内外から多様なアーティストを招聘しています。その中でも今回注目したのは、クリスチャン・ボルタンスキーとフランスの哲学者であるジャン・カルマンによる巨大インスタレーション『最後の教室』という作品です。


  • クリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマン『最後の教室』

 彼らは旧東川小学校という廃校になった小学校全体を使用し、作品を構成しています。この作品は2006年に製作を開始し、芸術祭の度に部分的に内部を変更しながら現在に至るまで制作されており、会期終了後はその場で保管されます。 
 彼らの作品は「記憶」や「人間の不在」をテーマにしています。真っ黒で鏡のような板には、薄暗い照明に浮かび上がっては消える残像が映り、カーテンで仕切られ、蛍光灯の白い光が照らす空間には棺のようなガラスケースが並んでいます。廃校以前に通っていた生徒たちの持ち物が配置された音楽室など、廃校になってしまった小学校にいたであろう何百という数の生徒たちを感じさせる作品です。

 実はこの作品の周辺地域をふくめ、本芸術祭では「廃校」を利用し、作品にしているものが幾つか存在します。廃校の他に、園児の減少で閉鎖した保育所を利用したカフェなどもあり、経済的な観光効果が地域に産まれている実感がある一方で、カフェのスタッフやタクシー運転手など芸術祭と間接的な関わり方をしている一部の地域の方には、「イベントは知っているけど、作品って?」と、芸術や作品そのものについて知られていなかったり理解が得られていない様子も見受けられました。近隣住民と芸術祭の距離は部分的に遠く、いかに「地域×アート」を意識しても、本来の地域振興をアートの仲介で成し遂げることはいまだ難問であることがわかります。


 
3. 芸術祭で味わう「食」
特産物を大プッシュ!地方型芸術祭の素晴らしい「食」


新潟県の妻有は海ではなく山に面した土地です。米、南瓜、シシトウなどの農作物が多く栽培されています。山の味覚といえば山菜やキノコ。十日町にある越後妻有里山現代美術館(通称キナーレ)の中にある軽食処「越後しなのがわバル」では過去の芸術祭の作品を店内に活用しており、期間中は芸術祭に合わせた内容のメニューを提供してくれます。

今回のメニューがこちら!


  • 越後しなのがわバル「畑のにく丼ぶり」

「畑のにく丼ぶり」といって、一見本物のお肉がのったどんぶりに見えるこちらは、県産の車麩に味をつけて煮たものをお肉に見立てたどんぶりです。味付けも辛すぎずなにより麩なのでヘルシーに食べられます。付け合せにはこちらも名産の「そうめんかぼちゃ」の小鉢にお漬物、南瓜とお芋の汁物にブドウと梨のデザートが付いています。妻有ではお米の美味しさもさることながらお漬物とそうめんかぼちゃの料理には多く遭遇します。そうめんのように繊維が細くちぎれるのが特徴のそうめんかぼちゃですが、プリンに加工するなど様々に工夫されています。
 このバルの隣にはミュージアムショップがあり、越後妻有原産のお土産が多く並んでいます。米どころといえば酒どころですが、芸術祭仕様に新しくデザインされたボトルに入った新潟産の地元酒も人気商品で、すっきり飲める美味しいお酒です。地方で開催される芸術祭はどこも多くが「町おこし」「地域振興」の面を持っているので現地の食文化をアピールしています。
この機会に芸術祭の根付くその土地の味を堪能できるのも、芸術祭ならではです!



2016年、17年も芸術祭ラッシュ!美大生よ旅に出よ!


 芸術祭のいいところは「複数の作家の作品をいっぺんに見ることができる」ところです。芸大生や美大生にとって他人の作品を数多く見ることも必要かもしれません。そして芸術祭を通して、自分に馴染みのない地域のことを知りながら、国内外のアートについて考え、芸術祭がどういった目的で行われているのかあるいはその理想と現実のギャップを見ることも、自分にとってプラスになるかもしれません。

 「芸術祭」に出かけてみたくなったみなさん。2020年東京オリンピックを目処に日本の文化活動は活発になり、2016年瀬戸内国際芸術祭・愛知トリエンナーレや2017年札幌国際芸術祭など芸術祭の機会は多くやってきます。
 自分の住んでいる地域と照らし合わせながら観賞するなど様々に考えを巡らせ、観光というだけではない芸術祭というものを、経験してみてはいかがでしょうか。

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STUDENT WRITER

サラ / Sarah

沖縄県在住の道産子芸大生。もっぱらの関心は芸術祭や展覧会を見ること。沖縄の展覧会情報についても書いていきたいと思います。