【作家インタビュー 黒木結さん】人との距離感だったりとかのことを理解していくっていう作品を見せたかったってかんじですね。

「コクとキレ」は京都市立芸術大学の大学院で彫刻を専攻するメンバー11名によって大阪で行われる展覧会です。展覧会に先立ち、出品する作家それぞれの人となりや思考性、作品スタイルについてインタビューを行いました。展覧会は2015年10月13日より、大阪の海岸通ギャラリー・CASOにて行われます。 語り手:黒木結 聞き手:山田毅

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山田:ちょっと作品の話を聞きたいんだけど、このドローイングっていうのは、それぞれにとっての理想の婚姻届とは何かっていうのを描くものだよね?

黒木::そうですそうです。で、それが展示とかで提示されてる状態っていうのを作りたいんですよね。あなたにとっての理想の婚姻届をつくるにあたって、婚姻届って制度だったり、家のことだったり、色んな問題をはらんでいて。でも、じゃーわたしはどの視点を大事にしてみんながつくるかっていうのを知っていきたいんですよね。だからすごい単純な視点でもいいし、どんなことでもいいんです。4回の時に婚姻届の添削の作品を作ったんですけど。赤ペンで、ここは要らないとか、ここはいるとか書くやつを。それは完全に個人の愛っていうのを大事にしたときに、どこがいらないかっていうのをばーっと添削して、いらなかったやつをごっそり取って、パソコンでフォーマットを作って印刷してテイクフリーにしたっていうのをやってて。


  • 婚姻届のドローイングを書く黒木さん

山田:そもそもなんでこんな作品を作ろうと思ったの?

黒木:最初はゲイの友達とかがいて、そのとき周りの友達が結婚し始めたり、おばあちゃんとかに、「おばあちゃんはあんたくらいの年に結婚してたで」とか言われるようになって、
で、結婚ってまず何なんやろう?ってところから始まって、まず同性婚、特にそのときはゲイの友達の話が気になっていたので、じゃあ日本の婚姻届で結婚できないのはどういう人なのかっていうのとかを考えてて。そこをクリアするためには、どういう項目があったらいいのかをずっと考えてたんですよね。でもそれだけやとやっぱ自分の問題ではないので、じゃー自分が結婚するときにどこが要らないと思うかなーっていうのを、本物を見ながら
考えたりとかしてたのが最初かな。

山田:なるほどね。それをさ、作品化しようと思ったってこと?

黒木:なんか、婚姻届を変えようとしている社会の動き、団体とか、LGBTって分かりますか?

山田:ううん。何?LGBTって。

黒木:LGBTっていうのは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、の頭文字を取ったものなんですけど、そのLGBTの性のマイノリティを持ってる人たちが、自分たちが結婚できるために、婚姻制度やいろんな人の価値観を変えるためにデモとかをしてて。そういう社会的な動きみたいなのはあるんですけど、そういう風な動きって、この団体はこういう気持ちです、この団体はこういう気持ちですっていう多数でひとつの意見を言うことによって、数の勢力でその意見を変えようとしてるんですよね。

ただでも、その多数の中のひとりひとりにもいろんな問題があってというのを考えたときに、アクティビスト、社会活動家としてやるよりも、作品を使って、そういうのを全部提示できる風にしたいと思ったんですよね。社会に対して文句を言うためには個人個人の意見ていうのが反映されにくいけど、でもその意見はみんなが共有しとくべきやし、全然違う視点があるっていうのは面白いことやし、私も見たいし、みんなにも見て欲しいなっていう気持ちがあったので。


  • 婚姻届の添削の作品

山田:元々そういう作風だったの?学部の時からアクティビストだったの?

黒木:いや、最初はすごい個人的な、恋愛の話とかを作品にすることが多くて。

山田:それはいつくらい?

黒木:それはねー学部の1回生から…

山田:早い(笑)全然早い(笑)

黒木:1回生から、定期的にやってるんですよ

山田:卒制もそうじゃなかった?

黒木:ずっとやってます

山田:そうだよね。それはなんで?

黒木:それは、直接言葉にできなかったり、いえなかったりすることっていうのを作品にして消化しようとしてたっていうのが一番最初なんですよね。1回生の時とかは。

山田:それは例えば、ドキドキとか、そういうこと?

黒木:全然違います。ネガティブな方向です、全部。別れたときに作ってます。

山田:(笑)だけどその、もやもやみたいなのを…

黒木:もやもやみたいなのを作品にしようと思って

山田:作品化するっていうのは、僕の場合は、この感情はなんだろう、わかんないな、それでも理解したいから物語化して物語ることで、あれってそうだったのかもっていう自己発散的なものでもあるし、自分を理解するためものでもあるし、ある意味での治療とも言えると思うんだけど、その時、今もやってるその流れっていうのはなんなの?

黒木:それは、完全な自己発散ではなくて、山田さんが言ってるみたいな、その問題について考える、別になんで別れてしまったのかっていうのを考えるっていうわけではなくて、
そのときの自分の気持ちと、別れてどれくらいか経った後の自分の気持ちっていうのの距離感を結構感じてたりとか、そこを作品にするっていうのが多かったかな。1回生の時は、別れたところを思い出の品が入っている棺桶をひきずって…。

山田:映像化したの?

黒木:はい。でも、そのときはすごい悲しかったんですけど、新しい人ができて、その気持ちは自分にはなくて、っていうところを考えるための作品でもあった。完全に自分のための作品です。


  • 棺桶を引きずる作品

黒木:2回生の時は、別れたんじゃなくて浮気されたんですけど、その浮気相手ことを他の人とかに聞いたときに、「まあ、でもあの子はね、いい子だからね」みたいな話になって。自分の気持ちと周囲の気持ちがなんでこんなに乖離ているのかっていうのが全然わからなくて。で、今考えるとすごいひどいんですけど、セックスをしている布団の形を焼き物でばーっと作って、展示台の下にそれを置いて、展示台の上の部分をアクリル板にして、そのアクリル板に、twitterで可愛い女の子を装っているツイートを集めてタイムラインを作って、印刷したやつを貼ってたんですよ。

山田:それは、表面と裏みたいなこと?

黒木:そうそう。で、それをやってて、それはかなり直接的にわたしが感じているその子のギャップみたいなものを模型化したみたいな形やったんですけど。でも先生に、現実的なものを視覚化しているけど、ただでもその人がなんでtwitter上で可愛い女の子を装わないといけなかったのかとか、そういうところに対しての理解が足りてないっていう話になったんですよ。で、確かにって思って。普通にそうやなと思って。自分の気持ちと周囲のギャップっていうのをもっとちゃんと理解したりとかするためには、そういうバックグラウンドに対しての理解も必要やし、と思って。


  • twitterの作品

黒木:SNSやったり、人前で性格をなぜ変えるのか、でもそれは自分の上にも起きてて。自分の上に起きていることが、社会のおっきな物の流れにも実際に起きてるんじゃないかっていうのを思い始めて。で、一回アイドルの作品をはさんだんですよ。アイドルの消費っていうのがどういう風に起きてるのか。

山田:偶像みたいなことね。

黒木:で、その作品を作った後に、その作品は社会の方に投げっぱなしになっていて、
自分の立ち位置がわからなくなってたので、じゃあ自分の問題に立ち返ろうと思って
作ろうと思ってたのが卒制の作品で。その卒制の作品は、概要を話すと、彼氏と別れたときに…。

山田:また!また結局別れたんだ(笑)

黒木:別れた別れた(笑) 別れたときに、それをなんで自分がやってしまったのかはわからないんですけど、架空の占いサイト、まあ詐欺ですよね、に3000円課金して。で、話を聞いてもらった。で、なぜそれをしてしまったのかっていうのを考えたときに、そういう大事な話を話せる人がいなかった、じゃあなんで自分はそういうコミュニティの作り方をしてしまっているのかとか、自分と人との距離の取り方っていうのが個人的な問題なのか他の人にも起こりうることなのか知りたくって。それを作品にすることによって、話せなかった自分の話っていうのを、占い師に相談してなかったら相談してたであろう友人たちに聞いてもらって、その3000円の使い方ってそれでほんとに正しかったのかっていうのを聞いて、人との距離感だったりとかのことを理解していくっていう作品を見せたかったってかんじですね。

山田:なるほどね。面白いね。ちょっと変わるけど、今回は展示さ、実験があるじゃん。そういう風にみんなでやるところがあるときに、黒木さんはそこにまず自分がどういうスタイルの作家で、何を実験のあの場で持ち込もうとか考えてますか?

黒木:や、全く考えてなくって。

山田:でも例えば、作家の並びで言ったら自分はこういう作家なのかもっていうのはあるわけじゃん。で、今回の展示でいうと、まあそこが肝っていうか。もちろん個人の作品でももちろんそういことを出していくけど、他者との関係の中でそれをどういう風に表現するのかわかんないけど、なんかそこについてはどう思ってんのかな。だってこないだ素材選んだりとかしたじゃん。そのときには何を出したの?自分の素材はこれだっていうのは。

黒木:それは普通にこないだ作品で使ってたものを出して。わたしこういう作品(婚姻届)作ってるんですけど、めっちゃ物質感があるものが好きなんですよ。ほんとは。

山田:へー。そのさ、じゃあさ、言ったら婚姻届とか、僕もそうだけど音楽とか、形のないものが素材である部分と、素材が好きっていうのはどう繋がってるの。

黒木:なんか、でもわたしこの婚姻届の素材も結構好きなんですけどね。

山田:物質的な話?表面ツルツルだよね、裏ザラザラだよね。

黒木:素材が持ってるバックグラウンドが多分好きなんですよね。石とか、いろんなものが見えてきたり、時間の流れが感じられたりとかっていうのがすごい好きで。その素材が持つ特性が自分の作品に合うと思ったり、作品を展示する場所に合うと思ったからとか、その素材が持ってる、いろんな人から見たときの印象とかそういうとこをいっつも利用して素材を選んでいます。

山田:黒木さんにとって理想の結婚ってどんな結婚ですか?

黒木:なにそのやばいその質問笑 わたしの理想の結婚っていうのは、ほんとは婚姻届なんかなくても自分たちの大事にしたいっていう気持ちやったりとかっていうのがまずあって、そこから生活を作れるっていう関係性を持った結婚っていうのが一番いいなと思ってて。だからわたしは婚姻届いらないんですけど。

山田:え、じゃあ式はどこであげる?

黒木:式!?

山田:式もあげない?あげたい?

黒木:あげんのかなーと思って。多分婚姻届を書く要因も式あげる要因も自分由来じゃなくて、他の人がこうしてほしいからっていうようになってる気がしてて…。

山田:でも結婚式は新婦のものだよ

黒木:って言いますよね(笑)

山田:だから黒木さんはどうかなーっと思って。

黒木:でもわたしパーティーは好きなので、パーティーっていうか人がいろいろ集まってわいわいしたりとかは好きなんで。

山田:大阪?地元大阪だっけ?大阪であげんのかな

黒木:えー、いや、河原とかで挙げたい。

山田:河原!?やめなよ船上パーティーとかにしなよー

黒木:こないだ、これ最高やなって思った結婚式あげている人がいて。それ金沢のバレー部の仲良くしてくれてはるOGさんなんですけど。その人、教会とかであげるんじゃなくって、琵琶湖の原っぱのところで天気がいい日に、新郎新婦が立つお立ち台とかだけあって、机がぽんぽんぽんとあって、机の上にケータリングがあって、正装はボーダーの服なんですよ。

山田:みんな?

黒木:全員ボーダーの服で結婚式着てて。で、金沢のバレー部ってスカジャンがメンバーの服になってるんです。その人は白いウェディングドレスにスカジャンを羽織って、一升瓶の館山を持ってずっと結婚式をあげてたんですよ。それめっちゃいいなとおもって。ウェディングドレスを着たいという願いも叶えつつ、自分の持ってるコミュニティも含めて、周りの人たちは芸大生とかでお金がないから教会とか普通の結婚式場でやると…

山田:お金かかるもんね

黒木:そう。で、そういうところも全部含めてユニークさも忘れない結婚式をあげてて。最高やな!とおもって。

山田:わたしもそういうのしたい?

黒木:したい!って思いました。フィンランドとかでもいい、大草原パーっとなってるとこ。

山田:フィンランド!?急になんかお金かかったけど、急にみんな行きにくくなったけど(笑)

黒木:イメージ!!(笑)

山田:ガーデンパーティ、ガーデンウェディングみたいなかんじか

黒木:そうですね。

山田:なるほどね。ありがとうございました。作品楽しみにしてますね。

京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻展『コクとキレ』
作家|今井菜江 上田純 金昇賢 黒木結 齋藤華奈子 許芝瑜 田中美帆 寺嶋剣吾 林宗将 山田毅 渡辺伊都乃
会期| 2015年10月13日(火)-10月25日(日)
休館日| 10月19日(月)
時間| 11:00-19:00(最終日のみ~17:00) 
会場| 海岸通ギャラリー・CASO
http://www.caso-gallery.jp/exhibition/2015/post-4.html

イベント|
①ミドルパーティー
2015年10月17日(土)16:00-18:30
※11:00からパーティーは始まっています。ピークタイムは16:00からです
②クロージングパーティー
2015年10月24日(土)16:00-18:30

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OTONA WRITER

山田毅 / yamadatsuyoshi

東京から移住して、現在は京都で、編集者をしたり、本屋の店長をしたり、村作りに携わったり、そして再び美術を学んでいます。東京と京都のアート・デザインの世界にまつわるあれこれを配信していけたらと思っています。