【作家インタビュー 今井菜江さん】それが生活の一部なんですけど、彫刻作品っぽいって思ったんですよ。

大阪の海岸通ギャラリー・CASOにて行わる展覧会「コクとキレ」は、京都市立芸術大学の大学院で彫刻を専攻する作家11名による展覧会です。今回は展覧会に先立ち、出品する作家それぞれの人となりや思考性、作品スタイルについてインタビューを行いました。展覧会は2015年10月13日-25日まで開催しています。語り手:今井菜江 聞き手:山田毅

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山田:インタビューはどうですか?

今井:自分の声嫌いなんですよ。

山田:僕も大嫌い。自分の声。

今井:きもいから。

山田:僕もなんかもっとしぶい、舘ひろしみたいな声出したいんだけどなー。

今井:高いですもんね。

山田:うん。録音したのいっぱい聞くじゃん、そうすると毎回、はぁーって。

今井:ははは…笑 なんか大きい声出さないと、ちゃんと声が出なくって、ちっちゃい声だと何か空気だけが。おなかから声が出せなくて。

山田:なんで?腹筋ないの?

今井:腹筋めっちゃあるんですけど、使い方がわからなくて。

山田:腹筋の使い方?めっちゃあるのに?

今井:腹筋めっちゃあるんですよ…笑

山田:あれ、運動部だっけ?

今井:中学高校陸上部で、長距離と競歩…

山田:競歩ってさ、部活があるの?

今井:陸上部の中で、インターハイとかあるじゃないですか。総体の中の3000mとか1000mとかみたいな感じで。私の時は女の子3000やったんですけど、何年か経ってから5000になって。5000m競歩。トラックずっとぐるぐる回るんですけど50mおきに審判がいて、膝曲がってたら、膝曲がってるよっていう指示のマーク。

山田:膝曲げちゃいけないの?競歩って?

今井:地面につくときに。蹴ったときは、そりゃー膝絶対曲がりますけど、地面につくときにここ(膝)伸ばしてないと。


  • 競歩のルールを教えてくれる今井さん

山田:へえ〜。

今井:それが、注意と警告ってあるんですけど、出されたときはどっちかわからないんですよ。で、ゴール地点にホワイトボードがあって、そこに丸がつけられていって丸が付いたら今の警告だったってことで、3つ丸ついたら失格になるんですよ

山田:すげえなー。競歩ってそんな競技なんだ。

今井:そうですね。なんかもう長距離走ってても私そんなに速くないんで、でも表彰状とか欲しいから。それがないと頑張れないじゃないですか。いいとこまでいかないと。それで競歩人数少ないし、技術なら上げれると思って。体力よりも技術面が問われるから。それやったらいけるかもと思って。頑張って…兵庫県三番…笑

山田:兵庫県で?競歩で三番?なにその経歴…面白いね。

今井:兵庫県しかもレベル高いんですよ、めっちゃ。

山田:1位にはなれなかったの?

今井:1位はやっぱりスポーツ強い学校で、でも歩き方が、走ってる?くらいのすれすれをいってて、結構ーあれ?走ってない?みたいな。でも、そのすれすれができなくて。

山田:それは違うって?

今井:そこが弱かったかなと。

山田:その時美術はやってたの?

今井:全然やってないです。全然やってなくて(美術部とかではないという意味)。なんか、高校がちょっと賢い高校だったんですけど、全然勉強する気が起きなくて、高1の時からずっと下の方で、宿題もやらないし、でも大学はいかなあかんなと思って。

山田:進学校ってことだよね、まわりはみんな行くってことか。
今井:でも勉強したくないから、美術に行こうって笑 それで、画塾通い始めて、画塾通いながら部活して、画塾でデッサン中にめっちゃ寝て怒られたりしてました。

山田:つまんないもんね。

今井:嫌いでした。

山田:そのときは何をしようとかあったの?

今井:ずっとデザインを受けるつもりでやってて。全然まず京芸以外の美大のことも知らなくて。なんか美大行こうと思ってどこがいいですかって聞いたら京都芸大がレベル高いよって言われて、あ、じゃあそこ行きますって感じで。美術とはそんなに縁がないていうか、デザインとかかっこいいって思って。ものすごいミーハーなんですけど。でも1番倍率も高いし、デッサンとかも全然下手だったんで。普通に落ちてから、やっと調べようとおもって。まず京芸の先生を調べたんですよ。先生自体知らないし、芸術家って知ってて草間彌生やったんですよ。美術って。それで先生たちの作品見たときに、彫刻ってミケランジェロとかしか知らなくて。そしたら、え?あれ?ってなって。むっちゃ楽しそうやなって思って。もう浪人の時から彫刻行こうって。

山田:そんときから、わりと彫刻を意識してたんだね。それはさ、彫刻家になりたいとか思ったの?

今井:今でもそうなんですけど、彫刻家になろうってあんま思ったことなくて。先のことがみれないんですよ。とりあえず大学4年間を楽しく過ごそうっていう気分で。絵書くのはそんなに好きじゃなくなってて。小さい時は好きやったんですけど。だんだん上手い下手とかが意識されてくるようになると、絵書くのがすごい嫌で。でもモノを組み立てていったりとかするのは好きやったんで、やっぱ彫刻が多分自分の気持ち的にも向いてると思って。

山田:なんかさ、僕も陸上部だったんだけど、彫刻って割と身体でわっとやる感じがスポーツに近いっていうか、結果がどうとかじゃないけど、すごい気持ちのいい疲労感とか。うわ~めっちゃ筋肉痛だわ~とか。

今井:あります。彫刻って搬入とかも結構しんどいじゃないですか。それがめっちゃん楽しくって。人がみんな疲れていく中、自分だけが元気でいられるのが嬉しくって。

山田:ちょっとやっぱ体育界系っていうか、競うところあるんだね笑

今井:そうなんですよ。やっぱり。体力とかは一番ある人間でいたくて。みんなの中では、私は体力ありますよ。みたいな。そこだけでもアピールしたい!

山田:ちょっと話は変わるけど。ずっと彫刻をやってるわけじゃないですか、今のスタイルっていうのは、まずどんなスタイルですか。

今井:今のスタイル…

山田:なんか今回の展示って、自分ってどんな作家とか、どんな技法使ってるとか、わりとキーポイントになってくるかなと思うんだけど、まずは今、大学院に入った現時点ではどんなことをやってるのかなって?

今井:なんか本当に定まってないっていうのはあるんですけど。学部の時から。ただ、ちまちましたことはできるので。ちまちま縫ったりとか、木彫をコツコツほったりとか。チェーンソーとかグラインダーとかを使いたくなくて。そういうのの集積っていうのはずっと学部の時からあるんですけど。

山田:自分の手で何かをやりたいってこと?

今井:そうです。手でめんどくさいことをやるって感じで。でもむしろそっちの行為自体に焦点を当ててたんですよ。2回生の制作展で出したのが、自分の身体でどれくらい造形できるのかをみたくて、木を指で彫るっていう作品で。

山田:木を指で?


  • 木を指で彫った作品

今井:指で。大きい松の丸太があるんですけど、ひたすら指でほじっていって。

山田:…笑 それはやばいね。

今井:それでできた溝の形って意図してない形で、それがすごい面白くって。そのあと3回生展でやったのが、ザルにひたすら粘土を押し付けて竹串でぐにゅって出てくるのをほじって、焼いて。それも素材や質感によってコントロールしきれなくて、それによってできる偶然の形がすごい面白くって。偶然の形がむっちゃ好きやなってなって。人間もすごいいっぱい生み出してるなって思って。わたしはすごいだらしないんで、家とかでもパジャマから学校行く服とかに着替える時に、そのへんにズボン置きっぱなしにして家出てきちゃったりとか。でも、それわざとじゃなくて、癖になっちゃってるから、脱ぎっぱなしにしてることさえも忘れて出てきちゃって、すごい怒られるんですけど。たまにちょっと脱ぎっぱなしを置いたままニヤニヤしながらほったらかしてる時もあって。なんか形がめちゃくちゃ魅力的だなと思って。しかもそれが生活の一部なんですけど、彫刻作品っぽいって思ったんですよ。形が魅力的とか、素材感が気になるってそういうことかなって。そっからモチーフに。偶然の形が好きやったってのは割とずっとあって。

山田:そういう視点持てると見るもの見るものそう見えてくるってことあるよね。

今井:そうなんですよ。だから人のものも自分ではコントロールできないから面白くて、どの家庭にも作品置いてあるな、みたいな気分になるんですよ。今はホースの束ね方とか散らかり方とかが割と気になって。そういうのを作ろうとしてるんですけど。なんか、みんなもの作ってるなって。それがすごい楽しくって。どうしても一般の人とつながりたい気持ちがあって。美術やるって言っても、見に来て欲しいのは友達とかやったりするんですよ。ギャラリストとか美術評論家とかじゃなくて。お父さんお母さんとか友達とかに見に来てほしいってのがあって。

山田:そこにはその人たちを楽しませたいって言う気持ちがあるってことだよね。

今井:そうですね。あと、人の家の洗濯物を写真撮るっていうのをやってました。でも結構ビビっちゃって、なかなか撮れなかったんですけど。犯罪っぽいじゃないですか。

山田:まー犯罪だね笑

今井:そう、犯罪だから、人通ったら、見えへんふりしたり、空撮るフリしたりして、全然撮れなかったんですけど。人の物干しもなんかそういう作品の展示してるみたいに見えてきて。でも各家庭によって、お父さんが電気工事してる家やったら、作業着がいつも干してあったりとか。一様じゃないのが、個性が出るのもむっちゃ楽しくって。


  • 今井さんが撮影したお気に入りの写真

山田:めっちゃおもしろい趣味だね!それは写真として発表しようと思ってるの?

今井:それは自分の中で見てニヤニヤしてるだけの段階なんですけど、まだ。とりあえずスクラップブックに貼っただけで、まだまとめてもなくて。

山田:ちょっと素材の話も聞きたいんだけど、そういうやっぱ人間性が出やすい布とかホースとかのやわらかいものとかのほうがいいの?

今井:そうですね。可塑性…可変の…あるものかな。

山田:なんか今の話だと、洋服とかホースとか、なんとなくわかりやすいんだけど。例えばほかに、わたしが見つけたものとかある?

今井:壁の黄ばみとかも割と気になる…わたしのお兄ちゃん、階段降りるときに壁を触りながら降りるんですよ。そしたら、そこらへんだけちょっと汚れてて。そういうのとかも見つけたら、動きが見えるじゃないですか。正確ではないけど、想像ができるじゃないですか。そういう感じ。だから人のシワとかも。目尻にシワがあったら、この人いっぱい笑って生きてきたんやろうなぁとか。単純にそういうの。その人が想像できる感じ。動き。

山田:どっかで、無意識でも意識的でもいいんだけど、人間の行為があるんだろうね。そういうものがあって、そこに残ったものとか、そこに愛らしさとかだらしなさとか人間らしさがあるんだろうね。今の話につながると思うんだけど、今回は、実験的なアプローチをする部屋で、それぞれが自分が使ってる素材とかを持って行ってたりすると思うんだけど、素材は何を持っていこうと思ってるの?

今井:一応集めたうちに入れたのは、ワタと布なんですけど。でもそんなに複雑な素材を使ったこと今までないんで、みんなが集めてきた木材とか…。


  • 今井さんのアトリエにある布や綿たち

山田:じゃあ、ほかの人と一緒に何かをやろうって時には何か考えてるの?

今井:考えてないです

山田:じゃあ、もう行ってから?

今井:なんか、考えちゃうとそれしか見えなくなっちゃうんですよ。決めたあとに別の方法とか、いや、これは違うんじゃないか?って考えたりするのが苦手なんで。作っちゃうとそればっかりになってしまうので、頑張って今はイメージをつくらんようにしてます。

山田:なるほどー。なんか楽しくなりそうですね。

今井:インタビュー全然論点が定まってなくて…わけわかんないですね。すいません。

山田:いえいえ、大変楽しませてもらいました。ありがとうございます。

京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻展『コクとキレ』
作家|今井菜江 上田純 金昇賢 黒木結 齋藤華奈子 許芝瑜 田中美帆 寺嶋剣吾 林宗将 山田毅 渡辺伊都乃
会期| 2015年10月13日(火)-10月25日(日)
休館日| 10月19日(月)
時間| 11:00-19:00(最終日のみ~17:00) 
会場| 海岸通ギャラリー・CASO
http://www.caso-gallery.jp/exhibition/2015/post-4.html

イベント|
①ミドルパーティー
2015年10月17日(土)16:00-18:30
※11:00からパーティーは始まっています。ピークタイムは16:00からです
②クロージングパーティー
2015年10月24日(土)16:00-18:30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

OTONA WRITER

山田毅 / yamadatsuyoshi

東京から移住して、現在は京都で、編集者をしたり、本屋の店長をしたり、村作りに携わったり、そして再び美術を学んでいます。東京と京都のアート・デザインの世界にまつわるあれこれを配信していけたらと思っています。