6月13日(水)、デザインハブのリエゾンセンターで開催された
■第1回「デザイン経営」宣言 カンファレンス〜15年ぶりのデザイン政策提言についての公開ディスカッション
に行ってきたのでそのレポートを。
経済産業省・特許庁が2017年7月にデザイナーやデザイン担当役員、経営コンサルタント、学者などが委員を務める「産業競争力とデザインを考える研究会」を立ち上げ、予定を延長して11回に及ぶ議論の末、5月23日に報告書「【『デザイン経営』宣言」が発表されました。
それを受けて、日本デザイン振興会さんが協力する形で緊急に2回のカンファレンスを開催することになった、と。
参加者は、見た感じだとスタートアップやベンチャー企業系の方、美大・デザイン関係者が多かったんじゃないかしら?
会場は満席。1日でチケットは売り切れたそうで、注目されてる方が多いってことですな。
研究会委員は、
・梅澤 高明| A.T. カーニー株式会社 パートナー/日本法人代表
・喜多 俊之| 株式会社喜多俊之デザイン研究所 所長
・ 小林 誠| デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 知的財産グループ シニアヴァイスプレジデント
・田川 欣哉|株式会社タクラム・デザイン・エンジニアリング代表取締役 英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授
・竹本 一志| サントリーホールディングス株式会社 知的財産部長
・田中 一雄|株式会社GK デザイン機構 代表取締役社長
・永井 一史|株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
・長谷川 豊|ソニー株式会社 クリエイティブセンター センター長
・林 千晶|株式会社ロフトワーク 代表取締役
・前田 育男|マツダ株式会社 常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当
・鷲田 祐一|一橋大学大学院 商学研究科 教授
という方たちで、デザイン素人の手羽でも知ってる名前がチラホラ。
7月にも2回目のカンファがありますが、委員のほぼ全員が登壇するっていうんだからメンバーの気持ちの入れようがそれだけで伝わってきます。
久しぶりに面白いカンファレンスに参加できたので、書きたいことがいっぱいあるんだけど、2回目に参加される方もいるので、ネタバレにならない程度に、このあたりなら大丈夫だろう、というところだけ書いときます。
会場にはJDNさんとかメディアの方も来てたので近日中に記事がアップされるでしょうし。
全11回に渡る研究会の議論で実は一番多く時間を占めたのが「で、そもそもデザインって何よ?」という話だったそう。狭義or広義、スモールDorビッグD、モノorコト、本当はどっちのデザインが大事なんだ!?って話ですね。
「モノの力」信仰派は「デザイン思考とかいい加減なことをいうな!お前らはポストイットを壁に貼って満足してろ!」だし、一方「ビックデータ、サービスの時代に何言ってるんだよ!お前らは絵だけ描いていつまでも下請け意識でいろ!」だし。
で最終的に出た結論が、
この二つの円で、「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」とデザインの仕分けを変え、その交わりの「デザイン経営」が企業の産業競争⼒の向上に寄与するんだ、と。
orではなくandの考え方。
このソーシャルな時代、クライアントも洗練された経験をしてきてるから、クラフトかイノベーションかの選択ではなく、結託した総合格闘技状態じゃないとダメ。
どっちが大事かではなく、企業のキャラクターや得意面によって選ぶべき丸の大きさや交わり方のバランスが変わるのは当然で、例えば同じ自動車メーカーでも世界的なトヨタと世界シェア2%のマツダじゃ当然違う。
ここで注意しないといけないのが、「『デザイン』の効果」ではなく「『デザイン経営』の効果」であること。「デザイン経営宣言」ではなく「『デザイン経営』宣言」とカッコであえて括ってるのは意図的なものだそう。
前半は、研究会を通じて浮かび上がった問題意識や報告書の趣旨、そこに込めた思いを各委員が解説されました。
そして後半は休憩ののち、参加者が色違いのポストイットにKPT(Keep、Problem、Try)に分けて書いたことをもとに次のステップを構想していきます。
参加して「驚いたこと」「感動したこと」「確信したこと」がそれぞれありまして。
何が一番の驚きって、経産省によるデザインを主題とした大きな政策提言は、2003年の「戦略的デザイン活用研究会報告書『競争力強化に向けた40の提言』」以来15年ぶりだってこと。
15年前ってiPhoneもなかった時代ですよ。信じられます?その頃から経産省はデザインに関する大きな提言をしてこなかった、必要と思ってなかった、と知ってすんごく怖くなりました。
だから「報告書は海外の成功事例ばかり」「意匠法の改正がチラチラ見える」等意見もあるようですが、ようやく世界よりずいぶん遅れて国がデザイン提言したことを褒めてあげたいし、ようやくスタートラインを設定してくれた委員の方に感謝したいと思ってます。
「感動したこと」は、ロフトワーク・林さんのファシリテーション能力・・というか人間力です。
その場でどんどん新しい「つながり」を作ろうとされてて、「『私はこういうことが協力できます』というまで会場から皆さんを出さないつもりです」とおっしゃってました(笑)
「カンファレンスを聞いて勉強になりました」「それは違う」と思うだけではダメで、「自分事」として捉えようよ、ってことですね。
よし、「ムサビとして協力できること」を考えた結果、次回7月13日のカンファレンスの後、デザイン・ラウンジで懇親会を開くことにします!
熱量のあるカンファだから、もっとしゃべりあいたいし、想いを共有したいし、仲間を増やしたいですよね。なので参加される方は終わった後、リエゾンセンター横の武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジにお越しください。あ、2回目もすぐに定員に達したので今から申し込むことはできないのであしからず。
そして「確信したこと」は、「ああ。このタイミングで他より一歩早くクリエイティブイノベーション学科と大学院クリエイティブリーダーシップコースの構想を発表したことはやっぱり正解だったんだな」ということ。すいません。また宣伝になってしまって。でもだって「デザイン経営」宣言、そして今日の話を聞いてそう思わない人はいないはずっすよ(笑)
■武蔵野美術大学 造形構想学部・大学院造形構想研究科特設サイト
学部のクリエイティブイノベーション学科はアートとデザインの造形教育をみっちり最初の2年間やって、そこから市ヶ谷キャンパスでビジネスとクリエイティブを融合させた実践的なカリキュラムをやる予定だし、大学院クリエイティブリーダーシップコースはまさに「デザイン経営」宣言で語られている「デザイン責任者」人材育成そのもの。
6月26日(火)夜 に社会人向け新大学院説明会をデザイン・ラウンジでやるので、興味のある方はぜひ。
■武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース 社会人向け説明会
ただ、会場でも声がありましたが、ロフトワーク・林さんに企業の方が「うちのデザイン経営を一緒に考えてほしい」と相談した段階で、つまり「ロフトワーク」という会社の存在を知ってるだけで実はその会社のデザイン経営は成功の可能性があるとも言えます。
問題は「ロフトワーク」という会社の存在を知らない企業なんですよね。少しでも調べればヒットするはずだけど、多分知ろうともしない。
これは私たちがいつも抱える課題なのですが、例えばこのカンファレンスに参加してる人たちは「デザイン」「デザイン経営」が大事だと既に気が付いてる人達で、いってしまえば身内。身内以外の人にどうすれば必要性が伝わるのか。伝えやすくなるのか。
これは「美術教育・美大の必要性」も同じだし、新学部・大学院もそうでして・・。
やはり日本で「デザイン経営」による成功事例を数年以内に複数出すことしかないんだろうなあ。
あ、コンセントの長谷川さん・・いや、クリエイティブイノベーション学科就任予定の長谷川さんも会場にいたのか。
林さんがこのメンバーで「デザイン経営」に関する本を1冊出したいとおっしゃってたし、ニュースピックスさんで7月末から「デザイン経営」の連載が始まるそうだし、日本デザイン振興会理事長が「これからはグッドデザインだけじゃなく人材育成にも力を入れる」とはっきりおっしゃってたし。
日本デザイン振興会さんはこれから大変になりますね。
Y島さん、一緒に頑張っていきましょ。ムサビは・・少なくとも手羽は協力する気マンマンですから(笑)
以上、昨日デザイン・ラウンジでは、
ノンデザイナーがビジネスに活きるデザインを学ぶ学校「WEデザインスクール」を開催してたし(こちらも満席)、今日6月14日は社会をよくするデザインの学びと研究する楽しさを追求する「Xデザイン学校」公開講座が開催されるんだけど、6年がかりでいろんな点がつながってきてるような気がする手羽がお送りいたしました。
【美大愛好家】 福岡県出身。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒。 2003年より学生ブログサイト「ムサビコム」、2009年より「美大日記」を運営。2007年「ムサビ日記 -リアルな美大の日常を」を出版。三谷幸喜と浦沢直樹とみうらじゅんと羽海野チカとハイキュー!と合体変形ロボットとパシリムとムサビと美大が好きで、シャンプーはマシェリを20年愛用。理想の美大「手羽美術大学★」設立を目指し奮闘中。