芸大生・美大生だからこその起業
——最初にそれぞれが起業したきっかけから教えてください。まずは加藤さんから。
加藤:もともと僕は武蔵野美術大学の芸術文化学科というところにいたんですけれど、早々にものづくりでは勝てないなと痛感して、お笑いとか演劇とか、本流じゃないところで勝負していたんです。でも、大学3年生のときにその活動にも限界を感じて、別のステップを踏もうと考えるようになりました。それで、いっそのことリセットして美大生がいない環境でチャレンジしてみようとベンチャーキャピタルのインターンに参加することにしたんです。割り当てられたのは、投資先となる企業の社長たちが集まるシェアオフィスの受付。当然ながら、そこには美大生なんて1人もいなかったんですけれど、逆にそれでおもしろがられて。そのうちロゴやウェブデザインを頼まれるようになりました。でも、自分ではできないから、大学の友人たちに仕事をお願いするようになり、その流れで4年生のときに起業して今に至ります。
——では、松江さんは?
松江さん:僕は大阪芸術大学の建築学科に在籍していたんですけれど、卒業制作とかぶってまともに就職活動ができなくて。そういう境遇にある芸大生・美大生ってけっこう多い気がしたんです。それでインターネットを活用したポートフォリオサイトをつくったら、もう少し就職活動を楽にできるようになるかなと思ってはじめたのが「Gashoo」なんです。
——就職活動と卒業制作の時期が重なるのは、芸大生や美大生にはよくあることなのでしょうか?
松江さん:もちろん学科とかにもよるんですけれど、ファイン系かデザイン系かでけっこう分かれますね。
加藤:ファイン系の人だと就職せずに自分の作品で勝負したいっていう人もいます。もうチキンレースの世界。早々に作品制作を諦めるか、成功するまでなんとか食いつなぎながら続けるかっていう。
松江さん:ただ、ちょっと潮流が変わってきているなと思うことがあって。最近はSNSを活用する学生が増えているんですよ。僕の友人にもInstagramに作品を投稿して販売しているヤツがいるんですけれど、海外の人から買いたいと連絡が来ることもあるらしくて。そういう意味では、今ではダイレクトに世界とつながれるから、少しずつですけれど就職しない選択肢もリスクを下げながらできるようになっている印象はあります。
——そういうことって10年前だとそんなになかったですよね?
加藤:そうですね。僕が大学生だった頃は、基本的にはリアルな場所に人を集めるのが主でした。自分でホームページを制作するとか、当時流行っていたmixiをホームページ代わりにして個展の告知をするぐらいしかできなかった。
松江さん:それでいうと、最近の芸大生・美大生はあんまり画廊やギャラリーを活用しなくなっているかもしれません。やっぱり費用の面でしんどいんですよね。2、3日置くだけで3万とか4万とか、高いと10万くらい取られますから。そこにお金を使うのであれば、ひとつでも多く作品を制作する方に充ててしまうと思います。それでSNSで情報発信をして、興味を持ってくれた人とつながるというのがスタンダードになっているなと。
——ネット発でリアルにつなげていくと?
松江さん:そうですね。あとはコンビニのネットプリントのダウンロード番号だけを公開して、勝手に印刷してポストカードにしていいですよっていう取り組みをしている人もいますね。
——作品の情報化がはじまっているわけですね。そういったSNSを活用した例がさまざまにある中で、あえてGashooをやっていこうと考えたのは何か理由があるのでしょうか?
松江さん:ポートフォリオサイトと名打ってますけれど、僕らがやりたいことって美大生・芸大生のコミュニティづくりなんですね。それも雑多な。僕、特化型のサービスってあんまり好きじゃなくて。というのも、そういう場所って自分の好きなものしかないじゃないですか。でも、文化って多様なコミュニティのつながりの中で生まれる気がしていて。だから、さまざまなクリエイターが入り混じった環境をつくりたいんですよ。ガシューは、社会を変えるのではなく、仕組みを変える方向に足並みを揃えていきたいんです。
世代で考える芸大生・美大生の意識の変化
——芸大生・美大生の中で世代間の違いを感じることはありますか?
加藤:僕たちの上の世代のクリエイター像で思い浮かぶのは、いわゆるトップクリエイターみたいな方が多いと思うんですよね。佐藤可士和さんとか、森本千絵さんとか。そういう方たちがひとつのモデルとされていたのが、僕たちの世代だと思うんです。まずは代理店や制作会社に入って、そこから個人事務所独立するというビジョンがなんとなくあったかなって。ただ、上の世代と僕たちの世代で明らかに違うのは、僕が所属しているTYMOTEもそうなんですけど、そこまで個人の名前が立つことに固執していないんですよ。個でありながら繋がりあって共創するみたいな。
松江さん:それで言うと、僕たちの世代って誰かに憧れること自体があまりないかもしれません。それ以上に自分のやりたいことに貪欲。今ってひとりで何でもできるようになっているし、SNSとかYouTubeを使えば発信もできる。だから、憧れのクリエイターがいるかと聞かれると、思い当たる人がパッと出てこないんですよね。それに好きなものもすごく細分化されている気がして。例えば、音楽でもアーティストが好きというより、曲単位でこれが好きっていうことの方が多いんですよ。なかにはアーティスト名も曲名もわからないけど好きみたいなものもあったりして。
——YouTubeの関連動画やSpotifyの自動再生を通じて出会う機会も増えていると聞きますよね。ちなみに、加藤さんは下の世代について感じることはありますか?
加藤:今日も松江さんと会って思ったのは、良い意味で芸大生・美大生っぽくないなと。うちに来るインターンの子を見ていても同じような感覚なんですけれど、誰もがネットで繋がっているからこそ、芸大・美大特有の“村社会感”がないというか。芸大とか美大ってけっこう山の中とか森の奥とか、ちょっと社会と隔離されたような場所に校舎があったりするんですよね。だからこそ、皆がものづくりを突き詰めている特有の連帯感だったり趣向性みたいなものが生まれたりしてきたと思うんですけれど、もうそういう時代でもないのかなって。芸大・美大自体のあり方も変わってきてますし、今後はもっとクリエイティブをバックグラウンドにしながら、どんどん他分野を横断していくんでしょうね。スラッシュ世代に期待です。
これからの芸大生・美大生が目指す未来とは?
——芸大・美大を通ってきた起業家だからこそ、これからのクリエイターの働き方が見えてくる部分もあると思うのですが、そのあたりについてはどのように考えていますか?
加藤:よく言われていることですけれど、今って社会全体が個を中心とした評価経済になっているじゃないですか。それに伴ってものづくりの在り方もクリエイティブ業界も変わってきていると思うんです。原点回帰というか、個のつながりの中でいろんなことが回るようになっている気がして。そのなかで本当に良いものを世の中で機能させ、さらに新たな価値を生み出していく存在として、今の芸大生・美大生が担う役割は重要だなと思います。どの業界も革新されていくこの変化の時代に、クリエイティブによって社会を牽引するようなリーダーの必要性を感じています。
——そのようなリーダーが必要とされている現在、そして今後10年を見据えて、どういうビジョンを持っていますか?
加藤: さらにクリエイターの可能性を信じています。そして、これからの社会に必要な共感の集合体となる新しいクリエイティブのインフラをつくりたい。クリエイティブをつくる人も、支える人も、伝える人も、僕らの考えに共感する組織や人を巻きこみながら、あらゆる事業でつながって多角的に挑んでいきたいと思っています。
——松江さんはいかがですか?
松江さん:これから先、AIとかロボットとかの技術が発達したら人間の仕事がなくなっていくと言われていますよね。けれど、僕はそれによって自分のやりたいことにコミットできる人が増えていくと思うんですよ。だからこそ、個人が自己実現のために何をすべきか考えていく必要があるし、人生の楽しみ方を模索していくべきなのかなって。
——そのなかでどういうふうにコミットしていきたいですか?
松江さん:僕は、身近な人が笑ったり喜んだりする瞬間をもっと生み出していきたいんです。そのためにクリエイターの活動をもっと支援していく必要があるなと思っていて。例えば、花火を見たら綺麗だなと感じますよね。でも、そもそもの花火をつくる人がいなかったらその感情って生まれないじゃないですか。だからこそ、僕たちは花火職人の側を応援したい。そのための手段としてGashooを利用できるようにしていきたいと思っています。
加藤晃央
株式会社モーフィング代表取締役、世界株式会社共同代表、BAUS発起人。2006年、武蔵野美術大学4年生時にモーフィングを設立。2013年には同世代のフリーランス化や独立起業の流れを感じ、個が集結できる場所としてクリエイティブアソシエーションCEKAIを設立。2017年にクリエイティブプラットフォーム「BAUS」を立ち上げる。
松江翔輝
株式会社ガシュー代表取締役。大阪芸術大学建築学科卒業後、京都造形芸術大学大学院へ進学。それと並行して、優秀なクリエイターが企業や社会と出会うことなく埋もれていく状況を解決するために、社会とクリエイターを結びつけるサービス「Gashoo」を2016年に立ち上げる。
(写真・佐々木康太 文/編集・村上広大)
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