11ヶ月働き1ヶ月休む会社 ワヴデザイン松本龍彦

世の中を生き抜く術・勝ち残る術」をテーマに、建築界の異端児の異名をとる建築家松葉邦彦が今話したい人物と対談、インタビューを行い、これからの世の中を生きて行く学生や若手に伝えたいメッセージを発信します。第18回はワヴデザイン株式会社代表取締役の松本龍彦さんにお話を伺いました。

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松本龍彦
アートディレクター。Wab Design INC./ワヴデザイン株式会社は、プロモーション・ブランディングを中心に、ウェブ、アプリ、プリンティング、ムービーの制作を手掛けるデザインスタジオ。主な仕事に1LDK、CA4LA、shu uemura、渋谷VISIONなど。アジア太平洋広告祭、ニューヨークフェスティバル、広告電通賞グランプリなど受賞。http://www.wab.cc/

カッコいい大人に憧れて

松葉:「Outsider Architect」の18回目は、はワヴデザイン株式会社代表取締役の松本龍彦さんにお話を伺っていこうと思っています。まずは創業までの経緯をお聞かせいただけますでしょうか?

松本:大学を卒業後に2年ほどFAMOUZというアパレルブランドの販売員をやっていて、その後は独学で学びつつ、デザイン事務所のグラフィックデザイナー、アパレルのグラフィックデザイナーを経て27歳で独立しました。
  
松葉:27歳での独立・起業というのは早い方ですよね?

松本:アパレル時代の友人が数人起業をしていて、その仕事を引き受けているうちになんとなく自身も起業したという感じです。当時は既にパソコンがあればロゴやフライヤーなどのデザインが出来てしまう時代で、参入障壁が低かったので軽い気持ちでやりだしました。はじめは友達とシェアしていた自宅の一室から1人でスタートしましたが、仕事もあまりなかったので、パソコン学校の先生なども掛け持ちでやりながら、という感じでした。

松葉:なるほど、アパレルのバックグラウンドがあるということもあるのですが、今お話を伺っているオフィスも天井が高くておしゃれで、まるでアパレルの店舗のような感じですよね。


  • 松本龍彦

松本:そこからの影響は凄くあると思います。というのも22歳で始めて働いたアパレルブランド(前述のFAMOUZ)の事務所が明治通り沿いの外国人仕様のマンションの一室だったのですが、部屋ごとの扉もあまり無く異国情緒が漂っている空間で、そこでブランドの代表が大きな犬を飼っていたり、アーロンチェアーに座っていたりという感じで、「こんなカッコいい大人がいるんだと」衝撃を受けました。というのも、今までは、働く=サラリーマンでスーツを着る、という価値観しか持っていなかったので。こういう大人になってもいいんだ、という新しい価値観に出会った瞬間でした。

松葉:僕も20代前半の頃はとあるアパレルブランドの店舗に出入りしていたので、その気持ちは良くわかります。カッコいい大人達が遊んでくれるからという理由で、大して好きでもないのに渋谷や六本木やクラブに行ったりして。ちなみに、起業時から法人化をされたのですか?

松本:最初の1年は自宅で作業をしていました。その後友人のオフィスの一角を間借りして1年位経った頃にそろそろ手伝ってくれる人が欲しくなり、会社にすれば人が入って来てくれるかなと思い有限会社にしました。そして、翌年の2006年に株式会社に移行しました。理由は特になく、株式会社の方がよりしっかりしているイメージを持ってもらえるかな、位のものでした。

松葉:現在、20名ほどのスタッフがいらっしゃるとのことですが、デザイン事務所としては結構な大所帯ですよね。どのようなタイミングでお仕事が増えていったのでしょうか?

松本:5〜6年前くらいから広告案件の取引をするようになったのですが、そのタイミングからでしょうか。大きなお金が動く仕事なので、なんとなくですが先行きが見えるようになってきて、人も多く採用出来るようになりました。広告案件を適宜やらせてもらいながら、他案件もさせてもらい、今に至るといったところです。

徒歩圏内に3つの路面オフィス持つ事とは

松葉:オフィスが複数箇所あるとお聞きしましたが。

松本:オフィスはここ含めて3カ所あります。全て徒歩圏内にあり行き来も容易です。ちなみに、オフィスは1階を気に入っていて、すべての事務所が1階です。というのも1階であれば、何かあった時に、お店にしたり、オフィス以外のことが出来る。これから1カ所はギャラリーとして使用したいと思っています。(現在はギャラリーとして稼働中。 http://wdigallery.jp/

松葉:路面の物件は賃料が高いという印象ですが?

松本:予算にはまる1階を探すという感じですね。1つめのオフィスはたまたま1階が空いていたから借りたのですが、借りてみたら実に面白い。というのも、出入りしやすいこともあってか営業の人が勝手に入ってきたり、携帯充電させてくださいなんて人も入ってくる笑。外との接点もあるから天気も感じやすいし。意外とデスクワークをするには良い環境かなと。もちろん、上の階には上の階なりのメリットもあると思いますが、やはり1階にしか無い魅力があると思います。その面白さに気づいてきた時期に、隣の物件が空いて、1カ所じゃ手狭になってきたこともあり、そこも借りたのですが、同じ看板が2枚も並んでると近所の人が来て仕事を頼んでくれたりもします。路面で2カ所やるとさらに面白い。

松葉:僕も実は路面で事務所をやってみたいと思って物件を探したことがあります。というのもやはり、街との接点が生まれたり、その場所がメディアとして機能し始めたりするのではないかと考えたからなのですが、やはりそうなのかと改めて思いました。これからも平面展開していくのですか?

松本:常に物件探しています。気になる物件を見つけたらとりあえず電話して家賃とか聞いたりしますね。そこまで使う気がなくても探すのが楽しいですし、場所があるからなにか始めるというのもいいと思うので。

11ヶ月働き1ヶ月休む会社の真意とは?

松葉:ネット等で 「11ヶ月働いて1ヶ月休む」という試みが話題になりましたが、詳しくお聞かせいただけますしょうか?

松本:2012年から始めた試みでして、土日祝日以外に1ヶ月の長期休暇を取れるというものです。休暇中は旅行に行ってもいいですし、語学留学をしてもいい、習い事や趣味に費やしてもいいというものでして、1ヶ月の休みを使って普段はできないことに思い切って挑戦してもらえたらと思っています。この試みを始めようと思った理由は主に3つです。まずは、僕自身がよく働いてよく遊ぶというスタイルが好きであるということです。仕事やスキルを上げるのには本を読んだり真面目に努力していくことが必要だけれど、やりすぎると疲れてしまう。自分も休みの日にもデザインのことを考えたり、勉強のために美術館にいくのも嫌いではないけど、時には全く関係のない漫画読みたいなと思ってしまう。第2に、ゆとりやバランスを取ることが必要だということです。会社が長く続いた方が長くデザインの打席に立てるし、そうすればホームランを打てたりもする。だから会社が長く続くためにも、デザインを長く続けるためにも、うまい休みのバランスが必要だと思いました。最後は他社との違いをつくりたいという想いです。というのも、いいものをつくっているデザイン会社は正直たくさんあります。ですので、お客さんにとっていいデザインを提供し合っていても、他社との違いはつくれません。ですので、デザインだけでなく自分たちの働き方のスタイルなども含めて魅力的に思ってもらうことが必要かなと考えています。


  • 松葉邦彦

松葉:クリエイティブ系業界全般に言えることですが、ブラック企業だらけですからね笑。建築設計事務所もブラック企業だらけでして、同業者から家に帰れないで徹夜をしたり事務所の床に寝袋を敷いて寝ているという話を聞いたりしますし。

松本:若い頃は徹夜や土日出勤もしていましたが、でもそれでは長く続かないと気づきました。また、時代も変わってきたのだと思います。

松葉:ちなみに実施状況はどうなっていますか?

松本:現況9人が1ヶ月休みを取得しました。対象者には始めに一ヶ月休めたら何をするか考えてもらい、それを他のメンバーの前でプレゼンしてもらいます。ですので、その内容に企画は面白いのかとか、そもそもデザイナーのプレゼンテーションとして美しいのかなどしっかりとした作り込みを求めます。1ヶ月の休みの間も給料は出るので、プロジェクトとしての側面もありますし、「あなたはクリエーターだから1ヶ月の休みをどう使えるの?」という挑戦状としての側面もあります。回を重ねるごとにハードルが上がってしまっているのですが、メンバーには臆せずどんどん挑戦して欲しいと思っています笑。

松葉:単なる長期休暇では無いということですね笑。

松本:元々1つのことで2つ3つのリターンがあるものが好きなのですが、この試みの場合、1ヶ月の休暇によって本人たちのリフレッシュにもなりますし、また会社のPRにもなります。また、このスタイルが気に入って一緒に働いてみたいという人も集まってくるなどリターンは様々です。現在20名程度のメンバーがいますので全員やれば20個の1ヶ月休むストーリーが出来てしまいます。そうしたらあらゆる可能性を網羅してしまうことが出来るじゃないかと思っています。

松葉:それは面白いですね。ちなみに働き方に関して他にも色々とアイデアをお持ちでしょうか?


  • 松本龍彦

松本:考えるのが好きなので色々と考えています。というのも、デザイナーという職種は個人で満足出来る仕事が得られるのであれば、必ずしも会社に所属するという選択肢だけではなくなってきました。もちろん、会社に属しているからこその得られる仕事とか、他の人と切磋琢磨して自分を成長させることが出来るということはあるので、一概には言えませんが、ある程度のスキルを身につけたら、独立して自分のペースで仕事をしている人もいると思います。ですので、うちでは、良いバランスをとるためにも、副業を推奨したりもしていますし、実際半分社員で半分フリーランスみたいなメンバーもいます。打ち合せには出るし、会社の名刺や電話番号は使うけど、会社の仕事もしながら自分の仕事をするというような。週3は会社で週2自分というように。会社としては、より良いものをつくりたいと思っているから、より能力のある人を雇いたい、なので、そういった多様な働き方を受け入れている次第です。今後も、良い働き方を考えつつ、多様性を受け入れ、また、会社に所属する意義についても、考えていきたいと思っています。

松葉:なるほど、実は僕も今自社の組織をどうして行くべきかという事を考えているのですが、正直、正社員として毎日出勤してもらう人を増やす必要も無いのかなと思っていました。というのもそもそもこのインタビューもですが、僕自身が本業以外のことばかりやっていて、本業の建築設計に費やしている時間は多分1年のうちせいぜい半分位だと思います。ですので、そんな人間が「毎日出勤してデスクワークを粛々とこなして欲しい」といっても正直説得力も無いですし笑。それより、建築設計も出来るけどそれ以外の能力を持っているという人に集まってもらった方が面白そうですし。そういった意味でも松本さんのお話は大変興味深く楽しく伺う事が出来ました。


協力:藤沼拓巳

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OTONA WRITER

松葉邦彦 / KUNIHIKO MATSUBA

株式会社TYRANT代表取締役/一級建築士 1979年東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了後、事務所勤務を経ることなく独立。 人生で初めて設計した建物が公共の文化施設(旧廣盛酒造所再生計画)という異例な経歴を持つ。工学院大学建築学部建築デザイン学科非常勤講師。