観光ついでに日本最南端の卒展へ!沖縄県立芸術大学卒展開催中!

2月、3月は全国で美大芸大卒展ラッシュですが、日本最南端の芸大・沖縄県立芸術大学でも卒業制作展が開催中です!世界遺産である「首里城」を後景に臨み、本土とは地理的に遠く離れた沖縄という地で芸術を学んだ学生たちが、絵画・彫刻・工芸・デザイン・芸術学という大きく分けて五つの分野での集大成を披露します。卒展シーズンと同時に春休みでもあるこの時期に沖縄行きを計画している方も多いのではないでしょうか。ぜひ、沖縄という場所が育んだ作品たちをご覧ください!遠方の方にも会場の作品をチラッとご紹介します!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

沖縄県那覇市おもろまちに位置する沖縄県立博物館・美術館を会場として、五つの分野の学生が、それぞれの集大成として作品を展示します。普段遠隔地である沖縄の芸大について知る機会も少ないなか、今回は各分野、専攻の展示風景や作品の内容などをちらりとお伝えしたいと思います。


⒈ 崩壊と再生と沖縄戦後建築……平面とインスタレーション

沖縄で描かれた絵ときいて、その色やモチーフが沖縄そのもののイメージ(赤い梯梧や青い海など)と重なる人も多いと思いますが、学生たちは今どういった表現を行っているのでしょうか。初日に在廊していた作家の何人かと話すうち、平面の中で、あるいはモチーフの再構築や移送の中で自分の周囲の環境と向き合っている表現が見えてきました。
 


  • 柴田麻千子〈風に吹かれて〉

油彩の日の出を背景に、廃材や古着を画面に貼り付けた横幅約4mある油彩画(柴田麻千子〈風に吹かれて〉)は「崩壊と再生」がテーマになっています。写真では分かりづらいですが、シリコンで盛り上がった部分や、木が飛び出している部分など平面でありながら表面のディティールはとても立体的!直接的に沖縄を示すような描写はなくとも、飛行機雲や空と海の色、サビ鉄色の廃材という要素の兼合いには、不思議と沖縄で生活している時の空気感のようなものを感じました。同時に画面右の長い木と布は旗のように翻り(よく見ると実は旗には赤い丸が…)、作家自身も初めは意図していなかった効果を産むなど、朝日と廃材という二つのレイヤーが静かに一つの画面上に存在しており見応えがあります。
 


  • 高橋相馬 〈青い小屋〉

先ほどの平面と違い、屋外に立てられた水色の小屋の中を館内から見れるようにしたこの作品(高橋相馬 〈青い小屋〉)は、4枚あるうちの正面中央の絵に描かれている建物が元になっており、小屋内部には傷んだ畳が敷かれ、襖があり布団があり赤い電球の下では映像が上映されているという多数の要素から成り立っています。作品内容の大きな枠組みとして沖縄の戦後建築というイメージが中心にあるとのことで、戦後復帰の資材が乏しかった頃によく使われた水色の塗料が印象的な、とてもリアルに描かれた建物の絵や、実はもともと風俗店だったという青い建物を実際に建てるなど大掛かりな作品であり、ガラス越しに見るという鑑賞方法も独特です。映像作品は「国際通りに巨大シーサーが現れたら?」という3~4分のもので大勢の米軍服を着た人間がシーサーと戦うシーンなどこちらも要チェック!


⒉ 羊毛と、服の起源……多様な工芸 
 


  • 南玲於奈〈まといはじめ〉〈まといなおし〉 

  • 〈まといなおし〉アップ

着物や衣服の形態をとる作品が人に着られるものとしてトルソや衣桁に掛けられるなか、このように展示されている作品(南玲於奈〈まといはじめ〉〈まといなおし〉)は少し珍しいかもしれません。素材は羊毛を中心としており、長い肩がけ紐のかばんと、見た目以上に柔らかな手触りを持ち、茜で染め織られ複数の織り方で織られた全円形のスカートは、ドレープも美しくどこかの民族衣装を思わせる出で立ちです。作家によると羊毛という繊維は、絹や木綿に対して「自分の衣服と素材(羊毛とひつじ)が同時に存在できる」という理由から採用されています。「肩からかける」ものが衣服の始まりだったという説に基づき、衣服のはじまりとしての「かばん」から、糸が布になり衣服になるという変化を二つの展示物で示した作品です。同時にこの着られていない状態の衣服の展示方法は、作家の「服とオブジェの境を考える」という試みでもあり、一工夫された面白さがあります。他にも工芸専攻は陶芸、漆芸、染色と様々あり、個人的には漆芸のアクセサリーなどおすすめです!


⒊ 方言の継承……写真と言葉のデザイン
 


  • 國吉美和〈なちがちゅーん〉より「かじまやー」

  • 〈なちがちゅーん〉冊子

こちらはデザイン専攻の作品で、夏が来るという意味の「なちがちゅーん」という沖縄方言と写真の冊子(〈なちがちゅーん〉冊子)です。被写体である作家の妹さんにちなんだタイトルだそうで、沖縄の日常的な風景を背景とし、被写体の生き生きとした一瞬を捉えた数点の写真パネルと共に展示されています。もともとこの作品は、作家自身の感じた「沖縄の若者は方言を使わない」という疑問、ある種の危機感のようなものからきています。沖縄にはかなりの数の方言の種類が存在していましたが、現在話者のいるものは少数です。そこで、話者となるわけではなくとも、その存在を絶やさない為に親と子や祖父母と孫との間に学びのきっかけを作る事、方言について考える契機となるよう制作されました。写真集には辞書のように沖縄方言とその意味、作家の一言がひらがなで書かれています。小さな子供にも分かりやすく、美しい沖縄の風景と溌剌とした少女の写真は、沖縄の風土を言葉と共に教えてくれます。携帯するにも程よい厚みとシンプルな装丁も魅力的で、沖縄独特の音を視覚的に楽しんで学べる作品だと思います。是非手にとって見ることをおすすめします!


⒋ ずばり!この展示のみどころ……場所との関係
 


  • 彫刻専攻展示風景

いかがでしたでしょうか?ここまで、数多くの作品のほんの一部分をご紹介しました。そのほか、鮫を自身の精神の表象として描いた油画や、宇宙人が出てくる映像、カッコイイ漆のアクセサリーに有刺鉄線に覆われた無限柱と銃器を持った三体のセメント像、芸術学専攻の論文要旨パネルの展示などまだまだ見るものはたくさん!県外出身者も多いこの芸大ならではの距離感が感じられる作品も見どころです。今回は、展示方法に面白い工夫がされているものや、それぞれの形で沖縄という場所に関係していると筆者が感じたものの一部を選んでお伝えしましたので、いささか偏った内容になってはいますが、ここにご紹介できなかった作品も是非お近くの方は現地で見ていただけると嬉しいです。お近くでない方には、少しでも展示の雰囲気が伝わればと思います!


第28回 沖縄県立芸術大学卒業修了制作展
場所:沖縄県立博物館・美術館、企画展示室・県民ギャラリーほか
日時:2017/2/15(水)~2/19(日)午前9:00~17:00 (金曜日のみ20時まで)

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

STUDENT WRITER

サラ / Sarah

沖縄県在住の道産子芸大生。もっぱらの関心は芸術祭や展覧会を見ること。沖縄の展覧会情報についても書いていきたいと思います。